入居者名・記事名・タグで
検索できます。

2F/当番ノート

Music From Memories 5

当番ノート 第26期

弁論部はぼくと先輩の2人だけだ。いつからか、大会前になると先輩から毎晩のように電話がかかってくるようになった。彼女は決まって「落ち込んでない?」とか「とにかくリラックスしなきゃ」と言い、大会に向けての意気込みなどまったくない自分は電話口でいつも困った。そのうち彼女は自分が今いかに忙しく充実しているか、弁論部のほかに実はバンドもやっているという話を始めた。形の大きなメガネで級長風イメージの彼女の、その意外な一面を到底信じることが出来ず、かと言って真偽を問うのは関係上とても面倒くさかった。黙って聞いていると「制服の中ではちきれる胸はお砂糖でできているわけじゃない」といった歌詞の曲を、電話口で歌い始めた。

高校の時のバイト代はほとんどレコード代で消えた。新宿にあったラフトレードはイギリス直営店ということもあり、とにかく新譜の並ぶスピードが早かったので、2週に1度は行っていた。市場ではレアになっているようなレコードもデッドストックでA to Zに何気なくあったり、見たことのないレコードがたくさん並ぶ場面に興奮した。店内で自分の知っている曲が流れた。autocollantsというアメリカのギターバンドだ。音数の少ない、でも不思議と浮遊感のあるサウンド。他の客のレコードを掘る音も聞こえてくるくらいの静寂が店内に訪れた。

進研ゼミのお便りコーナーだったか、活動休止間もない「accessの歌詞全文」を大きな方眼紙一面に書いたものが掲載されていた。「1000のキス」や「瞬間のHalation」といった、美男であることの粋を集めたような言葉たち。投稿者は自分と同じ年齢、中2の女の子だったと思う。活動再開後のaccessを、彼女はいま同じ熱情で追っているだろうか。「時々上司のキボウに」とか「GEKIとばしちゃってGO」といった最新作の歌詞を、彼女は今も書き写しているだろうか。

DJ、なるものがラジオでしゃべる人なのか、レコードをこすったりする人なのかよくわからなかった。さらにDJ HONDAはイチローの帽子の人で、輪をかけて混乱した。いずれにせよヒップホップ的な意匠が感じられればそれがDJなのだろう、と何とも90年代的な納得の仕方をしていた。それらがまったくの別モノで、かつヒップホップと関係なくてもDJと呼べるものであると知ったとき、なんだよ紛らわしいという怒りと共に思い出したのが、ECCのCMなのだった。「ON AIR」という灯りのついた部屋でリスナーに語りかけながら、最後にターンテーブルをこするキャップ姿のともさかりえ。ぼんやりした「DJ」観のすべてを都合よく詰め込んだあの絵面こそ、自分のDJ像を不正確かつ強固にさせた元凶だ。

日野自動車のCMでともさかりえが歌っていた「ふたりで旅に出たいな~」という曲を祖父はいたく気に入っていた。もしCDになっていたら探してほしいと頼まれ、当時リリースされていたすべての作品を借りてチェックしたが発見できなかった。そこでふと頭をよぎる別名義「さかともえり」の可能性。確かシングルもアルバムも出している。そちらではないのか。でも「さかともえり」で出していた作品のテイストとあの曲はずいぶん違う。いや、もしかしたら更に別名義(「えりもとさか」とか「とりさかえも」とか「えもとさかり」とか「かりもとさえ」とか)があって、密かに出していたりするのか…何だかキリが無さそうで、想像がエスカレーションする前に早々に諦め、祖父には「CDになっていないんだ」と伝えた。それからずっと後になって、その曲は「友坂理恵」名義で台湾限定リリースされていたと知った。

texture
人気赤マル急上昇中のJUDY AND MARYが明治製菓のCMに出ていた。最後の決め台詞で、ボーカルのYUKIが「食ーべるのだぁ~」とこちらに語りかける。それが気恥ずかしくって、とてもこのCMが嫌いだった。特に、言い方。勝手で雑なキャラ設定というか、代理店の頭の中にしかいないYUKI像を過剰になぞっているというか…しかもそれが彼女の本分とまったく食い違っているというか。とにかくその後を含めて、「食ーべるのだぁ~」な彼女はそのCMの中にしかいなかったのだから、この演出は失敗だったのだ。最近になってこのCMのことを思い出し、一緒に笑おうと友達の家でYoutubeを見た。「食べるのだ。」とごく普通に言っていた。「食ーべるのだぁ~」は自分の頭の中にしかなかった。

Tokyo NO.1 Soulsetのライヴのチケットが取れなかったチケ難民が、渋谷クアトロの前にたくさんいた。いつものようにクアトロ内にあったワルシャワ・レコーズに行こうと入り口に向かったら、後ろから服を引っ張られ、男の人から「チケット譲ってくれよ~!」と言われた。ソウルセットのライヴに行く人だと勘違いされたのだ。びっくりして何も言えずに固まっていたら、その男の連れの人が「お前、あきらめろよ」という感じで彼の手を引っ張り、去っていった。

フジテレビでやっていた「ふぅふぅごはん」という料理のミニ番組のオープニングの再現をクラスメイトとよくやっていた。沖縄民謡のような曲調、「すきなこと」という言葉以外何を歌っているのか聞き取れない、おそらくどこかの方言だろうと思われる歌詞の響きを面白がっていた。オープニングの印象が強すぎて本編を殆ど覚えていないが、女優の戸川京子が出ていたことは覚えている。その当時はもちろん彼女がミュージシャンだったとは知るはずもなく。

「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」が、幼稚園時代のモスト・フェバリット番組だった。加藤と志村が探偵、ゲストが依頼人という設定のコントがメインで、アクションにとにかくお金がかかっていた。コントなのでもちろんゲストもおかしなことをいろいろするのだけど、その中でもある回に「お嬢様」と呼ばれて出てきた人がとびきり面白かった。ピアノをでたらめに弾いて「これはベートーベンです」と言ったり、急にドスの利いた声になったり、家を3歩だけ出て「1、2、3。散歩終わり」と帰ってしまったり…とにかく素っ頓狂で、エキセントリックな女性だったのだ。ずっと後になってそれが誰だったかふと気になり、母に聞いてみる。「あー覚えてる。戸川純ね」

「親子クラブ」という、宇宙人のロンパパとルンちゃんというキャラクターが突然やってきて、日本の家族から日常の知恵やマナーを教えてもらう教養ミニアニメがあったが、本編よりもオープニングのやたらリヴァーブをかけた音が強烈で釘付けになった。冒頭のキックの強いドラムはその後自分が出会うイギリスのシューゲイザーバンド、ライドの「Dreams Burn Down」に通じていく。金属音のような、まるで氷山を打ち砕くようなサウンドが夕方4時、「親子クラブ」のブラウン管を通して聞こえてくる。今にして思えば自分のシューゲイザー原体験はこの「親子クラブ」だったのだ。

anouta

anouta

友人の集まりから発展し、2012年ごろより年1回ペースで、音楽をテーマとするZINEの作成をしているグループです。主なメンバーは本業が報道職の若山と、本業がデザイナーの宮崎。

Reviewed by
武村貴世子

名刺に“DJ”とだけ書いていた頃。「DJということは、クラブで回しているんですね!」とよく言われた。
だから私は名刺に“ラジオDJ”と明記している。

ラジオパーソナリティやナビゲーターという言葉が自分の中でしっくりこないのは、
自分が今の職業を目指した時、「DJになりたい!」と言っていたので、
私は今でも、DJという言葉で自分の仕事を表現している。

DJと名乗る人達は、きっとそれぞれの意味をとても大事にしていると、私は思う。

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る