入居者名・記事名・タグで
検索できます。

2F/当番ノート

ルーマニア徒然 - 田舎の人達①

当番ノート 第21期

 ルーマニアは農業の国である。農地と牧地を合わせた面積は14百万ha近くに及び、これはEU内ではフランス、スペイン、ドイツ、UK、ポーランドに次いで多い。勿論1,000ha以上の農地を持つ大規模農家もいるし、面積で言えば50ha以上の中規模農家の割合も大きいが、数自体では殆どが1ha前後の自給自足的な農家だ。つまり、ルーマニア人とは伝統的に、農家である。小さな村で慎ましく暮らし、豚や鶏、時に牛を飼い、穀物や野菜を作ってワインも自家製だ。冬は寒いが薪ストーブは暖かい。はっきり言って、彼らはお金なんて殆ど必要無い。
 近年急速に近代化が進み、各地に点在する都市には多くの知識人や学生が集まる。首都ブカレストには人口の1割以上の2百万人強が住んでいる。ブカレストの人達は欧州一般の都市住民と大差無い(意見は色々あろうが)。ちょっと美男美女が多いくらいだ。一方地方では上記の通り、牧歌的な生活が送られている。都市と地方の文化的、思想的な隔たりは広がるばかりだ。


1 Floarea soarelui
 ヒマワリの生産量は世界5位だ。”Romania Sunflower”で画像検索して欲しい。ヒマワリと共に美女も出てくる。




 僕が働く会社には工場があり、ブカレストから35kmほど離れた何もない村にでーんと建っている。従業員は皆その辺りの人達だ。僕は赴任後この工場に毎日行っていたので、自然彼らと仲良くなった。殆どは英語が全く通じないが、まあ何とかなるものだ。陽気なやつもいればシャイなやつもいて、みんないいやつだ。僕はその中のシュテファンというやつと特に仲が良くて、週末などよく家に遊びに行った。飲むとデカい体を揺らして騒ぐモンスターみたいなやつだが、優しいやつで、誕生日には日本語で「誕生日おめでとう もと」と書いた垂れ幕を作ってパーティを開いてくれた。驚くべきことに僕より字が上手い。彼の家には豚が3頭(1頭は食べてしまった。その時のことはまた後日。)、鶏が沢山(たまに食べる。)、うさぎ(これも食べてしまった。)、犬が二匹(流石に食べない。)、猫が数匹(僕に懐いている子が最近母になった。複雑な気分である。)、オーストラリア生まれというインコが二羽(たまに家の中で放し飼いになっている。)と、さながら動物園である。と言っても、インコを除けばこれは標準装備であって、少し金のある家にはこれに牛が加わり、時に馬が加わる。因みにうさぎはBBQで出て来て一口食べた後「これ何?」と聞いたら「うさぎだよ、可愛いだろ」と生前の写真を見せられた。物凄く可愛かったが、残念ながら激烈に旨かったので食べた。犬はサンチョとチチという名で、チチは小さな老犬でいつも怯えた感じで吠えている。サンチョは若いちょっとオツムの弱い中型犬でいつも喜んで尻尾を振りまくっている。シュテファンはサンチョをいたく愛しているが愛し方は日本人の想像を超えていて、蹴飛ばしたり首根っこを掴んで持ち上げたり投げたりと豪快だ。蹴られてもサンチョは嬉しくて仕方が無い。シュテファンは奥さん(オアナ)と両親と共に住んでいる。ルーマニア人はそんなに背が高くなく、特に老人は皆小さくて可愛い。シュテファンの両親も可愛らしい老夫婦だ。シュテファン父はいつもそれ以上不可能というくらいニコニコしていて酔うといつもブルガリアの話をする(移民なのだ)。最近シュテファン母は僕のことを息子と呼ぶようになった。


3 Cu familia
シュテファンの家にて。この日はタイヤ焼き祭り(!)だったので彼のどでかい服を借りている。




 シュテファンとオアナはたまにブカレストまで遊びに来る。昔はブカレストに住んでいたのだ。クラブに行き、ドネルケバブを食べ、僕の家にやってきて騒ぐ。田舎の生活は心地良いが、若い彼らには少し、静か過ぎるのだ。
 ルーマニア人はパーティ好きだしブカレストのクラブはいつも賑わっている。だが都会のルーマニア人もこうやってたまに遊びに来るルーマニア人も皆なんだかんだ、「田舎の方が良いよ。」と口を揃えて言う。田舎の静けさが彼らのDNAに刻み込まれているのだろう。ルーマニアの郊外は本当に静かだ。そこには何も無いが、人と人との繋がりがある。日本の田舎のような閉塞的な村社会なのかも知れないが、異邦人からしてみれば大らかなルーマニア人同士の関係はとても気楽なものに見える。月並みかも知れないが、失われつつあるコミュニティの力のようなものが根強く残っているのだろう。「◯◯の息子さんがまた彼女と別れたよ」とか「△△さんはどこどこをクビになったらしいよ」とか、そういう噂話が好きなのは日本の田舎と同じだ。外国人に慣れていないのも日本人と似ていて、田舎の飲み屋に行ったりするとユニコーンが現れたかのような目で見られることもある。でも遠巻きに見ていたりして、ルーマニア人は案外シャイなのだ。ただやはり日本と決定的に違うと思うことには、彼らは本当にオープンな人達だということだ。そうあらためて思うことがあったので、次回はそれに関して書こうと思う。北方の奥地マラムレシュに行った時のことだ。


2 Gicu si pisici
 爺さんと猫達。オウムもいる。

moto

moto

1988年生まれ。ルーマニアから帰国して、息子が生まれました。

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る