「知ってしまったら戻れない愉楽の世界へ。」【lynch.「EVOKE」(2015年8月5日リリース)】

第24期(2015年12月-2016年1月)

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アパートメントの連載が決まった時。
当初は朗読ライブで読むような詩や言葉を書き下ろしていくことをイメージしていた。
そんな時、lynch.のライブを観た。

「この曲に対して私はどんな言葉を乗せるのだろうか。
改めてそのことに時間をかけて深く向き合ってみたいと思った。」

一回目に書いた私のこの気持ちに火をつけたのは、lynch.だ。

2010年4月から2014年3月まで担当した、FM-FUJI「ROCK IN BOOTS」。
ヴィジュアル系ロックバンドを紹介する番組。
Angeloやナイトメアなど、イベントの司会などでこれまでは点で仕事をしていたシーンを、毎週紹介していく。
最初はどこから伝えていこうかと随分迷った。
番組の一回目の一曲目は、vistlip「STRAWBERRY BUTTERFLY」。
番組ディレクターからこのバンドを応援していきたいと渡された音資料を聴いた時に、あ、この曲は好きだと思った。
広がりのある綺麗なメロディーと夢へ向かってまっすぐ進んでいくような曲の力と共に、
新しく始まったヴィジュアル系の番組に全力を注いでいく決意をした。

番組を契機に、アーティストとのレギュラー番組も担当するようになった。
「音旅 -ototabi-」(INORAN)、「DIAURAのDictatorial Radio」(DIAURA)と、かけがえのない経験をした。
また「音旅 -ototabi-」では、SUGIZO氏にゲスト出演して頂き、これをきっかけにその後、
難民支援の現場でも多大なご協力を頂いている。

ヴィジュアル系の世界を知り、伝えていくこと。
私が生きてきた中で、それはなくてはならない関わりとなった。

「ROCK IN BOOTS」を担当していなければ、知ることがなかったバンドは多い。
lynch.はそんなバンドの一つである。

lynch.アパートメント
lynch.に対して強い関心が芽生えたのはあの歌舞伎町だった。

2011年6月1日。
これまで長くインディーズシーンで活動していたlynch.のメジャーデビューアルバム『I BELIVE IN ME』がリリースされた。
その日、彼らは新宿歌舞伎町、コマ劇場前でフリーライブを敢行した。

私は新宿に生まれ育った。歌舞伎町は幼少の頃から慣れ親しんだ町だったが、
出来上がったステージを前に、こんなのは見たことがないとまず驚いた。それだけで刺激的だった。
歓楽街での爆音は爽快だった。

「歌舞伎町、ロックバンド初のフリーライブ。誰もやったことがないことをやりやがった! という興奮で、愉快でたまらなかった。ロックを好きでいると、こんなとんでもない景色が見れるんだとかっこよすぎて涙出た。刺激的で、攻撃的で、音楽のかっこよさをとことん見せつける、唯一無二の存在となっていく予感を感じた。ここから先、おもしろいことになりそう。lynch.の存在が無ければおかしくなってしまうくらいに、どんどん、虜にして欲しい。」

当時、自分のブログにこう綴ったように、
それからはリリースの度に番組で曲を紹介し、ライブにも足を運んだ。

「ROCK IN BOOTS」という番組が終わった時、
番組が終わっても応援し続けたいバンドを手帳に書き出した。真っ先にlynch.の名前を記した。

2015年10月7日。
個人的なことだが、この日は、生と死と向き合うことから逃れられない日だった。
私はこれから起こりうることに、音楽を必要としていた。
タイムリミットが近づく中、30分だけ時間を作って、新宿のタワーレコードに行って、
聴きたいと思っていたいくつかの作品の音を自分の中に取り込んだ。
ちょうど、lynch.の最新アルバム『D.A.R.K. -In the name of evil-』の発売日だった。
迷わず試聴機のヘッドホンを耳にあてた。
すっと入ってきたその音に、やはり彼らのロックは「信頼」できると感じた。

無性にアルバムの音楽をライブハウスで体感したいという気持ちに駆られ、
2015年10月20日、HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3のライブへ行った。

単純に心底楽しかった。
「えっ?もう終わり?」という感覚は、久しく感じていなかっただけにたまらなく満たされた。
ライブハウスの楽しさが好きだ。ライブハウスの匂いや空気が凄く好きだ。
ライブ後のたくさんの笑顔を見ているのも本当に好きだ。

そう、そこには、自分自身が一番「好きだ」と思うことしかなかった。
あぁそうだった。私はこうやってライブハウスに行ってバンドの音楽に触れて、
それを伝えたくて歩んだ先に今の私が在るのだから、
アパートメントでは、私が言葉を生み出す原点である、一番好きな音楽への言葉を書こう。
だから、この連載を“曲紹介”にしていくことに決めた。

その夜、印象に残ったのが「EVOKE」の“3 2 1 Let’s go”の部分だ。
至極シンプルな言葉だ。だけど、それがいい。
初めて観た人から、常に彼らのライブに足を運ぶ人まで、あっという間に一つになれる。
その後、私はライブでこの瞬間を心待ちにしてしまう。
さぁ行くぞ! と言わんばかりの、あのわくわく感がたまらない。

lynch.のライブを一言で表現しようすると私の頭には「真実」という言葉が浮かぶ。

撃実なる姿勢で彼らは音楽を貫く。
烈々たる闘志が観客を覚醒へ導く。

2016年1月13日に発売されたLIVE DVD『HALL TOUR’15 THE DECADE OF GREED -05.08 SHIBUYA KOKAIDO-』を見ても、その姿は明らかだ。

このライブ映像はlynch.の作品であると共に、渋谷公会堂の歴史を刻む大事な記録でもあると私は感じた。
私自身、渋谷公会堂には何度行ったことだろう。
そして、渋谷公会堂でライブが出来ることに特別な想いを抱いていたミュージシャンがどれだけいたことだろう。
あの日のlynch.は、渋谷公会堂に刻まれた数多くの伝説的なライブに匹敵するほどの、
彼らだからこそ奏でることができるロックをホールに響かせ、
lynch.というバンドの持つスケール感をまざまざと見せつけた。

ロックバンドが駆け上がっていく姿を見続けていくことは心が弾む。
ヴィジュアル系シーンでは「次に誰が武道館に行くのか!?」ということがしばし話題になるが、
現在このシーンのバンドが次々と武道館のステージに立てているかというとそうではない状況が続いている。

この渋谷公会堂のライブを経て、
lynch.がそのステージに立っている姿を具体的にイメージすることができた人は多かったのではないだろうか。
私はそう感じた。あぁ、これは、この音は武道館で聴くんだな。当たり前のように、現実的に感じた。

ライブハウスという至近距離の楽しさ。
日本武道館という夢の実現を観る感慨。

このどちらにも私は悦びを感じる。

lynch.のライブは、音が鳴った瞬間にぎゅっと心臓を掴まれたような気持ちになる。
切なさと激情の入り混じった彼らの音楽は、余計なものを私から遮断する。
音楽に身を任せればいい、ただ、感じればいい。

気持ちよくなったら声を出せばいい。
好きだと思うなら手を伸ばせばいい。

そして、懇願するこちらの欲望を憎らしいような笑顔や冷静な瞳で見つめ返すのだ。
今以上の悦びをあなたに与えますよと。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜7秒〜15秒”に乗せて)

まだ聴いたことがないロックの熱さに身を焦がしたい。
そんなあなたに迷わずに私から薦めたいバンドが、lynch.です。

知ってしまったら戻れない愉楽の世界へ。
彼らのライブで体感して欲しい一曲を。

lynch.「EVOKE」