「どんなことがあっても、あなたと過ごす大好きな時間を大切に守っていきたいという思いが胸に広がるナンバーを。」【official髭男dism「ラストソング」(2019年10月9日リリース)】

長期滞在者

cache_Messagep373670
UNHCRを通して難民支援を始めてから、毎年秋のこの時期は、難民をテーマにした映画祭に参加している。
最初は観客の一人として映画を観に行っていたが、ここ数年は会場での司会、上映後トークイベントの司会に加え、
字幕翻訳者のみなさんや、映画祭を応援してくれている著名人のインタビュー記事の執筆など、
映画祭と長い時間を密接に過ごしている。

これまで13年間行われていた「UNHCR 難民映画祭」は、今年は「UNHCR WILL2LIVE映画祭2019」として、
9月21日のイタリア文化会館を皮切りに開催された。

映画祭の会場では多くの出会いがあった。今年は特に外国人の方との出会いが印象的だった。
シリア難民支援をしている快活でチャーミングな笑顔のフランス人の女性。
世界のニュースをもっと日本でも伝えて欲しいと心からの言葉を伝えてくれたイラン人の女性。
そして、一人の若いイラク人の女性との出会いは、私にとってとても大きな出来事となった。

彼女は『ナディアの誓い- On Her Shoulders』の上映後に私に話しかけてくれた。
たまたま研修で日本に来ていた彼女は、その大きな瞳に涙を湛えていた。

『ナディアの誓い- On Her Shoulders』は、2018年のノーベル平和賞受賞者、
ナディア・ムラドのドキュメンタリー映画である。
イラク北部の小さな村で暮らしていた少数民族ヤジディ教徒のナディアは、
過激派組織ISISに母親と6人の兄弟を殺されてしまった。
彼女は捕らえられ性奴隷として3ヶ月扱われた後、脱出に成功し、ドイツに逃れ、
2015年12月には国際連合安全保障理事会で、ISISの虐殺や性暴力についての証言を行い、
国際刑事裁判所に人種差別罪と人道に対する罪を訴え、ISISを国際刑事裁判所に提訴するよう取り組んでいる。

私に話しかけてくれたイラク人の彼女はこう話してくれた。

「これは私が住むすぐ近くの村であったことなの。
私が住んでいた村は助かったのですが、私もよく知っていることです。
この映画を上映して、日本でこのことを伝えてくれてありがとう。」

そう言ったあとに、彼女は泣き出してしまった。
私も一緒に泣き出してしまった。

映画を通して、日本の人たちに難民問題について知って欲しい。
その思いで開催しているこの映画祭は、
その地に住む人から見ると「伝えてくれて、ありがとう」という言葉になるという事実。

「ここで起きていることを伝えて欲しい。」「私たちのことを忘れないで欲しい。」
私は、そういう言葉を何度も聞いてきた。

「世界で起きていることに自分は何ができるのか?」
多くの人からも質問され、私自身も常に考え続けていることだが、
世界が起きていることを知ること、知ったことを伝えていくことは、できることの一つだろう。

B40A35D0-1C78-4844-95A4-415A607CF0F2
映画祭の開催期間中にも、不安になる世界情勢が次から次へと入ってきた。
イラク、バグダットで起きた若者たちによるデモ。
イラク人の私のアラビア語の先生から「今回のイラクで起きた抗議は、かつてイラクで起きたどんな動きとも違う動きです」と教えていただき、「インティファーダと呼んで良いものになっている」と知り、事態の大きさを感じた。
その数日後にはトルコ軍が主にクルド人が暮らすシリア北部に侵攻、民間人の死傷者が報じられている。
同じ頃、日本では台風15号、そして台風19号による甚大な被害の報告を連日耳にしている。

次から次に起こる事態に、知ることからは目を逸らさないと心がけている私でも、
スマートフォンやパソコンの画面から離れる時間を取らないと、常に心が引き裂かれたままの状態になってしまうと感じた。

そういえば、今月はどんな新しい音楽が世の中に届けられたのだろうか? 
緊張感から全く抜け出せない日々からほんの少し距離を置いて、
数時間ほど、友人たちが「これは良かったよ!」と言っていた音楽たちを聴いた。
その中でも、特に素晴らしいアルバムだと思ったのが、official髭男dismのMajor 1st Album『Traveler』だった。

2019年を振り返ったときに、今年良かったアルバムを数枚選ぶとしたら、間違いなくこの作品は選ぶだろう。
1曲1曲ごとに驚きに溢れたポップセンスに彩られた楽曲たち。
はちきれんばかりの今の勢いを閉じ込めたような活き活きとした音の粒たち。
音楽を愛する友人たちが次から次へと、「このアルバムは良いよ!」と絶賛する思いに、私もとても共感した。

「Pretender」、「宿命」と今年リリースされたヒットシングルはもちろんのこと、
アルバムに収録されている「ラストソング」が今の私には心に染みた。
おそらく、楽しかったライブの終わりの時間を描いた1曲なのではないかと思うのだが、
今一緒に過ごしている幸せな時間が続いて欲しい、終わらないで欲しいという、
とても大きな包み込まれるような心からの願いを感じた。

君と僕で語られる物語。
君と過ごす時間の限りの切なさ。
楽しさを共に過ごした後の一人のやるせなさ
君とどこまでもいつまでも一緒にいたいという思い。

そして、この言葉を高らかにどこまでも届くように放つその歌声を最初に聴いたときに、私は泣き出してしまった。

「地球最後の日だとしても」

明日がどうなるかわからない不安な日々でも、確かに紡いでいかなければいけないのは、
限りある人生の中で出会えた大切な人と、一緒にいて楽しいと思えるような温かくて優しい時間だ。
世界のことを知れば知るほど、私はその思いが強くなる。

どうしてこんなにつらく悲しいことが起きるのだ、ということに打ちのめされるほどに、
かけがえのない大切な人への、愛しさが増す。

「とても不安な世界だったけれど、あなたが傍にいてくれて幸せでした」と思ってもらえるような自分であることも、
世界にできることの一つなのではないか、と思う。

今日はとても楽しい一日だったね。
このまま終わらないで欲しいんだ。
いつまでもずっと一緒にいたいよ。

だから私は、最後まであなたに微笑みかけよう。
どんなに世界が不安定になっても。

優しくて穏やかで笑い合える時間が再び訪れることを祈って。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜3秒〜25秒”に乗せて)
今年は「Pretender」「宿命」と続けてヒットシングルを放っている、official髭男dism。
待望のメジャー1stアルバム『Traveler』が、今月9日に発売になりました。
1曲1曲ごとに嬉しい驚きに満ちたきらめくようなポップセンスあふれるこのアルバムから、
どんなことがあっても、あなたと過ごす大好きな時間を大切に守っていきたいという思いが胸に広がるナンバーを。

official髭男dism
「ラストソング」