Do farmers in the dark
セルジィ、ある一日(後編) 前回までのあらすじ〜 ネバネバ粘菌と粉塵やオゾンでできた良く熟し腐ったアパートに住む、中年の禿げて太ったすえた匂いのするハンサムなバッポス。禿げかけで頭皮から腐った桃の匂いのする長身小太りな、美人妻のベルンパスと一緒に住んでいた。バッポスはセルジィが大好き。(セルジィ=ピッケル型固形コニャックの事) この日もバッポスはセルジィにシロップをかけて、机の上で何時間もかじって…
当番ノート 第62期
劇場で映画を観ることが好きだ。もっというなら、鑑賞直後に映画パンフレットを読むことが好きだ。 パンフレットを収集して困っていることがある。保管方法である。はじめのうちは本棚に収納していたのだけれど、判型がとにかくバラバラでちっともきれいに収まらない。縦型のA4やA5などのわかりやすいものであればまだいいが、#1『花束みたいな恋をした』などの横長ものも、#3『永遠に僕のもの』のようにそもそもが小さい…
当番ノート 第62期
劇場で映画を観ることが好きだ。もっというなら、鑑賞直後に映画パンフレットを読むことが好きだ。 今回はちょっと長いのでさっそくいきます。そういうわけで、私が手に入れた映画パンフレットのなかで「このデザインは素敵だな〜!」と思うものをいくつか紹介します。挙げるパンフレットは映画の内容に絡めたデザインもあるため、内容に触れる記述が多分に含まれます。あらかじめご了承ください。 今回は文芸の棚に並んでいても…
長期滞在者
つづき 本堂の手前まで来ると、母は「ちょっとここで待っといてくれへん」と言った。 「ええよ」 そのまま立っていてもやり場に困るので、母が本堂の中に入るのを見届けると直ぐに靴を脱いで、本堂に上がっていった。 本堂の中では、多くの人達が祈っていた。 人が祈っている現場を長く見ていると罰が当たると思い、長い廊下を歩いた。 廊下ですれ違う人達と会釈をしながら、まるで幼い頃から毎年ここに通っているかのように…
当番ノート 第62期
劇場で映画を観ることが好きだ。もっというなら、鑑賞直後に映画パンフレットを読むことが好きだ。 自分勝手な理由で、ほんのちょっとだけ、レジ袋有料化を恨んでいる。施行前にパンフレットを買うとほとんどの場合がはじめからビニール袋に入っていた。少しだけ袋から中身を出して「お間違いありませんか?」と確認する流れ、あるいは確認すらしないこともあった。袋から取り出してはじめて全貌がわかる楽しみがあったのだ。マイ…
長期滞在者
日の落ちた後の淀川の堤防を、下の側道から見上げていた。土手の上、青い闇の中に遠く人影がひとつ見えたので、首から下げていた一眼レフでその人物にピントを合わせてみる。マニュアルフォーカスのレンズだったので、指を動かすとゆっくりとその青闇のぼやけた中から、ファインダーの像面に人影が立ち上がってくる。人物は闇に溶けかけており、遠い土手の上で縮尺も定かでないが、なんとなくの体型で男の人のようである。ファイン…
当番ノート 第62期
劇場で映画を観ることが好きだ。もっというなら、鑑賞直後に映画パンフレットを読むことが好きだ。 最近ではNetflixやDisney+などの台頭もあってか、パンフレットがはじめから制作されていない作品をしばしば見かけるようになった。2月に公開された『アンチャーテッド』や昨年の『最後の決闘裁判』『フリー・ガイ』など、制作会社や配給がどういう形で関わっているのかはわからないが、やっぱりすこしさびしい。そ…
当番ノート 第62期
劇場で映画を観ることが好きだ。 もっというなら、鑑賞直後に映画パンフレットを読むことが好きだ。できるならロビーそばの椅子やソファーがいい。スクリーンがひらくのをそわそわ待っている人、満足そうに劇場を出てゆく人、不満げな表情をしている人……ざわめきが多いところであれば、なおいい。ほとんどの場合、パンフレットは映画館しか売っていない。それも対象作品が上映している期間だけである。パンフレットを買うことで…
当番ノート 第61期
アパートメントで連載をさせてもらって、怪談をひとつも話したことのない友人から連絡を貰いました。 「こういうのすき。わたしも変な体験した家があること思い出しちゃった」 そうして聞かせてもらったおはなしです。 あやちゃんは、お家の事情でお引越しを10回以上経験しています。そのアパートには、あやちゃんが二十歳から三年間ほど、お母さんと妹さんと三人で暮らしていました。 あやちゃんがそのアパートで暮らし始め…
当番ノート 第61期
滝薫というアカウントは、趣味で短歌を作っていたのをエッセイ投稿サイト用にしつらえたもので、年月にすると結構長い付き合いになる。生活力や経済力が全くないのを見ないふりをして、文章で食っていくのを夢見ていた月日がそっくりそのまま保存されている。 今の私は、ライターになりたいと思っていない。関心もあまりない。というと、負け惜しみのようで嫌だが事実なのだから仕方ない。しかし、出涸らしのように未練だけは一丁…
長期滞在者
1997年8月30日。インディーズ時代から大好きなバンドが初めて日本武道館でワンマンライブを行った。ずっと日本武道館の実現を応援して、彼らの夢が現実になったその夜は胸がいっぱいだった。 同時に、自分がまだ果たせていない私の夢を必ず叶えようと思ったその帰り道、まだ持ち始めたばかりの携帯電話が鳴った。電話から伝わってくる声はこう告げた。「大阪に来ませんか?」と。 2022年3月27日。ネモフィラの青い…
長期滞在者
「今度、奥多摩の宿坊行こうよ」と久々にYからグループLINEに連絡があり、高崎在住のTも含めた3人で宿坊に泊ることになった。 遠い先の予定を決めることがもともと苦手だったが、気心の知れた大学時代の友人なので、あまりプレッシャーとなることもなく当日を迎えられた。 普段、奥多摩方面に行く機会がなかなか無いので、待ち合わせ時間の前に、拝島に住んでいる大学時代のサークルの後輩Kと久しぶりに朝会うことにした…