過去 #3

第9期(2013年6月-7月)

僕は小学生のとき、朗らかないじめを受けていた。

「朗らか」と表現したのは、いじめる側にもいじめられる側にも
独特の「しめっぽさ」がほとんどなかったからだ。
いじめる人たちにも深い意味はなかっただろうし、僕も笑いながら嫌がらせを受け続けた。
それは「弄り」と言ったほうが正しいかもしれないけれど、
それでも「いじめ」かどうかを判断できるのは、受けた側にしかできないことだと思う。

小学2年のある日のことだった。

帰り道が同じのクラスメイトが、少し距離を保ち、あとをつけながら
僕の容姿について、言葉の嫌がらせを投げかけてきたことがあった。

背中から聞こえてくる嫌がらせに耐えながらも、彼はそれを繰り返した。
僕は我慢できずに咄嗟に足下に落ちていた小石を彼に向かって投げた。

ただの威嚇のつもりで投げた小石は、緩やかな放物線を描き彼の額に直撃した。
少し考えれば分かることだったかもしれない。決してそんなつもりではなかった。

それなのに彼の額からはたくさんの血が流れ始めた。

僕は動揺しながらも、彼と一緒に学校まで戻り、保健室に連れて行った。
結局、怪我は大事至らず、彼も僕も次の日には何事もなかったかのように学校に行った。

あの日、保健室で僕は担任の先生からこう問いただされた。

「わざとしたのか?」

僕は、どう答えてよいかわからずただただ黙り込んでしまった。
なぜなら僕はその時まだ「わざと」という言葉の意味を知らなかったのだ。

どう答えたにせよ、僕は彼にひどいことをしてしまったし、
起こってしまったことはもうどうすることもできなかっただろう。

あれから30年経った今でも、僕はその言葉の意味についてしばしば考えるときがある。

わざとじゃない。

もし戻れるなら、もし可能なら、今すぐにでも足下に落ちていた小石を拾う前に戻りたい。
そして7歳だった僕の耳もとでこうささやくのだ。

「君は、わざと、という言葉の意味を知っているか?」