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3F/長期滞在者&more

「鮮やかに色づく恋の輝き」【佐藤千亜妃「Spangle」(2019年11月13日リリース)】

長期滞在者

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ふと思い立って新しい眼鏡を作った。

家の中で使っている眼鏡がゆるくなり、鼻からよく落ちそうになった。
これは生活しずらいなと思ったときに、10年近く眼鏡を新しくしていないことに気づいた。
そういえば、なんとなくここ数年、何もかもが見えづらい。
眼鏡屋さんで、改めて視力を測ると明らかに古い眼鏡では度数が弱かった。
そこで、ストレスを抱えることなく見られるように、新しい眼鏡を作ったのだが、
帰り道に「これは視力が低下してしまったのだろうか?」と不安になり、翌日眼科へ。

検査の結果、全く視力は悪くなっていなかった。
ただ単に以前コンタクトや眼鏡を作ったときに目が疲れないように、弱めに設定していたことが判明。
これを機会に適正視力に合わせましょうということで、コンタクトの度数を調整したところ、
見える世界が一変した。

周りがはっきり見えるのはもちろんなのだが、
驚いたのが、瞳でとらえることのできる光の輝きが鮮明になった。
「え? 世界ってこんなに綺麗だったの?」と思うほどに、視界がクリアになった。
特に、空や花など自然の色の鮮やかさが明らかに変わった。
私の心はディズニー映画のミュージカルシーンのように、歌いながら踊り出したいくらいに晴れやかになっていった。

どうやら私はここ数年随分と薄暗くて、ぼんやりとした景色の中で生きていたようだ。

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友人が恋をした。
恋をしたことで「自分も大切にしなくちゃと思えた」と綴られた言葉を読みながら、
私は自分を大切にしようと思えるような恋との出会いはあっただろうか? と考えた。

きのこ帝国のヴォーカリスト、佐藤千亜妃の1stソロアルバム『PLANET』の発売日が待ち遠しかった。
きのこ帝国は「東京」を聴いたことをきっかけに、
チケットを買ってライブに行くほどお気に入りのバンドだった(特に「クロノスタシス」が好き)。

彼女のソロ作品は、
2018年にリリースされたソロミニアルバム『SickSickSickSick』に収録された「Summer Gate」が特に好きで、
この曲を砂原良徳が手掛けていたことも飛び上がりそうなくらい嬉しかった。
私は砂原良徳が多くの楽曲のアレンジを手掛けた1999年のACOのアルバム『absolute ego』を愛聴していたし、
ACO「SPLEEN(Y.SUNAHARA’S STUDIO REMIX)」は何度繰り返し聴いたかわからないくらい心酔した曲だ。
彼のアレンジで好きな女性ヴォーカルの曲が聴けることは、私にとって極上の時間をもたらしてくれる。
そんな「Summer Gate」も収録された1stソロアルバムはどんな仕上がりになっているのか?
私は、発売日にすぐ聴いた。

佐藤千亜妃の1stソロアルバム『PLANET』には、恋愛の歌が揃う。

私の音楽ライブラリーにラブソングは少ない。
どちらかというと自己探求の言葉を歌う楽曲を好んで聴いてきた。
しかし、佐藤千亜妃の恋愛の歌詞は、自然に自分に馴染んだ。

特に、「Summer Gate」から「Lovin’ You」「Spangle」へと繋がっていく音の流れがたまらなかった。
そして「ああ、こういう楽曲をずっと聴きたかった!」という気持ちでいっぱいになったのが、
「Lovin’ You」「Spangle」、アルバムタイトルチューンの「PLANET」の3曲だった。
この3曲のアレンジを手掛けたのは、Tondenhey(踊foot works)。
私はこの作品で初めて彼の存在を知ったが、
繊細で心地の良い浮遊感と切なさの混ざり合ったトラックがとても好みの音だった。

「Spangle」を聴いていて、歌詞に色がたくさん出てくることが、
今の私には、とても印象的に響いた。

ここ最近、視界が明るくなった私は、日常の色にぐっと敏感になっている。
例えば、バラの赤、空の青など、自然の色の美しさや輝きをしっかりと身体に取り入れるように見つめていると、
心がどんどん穏やかになっていくことを感じている。

私が経験した恋はいつだって心がざわめくばかりだった。
そして、自分のことよりも相手のことばかり優先していた。
自分を大切にするなんて考えは、どこにもなかった。

振り返ってみれば、とっとと距離を置けばよかったようなものの、
切なさ好きの自分が絡まってしまったことに、今となっては苦笑いするしかない。

「それは青春でしたね」とあなたが言葉にしてくれたときから、
そんな過去も随分軽くなった気がする。

あなたはそんなに多くは笑わないから、
あなたが笑うときは、本当に心から嬉しいことがあったとき。
まさに「弾ける」という言葉がぴったりの明るさを放つ笑顔。

その顔を見ていると、この笑顔を一番近くで見ていること以外に、
私の心が温かくなることは、他にはないと思う。

「自分も大切にしなくちゃと思えた」という、友人の言葉を思い出す。

あなたは私が自分を大切にしなかったら、悲しむだろうか?
私よりもあなたのことを優先したら、それは違うと止めるだろうか?

わからない。
ただひとつ、これだけは知っている。

あなたは、私を見つけた瞬間に、感情がこぼれるように嬉しそうに笑ってくれる。
いつも自分から駆け寄ってきてくれる。
他にはもう何も見えなくなったように。

私がこの瞬間、あなたの目の前から消えてしまって、
手を伸ばせば届くほどに近づいたあなたの顔から、その笑顔が失われるのだとしたら。

私は私を大切にしようと思うだろう。

今の私は、よく見えている。
見えているから。

輝くように眩しい光。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜6秒〜29秒”。6秒を聴かせて、29秒までの23秒で曲紹介。)
11月13日にリリースされた、きのこ帝国のヴォーカル、佐藤千亜妃の1stソロアルバム『PLANET』。
「この12曲の物語は全て地球上で起きてる」という、
人との出会いから紡がれていく歌の世界が広がる彼女の1stソロアルバムから、
静かで穏やかなトラックの中に秘められた、鮮やかに色づく恋の輝きが眩しいこの曲を。

佐藤千亜妃「Spangle」

武村貴世子

武村貴世子

ラジオDJ、MC、ライター。
これまで、FM802、Fm yokohama、FM-FUJIなどで番組を担当。

ラジオ番組、司会、ライター、トーク&アナウンス講師はもちろん、
朗読と音楽のコラボレーションライブも展開中。

国連UNHCR協会 国連難民サポーターとして、
難民支援を始め、世界や社会への関心が深く、社会貢献活動にも積極的に取り組む。

また、タロット・リーディングの学びも深め、
フリーランスでその活動の幅を広げ続けている。

Reviewed by
宮本 英実

良いも悪いも、甘さもほろ苦さも、全部はっきりくっきりと感じてしまうのが、恋だ。

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