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2F/当番ノート

Asian Photo Arts Artist’s Profile: Takahiro Igarashi part.2

当番ノート 第7期

諸事情により2週間コラムをお休みしてしまい申しわけありませんでした。アップ再開します!
イガラシさんとのインタビューの続きですが、今回のトピックは個人的に特別フィーチャーしたい大切なトピックだったので、あえて分けました。このトピックを読んだあと、彼の作品を見直せば見え方が変わります。
作品からにじみ出るイガラシさんのポジティブさの理由は、記憶や死と向き合う彼の日常にありました。

※前回のインタビューはこちら(https://apartment-home.net/column/201302-201303/asian-photo-arts-artists-profile-takahiro-igarashi-part-1/
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■(Shota Ogino 以下S.O)最後に、職業をしっかりも持ちながら、写真表現をしているイガラシさんだから話したいトピックがあります。それは「仕事とプライベート」「表現と表現じゃないもの」「作品と作品じゃないもの」の境界線についてです。

S.O) 私は「表現と表現じゃないもの」の境目なんてないって思うんです。
本当は逃げ道なんてないんですけど、逃げたいから「プライベートと仕事」って分けるんですよ。
現実が余りにもツラいですし、自分に甘いし、弱いから。
でも本質は全てが一繋がりになっていると思います。

人は自分を映す鏡ですし、社会も何もかもが自分自身を映し出す鏡です。
仕事でも人への依頼の仕方一つでその人の人と也が出ますよね。それも表現ですよ。
必ずしも何かものを作らなければ、作品にならない訳じゃない。
行為が作品になる時代です。
最近東京都現代美術館の展示でもありましたが、作品を展示しない作品も登場しています。

S.O)イガラシさんが実践している「認知症老人ホームで働きながら、写真表現する」っていう行為は正に「境界線無き行為」に見えるですが…。修行僧に近いですよね?逃げ道がない。
記憶と生と向き合うことを休み無くしていますよね?

T.I)結構、酒に逃げる人もいるんです笑。

S.O)そうですよね!だって伝えたいことも伝わらない。こうなってほしいってこともその通りにならないんですもん。それが日常。それはとんでもないストレスたまりますよ。


T.I)でも本当に勉強になるんです。

S.O)んっ?それどこかで聞いたセリフです。ジョンワンも言ってました。
「本当に勉強になった」って。
ゲイバーで働いたことが人生で一番勉強になったって言ってました。

S.O)実際に勉強になったことってなんですか?

T.I)一番勉強になったのは、、、「入所者の方々は記憶がなくなり、また記憶することも色んなことを認知することも出来なくなって、最終的には身体機能も奪われてゆくんですけど、その中でも喜びを見出して、前向きに人生に飛びこまなきゃいけないってことに気づけたこと」です。
人によって大差はあれど、今自身がもっているものに幸せを見出して生きていると思うんです。そして必ず平等に死が訪れる、結局どれも「一生」なんですよね。

S.O)うわぁ…なるほど…それはポジティブな絵になりますわ。

T.I)そうなんです!だからポジティブにしなきゃいけないっていうボクの中に確固たる決意みたいなものがあるんです。ネガティブではやってられないんです。

T.I)負のスパイラルの象徴が虐待なんですよ。
あれは介護する方にもストレスがたまりにたまって起こってしまうんです。相談する相手や逃げ場がない状態っていうのは本当によくなくて最悪な結果を招く場合もあります。

ポジティブになるための手段は人それぞれで、人によってはそれが宗教かもしれません。
何でもいいんです。でも必ずどこかで芯を持たなきゃいけないと思うんです。そうじゃないと揺らいでしまうから。
例えば、精神的に不安定で、ちょっとしたきっかけで泣いたり怒ったり怯えたりパニックになったりする方がいるとします。夜まったく眠ることもせずに家族に捨てられたとか、騙して私を精神病院に閉じ込めたとか、もう死にたいとかいうわけです。本当はそんなことないのですが、いま本人がそう思ったらそれはもう事実になってしまうのが認知症です。説得してもはじまらないので落ち着くまで何十分でも話を聞きます。落ち着いた頃合をみてベッドに誘導すると「ありがとう、あなたがいてくれて安心だわ」と満面の笑みで眠りにつくんですが、その10分後、「あなただれ?私の家に勝手に入ってなにしてるの!」って怒りながら居室から出てくるわけです。それが夜中、数年間に渡り繰り返されます。
もちろん入所者は他にもいらっしゃるのでその方ばかりを相手しているわけにはいかないし、こなさなくてはいけない業務もたくさんあります。
そんなとき芯がなければ心が折れてしまうと思うんです。
しかもその芯はポジティブじゃないと芯にならない。

S.O)それは勉強を越えて、人生観を獲得したっていう話ですよね。

T.I)そうなんですよ。

S.O) いやぁ、イガラシさんの本質、核心に触れたような気がしました。

「手段はなんでもいい。その人が前向きになれて〝生きる動機〟が見つかれば。」
「どんなにツラい中でも、その中で前向きになって人生に飛び込まなきゃいけない。」

この言葉を胸に抱いて、イガラシさんの作品を見直します。

S.O)今日は貴重な時間ありがとうございました!

T.I)こちらこそ!

荻野 章太

荻野 章太

Asian Photo Artsディレクター。
ロシア、中国、韓国、日本出身の若手写真家や日本を中心に活躍するアートディレクター、ウェブデザイナーで構成されるAsian Photo Arts。写真家(表現者)によって価値観を変えられた自らの経験から「アートとしての写真を社会に開くこと」「若手写真家支援」を目的に2007年から活動中。

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