走ること、変わること

第29期(2016年10月-11月)

ガチャ・・・・・パタン・・・。
静かに家を出て扉を閉める。
アパートの廊下にはまだ明かりがついている。

朝の5時半。

すーっと息を吸い込む。
まだ暗い早朝の空気が身体の中に入ってくる。
朝露の香りと水分の多い空気。
この空気が好きだ。
夜の間に、せっせと作られていたような新鮮な空気。
昨日の終わりと今日の始まり、このわずかな時間もとても好きだ。
パッと切り替わるわけではなく、昨日からの続きのまま徐々に今日を迎える。

まだどの家も眠りについている。
明かりのある家からは、動き始めた音や、微かにガスのにおいがする。
家の中の温かい空気が、外に居ても伝わってくる。
外は、昨夜のままの星が輝き、月もまだ空を照らしている。
もうすぐ、昨日から今日に変わり始める。

私は走り出す。

夏の終わりから走り始めた。
毎日とはいかないけれど、朝起きれた時は必ず走るようにしている。
私は日々いろんなことを考えてしまい、頭の中がぐるぐるすることが多い。
考えてもしょうがないこともあるし、負の気持ちに自分が捕らわれてしまうことも嫌だった。
心の余裕、仕事の余裕、体力があれば、大体のことはなんとかなるのではないかと思い、朝走ることを始めてみたのだ。

何か自分を変えたいと思っていた。
もうここまで年齢を重ねていると、自分の性格のいいところも、直したくても直せないところもわかってくる。
同じような失敗をしてしまうし、反省してもまた繰り返してしまう。
うまく自分自身をコントロールして、自分の苦手とするところは見ないように蓋をした。
人から評価されること、人からどう見られるかばかり気にして、臆病になる。
相手の反応を気にして、自分の思っていることを伝えることができなかった。
自分と違う人だから理解してくれないかもしれないという思いがあった。
そんな自分を変わること、変えることに恐れていた。
でも、本当にそれでいいのかと自分自身に思うこともあった。

スッスッ、ハッハッ。
呼吸に集中して、一歩一歩前に進む。
小学生の時に習ったマラソンの時の呼吸の仕方。
今でもこんなことは覚えているのだなと思い、実際にそれをしている自分がいる。
考えていることが頭の中に浮かんではくるが、足を動かしているからか、そんなに気にならない。
考えが浮かんでくるほうが、残りの距離に気がいかないので、楽かもしれない。
足を止めようかと思う時がある。もう、歩いちゃっていいんじゃないの?と。
あの角まで行って、きつかったら歩こう。歩いていいことにしよう。
けど、その場所に着いても歩くことはなかった。
さらにに先の場所を目指して、走り続ける。足が先へ先へと進んでいく。

「晶乃ちゃんは変わらないね。」学生時代の友人に会うとよく言われる。
私は私を続けているから、変わったように思えない。
自分自身のことだからわかりにくいのだと思う。
近すぎて見えないし、気づきにくい。
30歳の誕生日が近くになると、私は自分自身の変化を求めていた。
走ろうと思ったのも、きっと変化に繋がると思ったからだ。
今までの自分に何かをプラスさせて強くなりたいと思っていた。
20代と違うのだと自分で思いたかったのだと思う。
こつこつ地道に積み重ねて、気付いたらここまで来ていたという変化が、今の自分には必要な気がした。
そこに行き着くまでは、前だけを見て走り続けようと思った。
日々続いている中で少しずつ変わり、気づいたら変化していくのだと思う。
夜と朝のように。昨日と今日のように。

川沿いを走り続ける。
空が白くなってくる。
気づいたら星はもう見えない。月は白くまだ空に残っている。

川に白鷺が一羽いる。
置物かと一瞬疑うが、白鷺が静かに川の中にいる。
気配を消しているのか、全く動かない。
私は走りながら白鷺を凝視してしまう。
全身が白で覆われ、落ち着いた表情で、静かにただそこに居る。
きれいだ。
この川に白鷺が来るなんて。どこから来たのだろうか。

東の空が明るくなってきた。
燃えているような明るさだ。朝焼けが美しい。
この朝焼けを見たいがために、走っているのもある。
直視すると眩しくて目をそらす。
力強い太陽の光が今日に入ってくる。
昨日が終わり、今日が始まろうとしている。
こんなにもエネルギーを感じる光から、朝が始まる。
何年も。
繰り返し。

今日が始まる。

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2ヶ月、お付き合いいただき、ありがとうございました。
生きていく中で、こんな機会があると思っていなかったので、驚きと新鮮とそしてやっぱり悩んだ2ヶ月でした。
最後は習慣になりつつある、早朝のランニングのことを。
このランニングの時に、ここで何を書こうかと考えたり、気に入る文章が思い浮かんだりしました。
今思うと、自分が自分と向き合う時間だったと思います。

人からの評価や、人からどう思われるかを気にして生きてきました。
気にしすぎてしまうあまり、自分の考えを人前に出すことや、伝えることが恐かったのです。
そんな私だから、アパートメントに入居すると決めた時も、決めたくせに「どうしよう」と不安になっていました。
最初の公開の時は、1時間前からそわそわしていました。
公開された直後は、人からの評価が恐くて吐きそうになっていました。
でも、そこから毎週コラムを書いて公開して、感想や反応をいただいて、また書いてを繰り返していたら、
自分の考えを伝えることや、人からの反応が不思議と前みたく恐くなくなったのです。
自分でも驚く変化でした。
ちゃんと受け止められる自分がいました。

私の入居を快く受け入れてくださった、アパートメントの管理人の皆さん。
素敵なこの場所を紹介してくれた、喜屋武くん。
毎回1番最初に読んでレビューを書いてくれた、なかっちゃん。
私の文章を読んでくださった、読者の皆さま。

この2ヶ月、書く時に毎回聴いていた、高木正勝さんの音楽。
行き詰った時に触っていた、石垣島で拾った珊瑚たち。

皆さんのおかげで毎週コラムを書きあげることができました。
ありがとうございました。

30歳、良いスタートが切れたと思っています。
このアパートメントでの暮らしは、素敵で幸せな日々でした。
お別れは少し寂しい気持ちですが、ここでのことは忘れず胸に刻んでおきます。

またどこかでお会いしましょう。

田中 晶乃

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