長期滞在者
ある日突然飛蚊症が暴れ出した。 かなり前から少量、小さいのがチラチラしてはいたのだが、ある日を境に暴力的に増えたのでびっくりした。とくに右目の下方に常に塊があるので、普通に道を歩いていても右後ろから何か黒いものに追跡されているような気になる。部屋の中でついと視線を上げると、床からゴキブリが壁を駆け上がったかのような影が見える。はっきりいって相当のストレスである。 飛蚊症が大量出現したその日の夜、夜…
当番ノート 第49期
6時間28分。ある日の日曜日、スマートフォンに表示された「一日の使用平均時間」だという数字に、わたしはとてもおどろいた。じぶんのなかでもそこまで利用している感覚はまったくなかったからかもしれない。 この時季はいつもなんとなく調子がわるい。新社会人や新入生があふれ、みんながまっとうに見えて、じぶんはどこか、べつの星から来た人なのではないかとおもう。どこかに属することをできるだけ避けてきた人生が、とん…
当番ノート 第49期
「みんなと違って個性的」って、生まれた瞬間から、あなたは他の誰でもない。 *** 「個性的だね」とときどき言われると、どう反応していいかわからない。「どういうこと?」と訊き返すと、「他の人とは違う」とか「大勢の人々とは違う方向を行っている」とか「平凡じゃない」みたいな言葉が返ってくる。 わたしは他の誰とも違う存在である。その言葉をわたしに投げかけているその人だって、同じく他の誰とも違う。「大勢」の…
長期滞在者
コロナウイルスの騒動で、3月に入ってからのギャラリーはどこもお客さまの数が減っているようです。すでにお受けしているお仕事が少し残っているのですが、新規のお仕事が減っており、平日はとても静かなものです。 ぼくたちの方針としては、政府から全業種営業停止の命令が出ない限りは淡々とギャラリーを開け続けます。今のところ、展示キャンセルの申し出もなく、少し静かだけど、いつも通りを続けていこうと思っています。 …
長期滞在者
2020年の3月がこんなことになろうとは。そんな気持ちで過ごしているのは私も同じだ。 世界保健機関(WHO)が世界でのパンデミックを宣言した、新型コロナウイルスの影響による日々は、毎日気持ちが追いつかないくらい驚くようなことが連続していて、とまどいながらも、ただひたすらに、良くなる未来を願うばかりだ。 フリーランスで仕事をしてきた自分にとって「生活」を営むための問題は多々起きている。自分のことを考…
Mais ou Menos
ぴちゃん 今日もお疲れ様です。ここ数日、家のことがあまりできなくてごめんね。体調がここまで悪いと感じたのは、成長ホルモンをはじめてから、初めてだと思う。久々に、あ、死ぬかもって思ってしまったよ。こういうときに、頼れる相手がいること、心からありがたい。 2月後半ごろから、フェミニズム関連の本をたくさん読んでいます。勉強不足だと感じることがすごく多かったから。読み始めたら、他にもたくさん読みたいと思う…
当番ノート 第49期
例えばふたり同じ共通言語を持つこと、同じ曲を口ずさむこと、同じ音域の鳴声でささやきあうこと、体温がひとつに溶け合うこと、ありきたりな単語ばかりが思い浮かんでは消えて淡い湯加減のままほんわり消え去ってしまうこと。 わたしの感情をそのまんま、そっくり普通の、なんでもないひとびとの、大勢大多数の、なだからかで豊かで、ゆっくり落ちてくる流れ星のような、つるりと剥けた茹で卵のような艶々しさを、そんなきっと、…
スケッチブック
2月1日 目が覚めたら朝の4時だった。 夜と朝の間、起きると眠るの間。少なくともこの家で起きているのは、私だけ。というのはあと2時間くらいだろうから、30分でメールを返して、1時間で原稿できるとこまで進めて…と段取りを考えるも、ぴんとこない。 こんな贅沢、もっと踊ったらいいじゃないと声がする。 最近、言葉の鎖を解くことについて考えている。惰性で繋がれていたものを、いったん解いて、ほんとうはひとつひ…
当番ノート 第49期
わたしは花の名前をあまり知らない。その理由にはなんとなく心当たりがある。小さいころから、道を歩いていたりして名前がわからない花を見かけたとき、いつもそれを教えてくれる母や祖母がいたからだろう。 教わった一つひとつをきちんと覚えようとしなかった。心のどこかでまた聞けばいいとおもっていたのかもしれない。聞き覚えのある花と実際の名前を一致させていただけ。 わたしは金木犀の匂いがどれなのかも、いまだによく…
Do farmers in the dark
こんばんは!今回も何というかエッセイ、のようなものを書きました。実のところ僕のナルシシズムが極限まで高まっているからです。なぜかって?ほとんど一人で引きこもっているからだよ。だからいつも自信満々だ。ひとたび外に出ればその自信はシャボン玉のようにそよ風に連れ去られたと思いきやその直後に割れてしまうだろう。 もし僕が外に出たなら、石につまづき、通行人には遠慮なく至近距離から屁をこかれ、お世話になってい…
当番ノート 第49期
「気づいてあげられなかった」「助けてあげられなくてごめんね」とか言われると、「いや、別に結構ですけど……」ってなる。 *** 「してあげる」という言葉が苦手だ。「駅までついでに車で送ってあげるよ」とか「時間がないなら買っといてあげるよ」とかはいい。素直にありがたいと思う。苦手なのは、「気づいてあげる」「助けてあげる」「考えてあげる」「わかってあげる」という類。 「苦しんでるのに気づいてあげられなか…
長期滞在者
今月は慌ただしかった。感染症のことはもちろんだけれど、父が倒れてしまって心が落ち着かなかった。幸い私は人混みを避けて過ごせるし、父は手術がうまくいって経過良好。 誰かと話したり支え合ったりできることのありがたさを、何度も噛みしめる。身を守るために考える時間と、気を緩めるための時間の両方を作っていかなくちゃな、と思う。 2月1日(土) 玉ねぎ4個を飴色になるまで炒めていたら、家がすっかり玉ねぎ臭に・…