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2F/当番ノート

「この曲が、あなたの心の中で優しい色の花を咲かせますように。」【米津玄師「Flowerwall」(2015年1月14日リリース)】

当番ノート 第24期

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私がラジオDJになったのは、音楽を伝えたい。その気持ちだけだった。
だから、私は、曲紹介に何よりも力を注いでいる。

ラジオDJが伝える曲紹介の言葉。
その言葉にをどれだけの時間をかけているか。

曲に対して思い入れが深ければ深いほど、その言葉をどこまでも悩む。
イントロで話すほんの数秒の曲紹介に、何時間も何日もかけることを、
私は何度繰り返してきただろう。

例えば、L’Arc~en~Ciel「虹」(1997年10月17日リリース)。
当時、新人DJだった私は、彼らの活動再開となるその曲に、
どんな言葉で紹介すればいいのか、
何度も聞いて何回も言葉を書き直した。
深夜の生放送で選んだ言葉は、
これで絶対大丈夫と思えるようなものではなかっただろうが、
その時の私の精一杯の言葉を紡いだ。

ほんの数秒のイントロ曲紹介にストップウオッチを握る手は汗ばんだ。
そして、曲紹介を終えた途端に全身の力が抜けるようなあの感覚。
数秒に自分の思いを込めるあの瞬間は、
ラジオDJとして生きてきて、一番充実を感じる場面であり、
身体の中の血が一気にその熱を高め、
自分が生きている中で、最も楽しいと思える時だ。

時は流れ、DJ歴も20年近くになると、
この秒数ではこれくらいの文字数や情報量だろうと、
経験による判断ができるようになってきたため、
最近ではそれほど時間をかけずに言葉を発することができるようになった。

しかし、それは一つの曲に対して向き合う時間を、
私自身が無意識のうちに減らしてしまっているのではないかと感じた。

この曲に対して私はどんな言葉を乗せるのだろうか。
改めてそのことに時間をかけて深く向き合ってみたいと思った。

選んでいく曲は、2015年リリースの楽曲を中心に。
年が明けたら、2016年の新曲も選曲していく予定で始めてみたい。

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ある朝のこと。
ラジオから聞こえてくる楽曲に「え?この声誰だろう??」と思った経験は随分久しぶりだった。

曲が終わった後に、
ラジオの中のDJが紹介したアーティスト名は米津玄師(ヨネヅケンシ)。

その名前の不思議な響きが自分の頭の中で文字化されずに、
「今、なんて言った??」という具合に、
その場ですぐに覚えることができなかった。

その数日後、私がラジオ実習を担当する声優養成所の授業では、
1年間のレッスンを踏まえて、
生徒たちが10分程度の番組を発表する時期を迎えていた。

生徒の中の一人がこの曲を選曲していた。
「あ、先生、この曲いいなと思っていたんだ。誰の曲?」と訪ねると、
「ヨネヅケンシ、ですよ。」と、そこで再び名前を教えてもらった。

あ、この前も名前を聞いて漢字なのか?ひらがななのか?カタカナなのか?、
はたまたアルファベットなのか?
わからなくなってしまって、
そのままにしていたら忘れてしまったという後悔を思い出し、
今度はすぐに「ヨネヅケンシ」と検索して、
そこで初めて「米津玄師」というアーティスト名と出会った。

その日のレッスンが終わってから、
一人で「Flowerwall」を改めて聴いた。
すぐに、あの時初めてラジオで聴いて、
いいなぁと思った感覚が蘇った。

ちゃんとアーティスト名がわかって、
こうしてまたこの曲と巡り会えてよかったと思える嬉しさが、
心の中に広がった。

米津玄師の「Flowerwall」という楽曲の出会いは、
ラジオDJという仕事をしている私にとって、
改めてラジオがきっかけのメディアだということを実感させてくれた。

あの朝、ラジオをつけていなければ、出会えなかったかもしれない音楽。

私にとって「Flowerwall」を聴いている時は、
とてもパーソナルな自分でいられる。
自分と曲の間には、どんな邪魔も入らない。

自分が今この胸に大事に守っている思いを
温かく育つことを願い、
いつかこの気持ちが、光を放つ日まで見つめていたい。
そんな気持ちになる。

それはこの曲が、
君と僕のストーリーで描かれていることも大きいのかもしれない。

瞬時に回答を求められることの多い日々の中で、
うん、今はそれでいいんじゃないかなという、
受け止めてくれるような優しさを感じてしまう。

しかし、「Flowerwall」のイントロは22秒。
そんなに多くの言葉は乗せられない。

曲紹介をする時。
伝えたい言葉があふれて選びきれないと迷った時は、
自分がその曲を聴いて、
一番最初にいいなと思ったところを大事にするようにしている。

この曲の場合は「声」だ。
一度聴いた時に、耳の奥にすっと入ってきて、
誰にも見せずに隠している自分の弱さや寂しさに、
すっと染みこむような、安堵を感じた。

だから、私はその気持ちをこの曲のイントロで伝えてみたい。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜11秒〜22秒”に乗せて)

初めてこの曲を聴いた時、
私は歌声の魅力にすぐに誰の歌?と思いました。
顔も名前も知らないこの曲が、私の心の中をすっと安らげてくれました。
この曲が、あなたの心の中で優しい色の花を咲かせますように。

米津玄師「Flowerwall」

武村貴世子

武村貴世子

ラジオDJ、MC、ライター。
これまで、FM802、Fm yokohama、FM-FUJIなどで番組を担当。

ラジオ番組、司会、ライター、トーク&アナウンス講師はもちろん、
朗読と音楽のコラボレーションライブも展開中。

国連UNHCR協会 国連難民サポーターとして、
難民支援を始め、世界や社会への関心が深く、社会貢献活動にも積極的に取り組む。

また、タロット・リーディングの学びも深め、
フリーランスでその活動の幅を広げ続けている。

Reviewed by
中村むつお

ニコ動世代のスーパーミュージシャンである、米津玄師。
イントロに注目すると言うラジオDJならではの視点で、武村さんが紹介しています。僕も初めて聴きました。
つーかヨネヅケンジって読むのか初めて知ったぜ。

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