「音楽があなたにとっての味方でありますように。」
これは私が番組で必ず最後に言っている言葉である。
しかし、いつこの言葉を考えたのかは全く覚えていない。
気づいたら言っていた。本当にそうなのである。
ラジオDJとしてこの言葉を発してきて、
多くの人から「この言葉が大好きです」と言って頂いた。
この言葉には様々な思い出がある。
あるミュージシャンはゲスト収録の時に、この言葉の後にスタジオの中で涙を流していた。
家族を亡くして眠れない夜、この言葉を思い出して、好きな音楽を聴いて夜を乗り越えたと伝えてくれたリスナーがいた。
私にとって一番の味方は音楽だ。
そんな想いから自然に生まれた言葉があなたの中で意味を持つ言葉になる。
こんなに嬉しいことはない。
いつか私がこの生命を終える時、
この言葉があなたの胸に生き、力となってくれるのなら、
私は充分に生きたと安堵して静かに眠りにつけるだろう。
アパートメントの連載を書くことは、思いの外、私が生きてきた道を振り返る時間となった。
音楽と向き合う、曲を紹介する言葉を考える時に、そこにはいつも私自身の生があった。
つまり、私が音楽を紹介していくことは、イコールで私を生きることと直結しているのだと、
書くことによって気づかされた。
私が安藤裕子の楽曲に求めているのは「解放」なのだと思う。
心の中で絡み合ってしまったものが、彼女の歌声でほどけていく時、
私は堪えていたものを打ち明けるように涙を流す。
どれだけ彼女の楽曲に自分の想いをさらけ出してきただろう。
「Last Eye」は、2016年3月2日にリリースとなるアルバム『頂き物』から、
2015年12月3日に配信限定として先行発売された。
楽曲を提供したのは、TK from 凛として時雨。歌詞は安藤裕子が書いている。
一回聴いただけで、名曲だと思った。
TK from 凛として時雨の繊細な音作りが、
安藤裕子というアーティストの本質を全て表現しているとすら感じる、銀河のような楽曲。
特に、5分06秒からの展開は、私が彼女のライブでも体感している壮大な恵愛に包み込まれる。
ラジオDJという仕事は孤独だ。
曲を聴き、言葉を考え、一人きりのスタジオでマイクに向かう。
番組がスタートしてしまえば、終わるまでそこは自分自身との戦いである。
もちろんスタッフのサポートはあるのだが、言葉を口に出す瞬間はどこまでも一人だ。
そんな道を私はずっと生きてきた。
だから、孤独でいることが、私らしく感じている。
誰かに心を預けること。
誰かと手を携えること。
それは、私というアイデンティティーを壊す。
孤独であること、一人であるからこそ、私自身であるのだと。
どこかで、ずっと、そう思っている。
その手を取ってしまったら、私はどうなってしまうのだろう。
それが怖くて私の足は境界を超えて歩き出すことができない。
だけど、ふいに、その怖さを飛び越えるような愛に出会う。
甘えたくなる。委ねたくなる。でも、それでいいのだろうか?
私を好きになってくれる人は、一人で立っている私が好きだ。
私があなたの傍にいても、あなたは私を好きでいてくれるだろうか?
迷いに揺れる時、私は安藤裕子の楽曲にすがる。
自分の一番奥にある、素直な心が零れる。
ワタシハアナタガスキデス
私が誰かに対して好きだという感情を抱く時は、この人を守りたいと思った時だ。
一人で抱えているあなたの苦しみが、少しでも安らぎますように。
その瞬間、私はこの人を愛しているのだと自覚する。
「音楽があなたにとっての味方でありますように。」
それは、音楽があなたを守ってくれますようにという、私からあなたへの愛です。
誰にも声が届かないんだ。
救いの手が見つからない。
あなたを守るメロディーは必ずどこかで響いている。
最後の愛はいつだってあなたの傍にあると気づいて。
音楽があなたにとっての味方でありますように。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜27秒”に乗せて)
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
悲しくて仕方がないよ。もう何もわからないよ。
苦しみで動けなくなっているあなたへ。
今はただこの曲を聴いて、
あなたの心が少しでも安らぐことを、私は祈っています。
音楽があなたにとっての味方でありますように。
安藤裕子「Last Eye」