ただそこに在る、ということ

第37期(2018年2月-3月)

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長野県松本市のほど近く。
大きな山々に囲まれた、静かな町。
山からごうごうと流れてくる水の音、石畳の道、夏はスイカ畑の農家の方がかけているラジオの音が聞こえる。
そして冬はとても、寒い。

夫の実家に帰省すると、二人でよく散歩に出かける。

雪がたくさん降った、数年前の冬。
積もる雪を踏みしめながら、その町にある古い神社へ歩いた。

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静寂の中、まさに「しんしん」と降る雪。

耳の奥が震える。

雪の粒が地面に着地する音をも耳で追ってしまうような、深い静けさ。

高い木々が生えた社の裏が、お気に入りの場所。

葉からこぼれ落ちる粉雪に、木の間から微かに見える太陽の光が当たって、ガラスの欠片のように頭上にキラキラと降り注ぐ、降り注ぐ。

たった二人で、世界の、もうひとつ深い場所にいるような、
とても怖くて、美しい時間。

またあの場所に行きたいと想う、静かで、大切な場所。

 

夫の生まれ育った町、高知にも時々足を運ぶ。
市内からずっと離れた駅でレンタサイクルを借り、お弁当を買ってあてもなく走る。
ちょうど田植えが終わった頃、短い苗の緑が風にそよぐ。
鳥が足をパタパタと動かしながら駆ける速度を上げ、地面から空に飛び立つ姿を幾度も見た。
新しい道を見つけては、ぐんぐんと自転車を走らせる。

数年前から、旅先で出会った風景の中で踊る、ということを続けている。
「tu」というタイトルで、意味は「ただ」。

私は劇場やスタジオだけでなく、どんな場所でも、自分が「ここで踊りたい」と感じた場所で、踊る。
景色の中で、地面を踏みしめる音、その場に漂う空気や雰囲気、様々な出来事と一緒に踊ってみたいと心身が渇望する。
そしてまるで会話をするような感覚で、景色と対話する。

高知でも、そんな風景に出会った。

からだの赴くままに踊り、ふ、と立ち止まると、
びゅんっと、吹く風を感じた。

ただ、そこに在ること
そこに立つことで見えてくるもの、感じるものを
風景は教えてくれる。

「tu」いくつかの風景で踊っています

日々、踊ることを通して出会う人や、感覚、感情を自分の言葉で綴っていきたいと思います。
二ヶ月間、どうぞよろしくお願いいたします。