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「2つの国を繋ぐ、大きな温かい愛」【SEVENTEEN「고맙다 (THANKS)」(2018年2月5日リリース)】

長期滞在者

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昨年の4月のこと。ラジオレッスンの新入生の生徒が、レッスン後に1人でそっと近づいてきて、こんな質問をされた。

「先生、韓国のアーティストを好きなことをあまり話さない方がいいですよね?」
「どうして?」
「だってネットとかには、韓国のことを悪く言う人が多いから、私が韓国のアーティストを好きだというといろいろ言われちゃいますよね?」
「何を言っているの! あなたが好きなことは堂々と話していいんだよ。自分が好きなことはこれからもどんどん話していいんだからね」
「本当ですか? 今までずっと言っちゃいけないと思っていました!!」

彼女の顔がすごく嬉しそうに輝いたのがとても印象に残って。
同時に、20代の若い女の子がこういうことで悩んでいたのがとてもショックだった。

2018年2月26日。
平昌オリンピックの閉会式の翌日が、彼女の在籍するクラスのラジオレッスンの日だった。
私は、その日のレッスン用の番組の進行表に、閉会式に登場したEXOがパフォーマンスをした「Power」を選曲に入れた。
台本を観た瞬間、彼女が「きゃー!」と叫んで顔を真っ赤にしてとても嬉しそうな顔をしていた。
さぁ、今日はおもいっきり語って、最高の曲紹介をしてねとレッスンを進めた。
彼女が必死にとても楽しそうに言葉を探している表情が忘れられない。

インターネットにあふれる心無い言葉の影響で、自分の好きや、わくわくした気持ちに翳りを落としてしまう子がいる。
何も関係ない若い子のキラキラした感情に、涙がこぼれてしまうようなことを、私は許せない。

この生徒のことを話して、真っ先に反応してくれたのが、
FM802のDJオーディションでの同期合格者である、ラジオDJの浜平恭子だった。
彼女はK-POPをこよなく愛していて、韓国に何度も通い、韓国語を学び、ラジオでも積極的に楽曲を紹介していた。
しかし、韓国の曲をオンエアしただけで、酷い言葉を浴びせられることは多々続いていた。
私の生徒の話を聞いて、彼女はこれまでにどんなことがあったのかを具体的に話してくれた。

ただ音楽を好きなだけなのに、国の違いで何故こんな差別を受けなければいけないのか。
私は疑問しかなかった。

「アメリカやイギリスの音楽を好きで紹介しても何も言われないのに、なぜ韓国の音楽だとこんなことを言われるの?」

私たちは、新人DJとしての修行をしていた時代に、
音楽に愛情を持って紹介していくことを徹底的に学んできている。
「この曲良いよね!」「かっこいいんだよ!」
そういう思いに、国の違いに対して的はずれな言葉が飛び交う実態があったことが、心底ショックだった。

この件を大きなきっかけとして、私は、以前よりもK-POPをよく聴くようになった。
そんな中で、BTS(防弾少年団)のアルバム『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』が、2018年6月2日付け、
全米ビルボードアルバムチャートで初登場1位を獲得。
アメリカのチャート史上初めて、アルバム・チャートで首位を獲得したK-POPアーティストとなった。
これは、今後の音楽シーンでもとてつもなく大きな意味を持つナンバーワンだ。

私は韓国に行ったことがなかった。
今年は、音楽だけでなく、映画『タクシー運転手』から多大な衝撃と影響を受けたり、
また韓国から伝わってくる様々なニュースを見ていて、韓国に行ってみたいという気持ちが高まっていた。

そして、浜平恭子が韓国で結婚するということで、彼女に結婚式に招待して頂いた。
海外での結婚式だから無理しないでね…という彼女に私は即答で「行く」という返事をした。
初めての韓国が親友の結婚式。迷う理由など1つもなかった。

2018年7月8日。
羽田空港からの早朝の飛行機で、仁川空港へ。
彼女の結婚式はK-POPと笑顔に溢れた挙式となった。
明るくテンポの良い進行で、まるでエンターテイメントを見ているような楽しさもありながら、
新婦として、日本語と韓国語の2つの言葉で、読み上げた誓いの言葉は、
ラジオDJならではのユーモアを交えた明るさと優しさが奏でる言葉と共に、彼女の感極まった涙に胸を打たれた。
そして、そのあとに続いた新郎の言葉が、今でも耳に残っている。

「僕と彼女は国が違うので、大変なこともあると思う」

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韓国の結婚式はとてもカジュアルで、挙式の中で、ウエディングケーキのセレモニーなども行うので、
挙式後の披露宴は、決まった進行のない食事会のようなアットホームな雰囲気だった。

同期のラジオDJ、秀島史香が結婚式を挙げた時、私と浜平恭子は、その披露宴で2人でお祝いの言葉を伝えた。
だから私は、浜平恭子にもお祝いの言葉を届けたい。
もしも、韓国の披露宴でお祝いを伝える場面があったなら。そのことを想像しながらここに綴る。

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彼女と私は、FM802のDJオーディションの同期というだけでなく、
誕生日が同じなんです。

12月31日という誕生日はそれだけでも珍しいのに、
同じオーディションの合格者が一緒の誕生日ということにとても驚いて。
それからずっと誕生日は、「Happy Birthday to You&Me!」と祝い合ってきました。

仕事のことだけでなく、プライベートのこともこれまでたくさん話してきました。
正直に言って、私は同じラジオDJと関わり合うことはあまり好きではありません。
それぞれがそれぞれの番組や伝え方で挑むこの世界では、同業者はライバルです。
ですから、一定の距離を置き、敬意を払い、馴れ合わないようにしています。

だけど、同期のはまひ〜(浜平恭子)と、ふみか(秀島史香)は別です。
最初に出会った時が、お互いDJとしての厳しい修行で苦しくて泣いていた時期だったから、
仲良くなるというより先に、同志として、理解者として、縁を育んできました。
彼女たちとは、お互いの仕事をきちんと見つめつつ、励まし合い、
何よりも、笑い合うことを1番大切にしてきました。
だから、いつ会っても、いつ話しても、楽しくて。
その楽しさが20年経っても、私たちをしっかり結びつけているのだと思います。

今日の挙式でも、
はまひ〜は新婦の誓いでも「そんな語尾の明るい誓いの言葉は珍しいわ!」と思わず笑っちゃうくらい楽しくて、
本当にはまひ〜らしい式でした。

だけどね、初めて今ここで話すけど、
私は、泣いてたんだ。

「これまでは自分のことばかり考えてきた」という言葉に、今日までの様々なことを思ったよ。

私たちは、ラジオDJになりたいという道を選んで、本当に自分のことに集中しなければ、進めなかったよね。
「この仕事は3Kね。“キツイ、キタナイ、コドク”」。よくそう言っては、笑ったよね。
仕事の時間は深夜早朝問わずバラバラ。
番組の準備をしている時は、原稿や資料と格闘したり、手に持った赤ペンで自分の手に赤い色がついてしまったり、
身なりどころではない。
何より、DJブースに入ればたった1人。そこからさらに、自分と向き合う孤独な闘い。

そして、あなたはK-POPを伝えるという自分自身がやりたいと思って進んだ先で、
たくさんの葛藤も抱えた。

そんな孤独を知っているからこそ、人生で最愛の理解者と出会えたことに、あなたがどれだけほっとしたか。
今、どれだけ幸せか。
私は誰よりもわかっているつもりだよ。

今日の結婚式で、これからは最高のパートナーと共に歩んでいく決意を声にしたあなたは、とても綺麗だったよ。

いつもたくさんのありがとうを伝えたくなるあなたが、いつまでも幸せでありますように。
そして、これからは2人で、家族や、2人にとって大切な人たちと共に、
2つの国を繋ぐ、大きな温かい愛を築き、たくさんの笑顔を生み出して下さい。
常に楽しさと明るさを大事にしてきたあなたなら必ず出来ます。
結婚、本当におめでとう。

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「国が違うので、大変なこともあると思う。」
生活習慣や言葉の違いでの大変なことはあるかもしれない。
けれども決して、国の違いで、2人の幸せを傷つけることがないことを、私は祈っている。

日本に帰ってきて、今回の旅の話をすると、
「実は私の夫も韓国人なんです」など、周りの人たちの今まで知らなかったことを話して頂ける機会が増えている。

日本の隣の国である韓国に初めて行ったことは、また一つ、私に大きな意味をもたらしている。
私の人生にとって、さらに新たな世界への扉を開くきっかけとなった彼女に、心からのありがとうを。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜11秒”に乗せて)

親友のラジオDJの結婚式で初めて韓国に行ってきました。
結婚式で感じた、2つの国を繋ぐ、大きな温かい愛。
この曲は、新婦がおすすめしてくれてから、私にとって大好きなK-POPナンバーです。
SEVENTEEN「고맙다 (THANKS)」

武村貴世子

武村貴世子

ラジオDJ、MC、ライター。
これまで、FM802、Fm yokohama、FM-FUJIなどで番組を担当。

ラジオ番組、司会、ライター、トーク&アナウンス講師はもちろん、
朗読と音楽のコラボレーションライブも展開中。

国連UNHCR協会 国連難民サポーターとして、
難民支援を始め、世界や社会への関心が深く、社会貢献活動にも積極的に取り組む。

また、タロット・リーディングの学びも深め、
フリーランスでその活動の幅を広げ続けている。

Reviewed by
宮本 英実

誰かに強要するでも共感を求めるでもなく、ただ好きなものを素直に好きだと言うこと、伝えること。簡単でしょーと思うけれど、そんなに簡単なことじゃない。しかしながら、誰かのちょっとした後押しで、おさえきれない思いがドーンと飛び出して、晴れやかな気持ちになることがある。なんだ、早く話せば良かったよ!と、これまでの人生の中で何度思ったことだろう。一歩外に飛び出せば、世界は広がっていく一方で。ここでは、音楽が国をつなぎ、人をつないだ。さて、悩ましいそのことを、近くの誰かに話してみましょうか。

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