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お直しカフェ (18) お片付けとお直しの似ているところ

お直しカフェ

前回に引き続き、オンラインでのワークショップ開催に際して、ちくちくとお繕いをしながらぽつりぽつりとおしゃべりしたことをお披露目します。今回は、片付けコンサルタントの大浪優紀さんとの対談。この時、それぞれ手元で、大浪さんは布巾の穴を、私は靴下の穴をお直ししています。

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大浪優紀(以下、うき):お片づけの依頼は女性からが多くて、9割方ファミリーのひとたち。元々ご夫婦とも自分のモノが多くて、子どもが生まれてどんどんモノが増え、それが二人目三人目と増えるうちに「もう、どうしようもないから来てください」というパターン。結構切羽詰まってる人が多いです。ときどき、ゴミ屋敷みたいなところもいきます。「玄関入れないけど」みたいな。

はしもとさゆり(以下、はし):ご依頼は、ご本人から?ご家族から?

うき:片付けって、いまだに家事として女性がやることが多いんですよね。なので、だいたいは、困り果てたお母さんが「どうにかしてください」って、連絡をくださることが多いです。ごくたまに、男性の方から「うちの家族の片付けを手伝ってください」という連絡を頂くこともあります。珍しいけど、旦那さんの方が危機感を持っているパターン。「妻がひとりで頑張っちゃってる状態なのでお願いします」っていう。

片付けってやっぱり持ち物の話なので、何を持つかっていうところ。結局そこの判断がもうできなくなっちゃって、困ってしまったり、あとはやっぱり、自分の欲をどこで抑えるかみたいなところ。物欲とか。そこが底なしになっちゃってて、いくらモノを持っても満足ができず、みたいな。

はし:ええ! 興味深い。

うき:面白いですよね。私も仕事するまでただ片付けるだけと思ってたんですけど、結構深くて。ヒアリングがカウンセリングみたいになってます。最初に伺うときに必ず「悩みはなんですか」って聞いて、片付けというよりも、何に悩んでるんですか、っていうところからお話しをします。

はし:お直しも結構それに近いところがあるかも。直してまで使いたいものをご持参いただくことが多いので、「直せてよかったです」「使い続けることができます」とか「家で持て余してるお母さんのワンピースももしかしたら直せるかもと思えるようになりました」とか。

うき:すごい。いいですね。でも、直してまで使いたいモノを持ってるっていうことが、なかなかないんですよ。私がひとの家を片付けてる限りだと。

はし:え。

うき:逆に「捨てたらいいじゃん」「壊れたら買い直せばいいじゃん」っていう。だから、直してまで使いたいものがあるっていうのは、今の時代、幸せなことだなと聞いていて思いました。

はし:お直しのいいところは、一回直しちゃうと捨てられなくなるところかもしれないです。例えば、今私が直してるのは、家族の、おそらく一足300円ぐらいの何でもない靴下だけど、お直ししちゃうと、私がそこに1時間とか2時間とか費やしてることになる。ユニークネスができちゃうので、ちょっとやそっとじゃ捨てられなくなる。

ひとつ注意しなきゃいけないのは、お直しをすると、網目に対して違う糸がかかるので、布地の調和がちょっと崩れる。だからお直しをした、そのまわりが穴が空きやすいという、お直しあるあるがある。ダメージジーンズとかもと同じだと思うんですけど。

うき:お直ししたまわりが破れてきちゃうってことですか?

はし:そうそう。強く糸を張ることで、負荷がかかって、まわりが破れてきちゃうことがある。なので返し縫いを入れたり、力を分散させるように工夫したりしてみる。でももう、そういうもんだって、そもそもが穴が空くくらい、負荷がかかりやすい箇所なので、「繰り返しお直しができて楽しいですよ」って開き直る。これを楽しむ心を持ってやる。この赤い靴下とか。

うき:すごい。もう芸術のよう。それって穴自体大きいんですか?それとも、補強して補強してを繰り返した?

はし:これは最初、つま先の爪分ぐらい穴が空いてて、薄くなってたところと合わせてお直ししました。それでその繰り返し。私は、穴が空き切る前に、薄くなった時点で直すのが多いです。空いちゃうと空いちゃわないとでは、力のかかり方が変わってくるので、空く前に見つけてよけときます。

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チクチクチクチク

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はし:ところで、お片づけしたときに出る、もういらないっていうモノはどうしてるんですか?

うき:今は捨てるしかないないんですけど、本当は捨てたくないので、迷ってるところです。でも、例えば、多い方だと3時間片付けをしただけで、服だけでゴミ袋12個とか出る。それだけ持ってるってことなんですよね。そうするともう1着1着、処分するのは無理な量が出ちゃう。お直しとかできる量じゃない。

私は、お片づけ期間中は、しょうがないと、腹を括るしかないと思うようにしています。じゃないとお片付けが進まない。でも、お片づけが終わったあとに、その人がモノを大切にできるようなレクチャーを行って、お直しの方法があるよとか、リメイクができることを伝えています。

本来、モノを捨てたい人はいないので。みなさんできたら大切にしたいという気持ちはある。でも、その前に家が片付いてなさすぎて、普通の生活ができなくなっている。まずは、その問題を解決してから、地球に優しく、モノを大事に、生活できるようになりましょうと伝えています。


はし:実家の片付けも似ていて、いきなり大量のモノが出てきちゃうんですよね。行政のリサイクルセンターとか、処分してもらうところに持っていくというのはひとつだけど、うまいもらい先はないかな、どうしたもんかなと。

うき:そうなんですよね。ただ、古着の寄付は、もういらないっていうぐらいあるらしくて。以前、子ども服とかを児童擁護施設とかシングルマザーの方のシェルター施設とかにどうかなと思って問い合わせてみたこともありますが、受け入れしているところは見つかりませんでした。

ある施設は、一時期受け入れてたらすごい量が来て余っちゃって、捨てるしかない。しかも、事業用のゴミになってしまってコストもかかるので、今はもう受け付けてない、という話だそうです。特にお洋服だと難しい。それで、もう行き場がないんだなというのをすごく感じています。だから、やっぱり、目の前のモノを大事できるようになることが大切だなと。

はし:うーん、処分は手間とお金がかかるんですよね。とか言いながら、近所の町家に、空き家を片付ける業者さんとか来て、すごい勢いで中のモノが処分されているのを見ると「ちょっとください」って言って、椅子とかもらって来ちゃう。「助けなきゃ」という気持ちになる。

うき:そうなんですよね。そこのマッチングが上手くいけばなと思います。私が仕事をしてる立地のせいもあるかもしれないけど、例えば、東京、広尾のお客様とか、ブランド服でも捨てちゃうんですよね。「これもういいかな」っていう感じ。私が「お金になりそうだから何かに出しますか」って声をかけても「いや、もう捨てていいです」って。セリーヌとかプラダとか、そういうレベルのハイブランドを。

はし:すごいな。ある程度のラインのは引き取ってきていいんじゃないですか。

うき:引き取ろうかとも思うんですけど、今はそのままお客様の判断に任せています。

はし:本当に、いいマッチング先があるといいですね。

うき:そうですね。それが独立したこの1年でわかった、次の課題ですね。(完)

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そして、手元のお直しも無事に(完)。ドン!

はしもと さゆり

はしもと さゆり

お直しデザイナー。企画と広報、ときどきカフェ店員。落ちているものとお直し、マッサージとマイケルジャクソンが好き。

Reviewed by
Maysa Tomikawa

小学生のときからの親友の部屋の空調が、とうとうだめになってしまったらしい。買い替えのために、業者さんがくるからお片付けを頑張っていると聞いた。小さな部屋なのに、もう十袋もゴミが出てしまったのだそうだ。長年、一箇所に留まって生きると、否が応でもモノが増えてしまう。根が深ければ深いほど。仕方がないことなのかもしれないし、避けることができたことなのかもしれない。真相はどっちなんだろう。


お片付けとお直しは、たしかにしているような気もする。どちらにも共通するのは、「なにを大事にしたいのか」を考える時間が必要っていうことなんだと思う。片付けをしたい理由は人ぞれぞれだと思うんだけれど、でも、片付けることの最終的な目的は、「より心地よく生活すること」に尽きる気がする。

お直しも同じなんじゃないかな。どこかにシミがあったり、穴があったりすると、やっぱり気になってしまうし、気持ちよく着られない。捨てたらそこで終わりだけれど、お直しによって生まれ変わったり、進化したら、もう一度気持ちよく着られるようになる。そうやって、なにかを大事にすることは、自分のことを大事にしたり、他者を大事にしたり、自然環境や、様々な労働者や、それら消費に関わるいろんな人を大事にすることにも、もちろんつながっている。(大風呂敷を広げているけれど、リアルな話。)

ふたりのお話をきいて、片付けることもお直しをすることも、人のこころにとってとても大事なことなんだなって再確認したりして。わたしの親友は、今どんな気持ちでお掃除を頑張っているんだろう。お掃除が終わって、新しい空調が聞いた部屋でどんなことを思うんだろう。そういう、人のこころについてもっともっと知りたくなった。

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