長期滞在者
さて、そろそろ夏である。 夏であるからにはもうすぐ休みを取り海に行くであろう。 おそらくそれは南仏あたりであったら素晴らしいであろう。 そして海パン一丁で海辺に寝そべったり、 そこに大きなタオルを羽織ったくらいの格好で海岸を徘徊したりするであろう。 今ちょうどそのための旅行計画などを立てているところなのだが、 特にそういったビーチ関連の状況を想定するたびに 前回取り上げた問題が心に引っかかるように…
当番ノート 第39期
早いものでこの連載も折り返しを過ぎました。 徐々に温めていくということがなく、初めからアクセル全開だったので、続けて読んでくださっている方は少し息切れがしてくる頃かもしれません。今回と次回は少し気分を変えて、「写真」について扱ってみようと思います。 どんなことを書こうか、ずいぶん悩みました。 でも、なるべく先入観をなくして見てもらいたいと思うので、今回は写真をメインにして、文章はあんまり書かないで…
日本のヤバい女の子
【7月のヤバい女の子/「あげまん」とヤバい女の子】 ● 炭焼長者の妻 ――――― 《炭焼長者(再婚型)》 東の長者と西の長者は仲が良かった。 長者の妻が揃って妊娠していたある日、二人は待ち合わせして馴染みの釣り場へ出かけていった。 流木を枕にして休憩しているうちに東の長者は眠り込んでしまう。西の長者が一人で起きて潮の様子を見ていると、どこからかボソボソと話し合う声が聞こえてきた。 見ると、自分たち…
当番ノート 第39期
ハロー。 今はもう夜中の2時。部屋の明かりを落として、小さな音でFMをかけながらこの手紙を書いています。僕の住んでいるところは夜がふけるにつれて周りの音がしんとして、こうして夜中まで起きていると、僕とこのラジオのパーソナリティだけが存在しているような、そんな気持ちになる。近くに大きな川があり、緑に囲まれた渓谷もあって、自然に囲まれている。とても満足しているよ。君の住むところもとてもいいところだよね…
長期滞在者
4月、わたしは小さな選択をした。ずっとやりたいと思ったことに、挑戦しないという選択だ。 挑戦をしないというのは、諦めのようでもあるし、成長を拒むような行為に思えるだろう。だけど、自分ときちんと向き合ったときに、今が挑戦のタイミングではないことは、自分自身がなによりも理解していた。今のわたしに必要なのは、新しい挑戦でなくて、今の自分の置かれている状況で、いかに健やかに生きていくかということだ。 わた…
ギャラリー・カラバコ
ある時ポストにこの部屋の地図と鍵が入っていた。 メッセージはなし。 ただ、「ギャラリー・カラバコ」 と。 宛名間違いだろうか? と封筒をじっと見てみたけれど、そこには確かにわたしの名前がある。 差出人の名前はなし。 ただのいたずらかもしれないけれど面白そう。 絵を見るのは嫌いじゃないし。 そう思って地図を辿ってみた。 とあるアパートの一角にそのギャラリーはあった。 鍵を開けると、ギャラリーらしい真…
当番ノート 第39期
正直であることは雄弁と徳業との秘訣であり、正直であることには道徳的な影響がある。真実は雄弁と美徳の秘訣であり、倫理的根拠の基礎であり、美術と人生の極地である。(フレデリック・アミエル) その日は、レッスン生が私ひとりだった。 まだ通いはじめて間もないころのレッスン日だ。普段は3~4人はいるはずのレッスン生たちが、その日は誰も他に来なかったのである。 まだ親しんでいるとはいえない先生二…
当番ノート 第39期
大学生の時、飲み屋で働いていた。大学近くのJR中央線の駅から歩いて数分のところにあり、都心から離れていることもあって、その辺りに住んでいる人や近くで勤めている人も多かった。みんなよくこの辺りのことを知っていた。どちらかというとお客さんに若い人はあんまりおらず、大人の男性客が1人で来るようなお店だった。 家族経営の小さなお店で、そこにアルバイトとして女の子が1人、交代で入っていた。自宅最寄りを通る最…
長期滞在者
街に声を響かせるということは初めての経験だった。 2018年6月16日。 UNHCR駐日事務所、国連UNHCR協会主催「世界難民の日」 ソーシャル・アクション in 渋谷 #難民とともに。 6月20日の世界難民の日を前に、渋谷駅ハチ公前広場に、難民支援の現場でこれから使われる予定の最新型テントを設置。 テントの中に入って、避難生活を疑似体験することで難民について知る機会を設け、 オンライン署名や寄…
当番ノート 第39期
一歩、二歩、三歩。 男の歩幅に合わせて後ろ向きに歩く。三歩めで、左足を右足の上に重ねる。 すると、男の手が私の背中をゆっくり引き寄せる。 『前に出て』 その要求に私は応える。左足の下の右足を旋回させ、左足を軸にななめに一歩前進。 だが進んだ先で、ふたたび彼の両手に体を引き寄せられる。 『正面に戻ってこい』 男の手が告げ、私の背中が伝える声。 私はすぐさま従う。 彼の伝言を理解できる…
長期滞在者
ガードレールに挟まれた狭い歩道を通ってゆるい坂を登る。 左側に立つ電燈を過ぎると、自分の乗る自転車の影が右側のガードレール上に突然出現し、俊敏な黒い犬のように前方に駆け出して溶ける。 坂を登りきるまでに3つある電燈が、3匹の黒犬を走らせる。 毎夜通る坂道、毎夜見るガードレールだが、わかってはいても黒い犬の出現にはぞくぞくする。 昔読んだ漫画に出てきた、攻撃用に訓練された犬は世界最強だ、なんていうセ…
当番ノート 第39期
「海」 寝苦しくて真夜中に目が覚めた 外を見ると高層ビルの光が揺れていた そうじゃなくて 窓の外を見たらイカ釣り漁船が ぽつりと浮かんでいるのが良いよ あの場所へと私を連れて行って コンクリートジャングルの中でも私は瞼の中に映し出す 目を閉じると轟きが聴こえる ・ ・ ・ 人がほとんどいない浜に絶えず白波が打ち寄せる。冬になると、まるで空と同化したかのように辺り一面灰色になる。 私にとって、長らく…