「彼女の切なくも凛とした歌声に心をぎゅっと掴まれました。」【Kim Petras「Icy」(2019年6月28日リリース)】

長期滞在者

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私はあなたのことをどれだけ知っているのだろう。

好きな食べものは?
どんな音楽が好き?
今日は何があった?

ねぇ、本当はどう思っているの?

あなたから知りたいことはたくさんある。
だけど、その全てを知ることは不可能だ。

私は、全てを知る必要などないと思っている。

私は、今のあなたが好きだ。

あなたの全てを知る時間よりも、
私は、あなたの今を愛おしく思う時間を、大切に過ごしていきたい。

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その声を初めて聴いたのはBBCラジオだった。

家の中にいるときは、BBCラジオをつけっぱなしにしている。
英語の勉強のために、家の中ではなるべく日本語を聴かないようにするために聴き始めたのだが、
選曲の良さにもはまってしまい、今では、私の生活で新しい音楽に出会うきっかけは、ほとんどがBBCラジオだ。

Kim Petrasの「Icy」がラジオから流れてきた時、私はまず最初に、彼女の歌声に惹かれた。
綺麗な中にも叫びのような血が通っていて、ああ好きな声だなと思った。
そして、切ない旋律の楽曲が好きな私にとっては、たまらないメロディであり、
サウンドアレンジもクールで、私はこの曲があっという間に好きになった。

Kim Petras「Icy」と、アーティスト名と曲名を、机の上に常に置いているメモに、愛用のボールペンで書き留めた。
そして、すぐに、Itunesで検索して、6月28日にリリースされたデビューアルバム『Clarity』と出会えた。
私が最初に聴いた「Icy」はもちろん、
アルバムタイトルのように、透明感のある、色に例えればブルーが浮かぶようなサウンドと、
洗練されたポップセンスが光る楽曲たちが私にとってはとても肌なじみが良くて、ここのところ毎夜のように聴いている。

彼女はどのような人物なのだろう?
インターネットの検索画面に「Kim Petras」と打ち込んで調べてみた。

キム・ペトラス。ドイツ出身、ロサンゼルスを拠点に活動する28歳。
彼女は、男の子として生まれた。

2歳のころに自分が女の子だと知った彼女は、16歳で性別適合手術を受けた。
それは「世界最年少での性別適合手術」として、ドイツでは彼女のドキュメンタリー映像が放送されたそうだ。

驚いた。彼女の歌声からそのような背景があるとは全く思わなかった。

大学時代に社会学科に在籍していた私の研究テーマは「ジェンダー」だった。
大学に入ってから初めて知った、社会的性差を表す「ジェンダー」という言葉や考え方に強く関心を持ち、
生物学的性差と社会的性差についての文献を読み、ゼミの仲間たちと語り合った。
以来、それらの問題やニュースにはとても敏感になっている。

もしも私が、先にキム・ペトラスのプロフィールや背景を知っていたら、
トランスジェンダーのシンガーという情報ありきで聴いていたら、彼女の音楽をどんなふうに感じていただろうか。

ラジオDJという仕事をしていると、リリース前の新譜を受け取る機会も多く。
そのときに必ず私が大事にしていることがある。

それは一緒に添えられている資料を読まないこと。

プロフィールなどの文字による情報を一切頭に入れず、
まずは、音楽だけを聴き、そして、自分が何を感じるか、
この曲を伝えるために、私にどんな言葉が浮かんでくるかを1番大事にしている。

ゆえに、キム・ペトラスの歌声と初めて出会ったのが、ラジオで良かったと思った。
ただその声だけで、その音だけで、「あ、いいな」と思えたその感覚が、私には何よりも大事だ。

ラジオは、音と声だけのメディアだ。だからこそ、伝えられることがある。
まさに彼女の音楽は、ラジオから、その声と音楽でまずは出会って欲しい。

だから、私もこの曲をラジオから紹介するならば、
ただただ、この曲が好きで、とても素敵だということだけを伝えたい。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜9秒”に乗せて)
憂いのメロディとともに響く、彼女の切なくも凛とした歌声に心をぎゅっと掴まれました。
今、何度も繰り返し聴いているとても好きな曲です。

Kim Petras「Icy」