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2F/当番ノート

Music From Memories 3

当番ノート 第26期

ミスター・チルドレンの4thアルバムが出るというニュースを音楽雑誌で知り、そこには「人気爆発確実」みたいなことが書かれていた。雨の降る中、その人気爆発確実のAtomic Heartというアルバムを地元のCDショップで買い、自転車のカゴに入れた。帰宅中、カゴを上から覗き、袋からチラリと見えたCDケースは見たことがない色をしていた。カラーケース初体験だったのだ。紺地に小さなフォントが乗せられただけのミニマルなアートワーク。信藤三雄の仕事、新しい時代との出会いだった。

インドに行きたくもないのにインドに行きたいとしきりに口にしていた高校時代が恥ずかしい。横尾忠則の「インドへ」を読んでいたのは、よく聴いていたYMOの繋がりからだったか。吉岡と曲を作って、カセットテープに吹き込み交換し合っていた。楽器を使った記憶が無いから、お互いにアカペラで吹き込んでいたのだと思う。高田馬場のバーミヤンでぼくはインドの話をし、その後吉岡は「インドに行ったその朝に~」という出だしの曲を作った。彼の才能は絶頂期を迎えている、その手ごたえを確かに感じた。彼はX JAPANの影響で、すべての曲の最後で「DAHLIA~!!!」と叫んだ。

小学生のとき、岸谷吾郎のラジオ番組に出ることになった。ミュージシャンの大崎聖司が首都圏に出没し、リスナーが彼のギター演奏で変な歌を歌うコーナーだ。姉とその友達がメインで、なぜか弟の自分も呼ばれた。姉達は彼がその場で作った変な即興曲を歌い、岸谷五朗がジャッジして合格をもらっていた。このコーナーに出られるのは女性ということが条件らしいのに、なぜか「弟くん」として「姉ちゃんテレビ見せてくれよ〜」という歌を歌わされ、岸谷五朗から見事不合格を頂いた。

姉が買ってきた徳永英明の「Revolution」というアルバムは、タイトルやジャケットからしてとてもカッコよく映った。「汚さないでね」と言われたので特に気を使い、ブックレットをめくっては歌詞や写真を眺め、CDデッキに耳を傾けていた。そこまで徳永英明に思い入れがあるわけではないが、その緊張感の中で丁寧にジャケットや歌詞カードを見るという行為自体が、とても記憶に残っている。ちなみに自分にとっては「壊れかけのRadio」でもアニメ版ドラゴン・クエストの主題歌だった「夢を信じて」でもなく、このアルバムに収録されている「絆」という曲が徳永英明の代表曲だ。この曲はシングルになっていないが、後になってテレビCMからも流れてきた。

「夢を信じて」を「ドラゴンクエスト」というアニメで聴いて、信じられないかもしれないが「この曲は女性が歌っている」と思いこんでいたのだ。ハスキーな人たちの系譜。葛城ユキとか中村あゆみとか…(名前までは小3当時把握していなかったので、”なんとなくあの辺のイメージ”と言ったほうが近いか)。ミュージックステーションでスーツ姿の男性が歌っていたのを見た時ですら「ずいぶん男っぽい人だ」と思ったくらいで、母親にその場で「この人、女の人だよね?」と聴いて笑われ、誤解が解けた。しかしどうして名前を確認しなかったのか。今後は性別は名前でちゃんと確認しよう、と思った2年後、今度は「GAO」という歌手が出てきて、再び混乱…
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吉岡と録ったカセットテープのほかにも、実家には爪を折ったテープが数本眠っている。そのうちのひとつにラジオ「中島みゆき・お時間拝借」の最終回もある。当時の中島みゆきの新曲と同名のドッグ・フードが紹介され、「それが今日はここにあります。さっそく味見してみましょう」と彼女はドッグ・フードを食べ始めた。

「みなさんのおかげです」で松本伊代が「悲しくてやりきれない」を歌っている。うわあなんていい曲なんだ。しばらくこの曲は彼女の歌だと思っていた。

YMOが93年に東京ドームでコンサートを行った翌日に、テレビのワイドショーでそのダイジェストをずっとやっていたのをなぜか見ていたという記憶。学校はどうしたのか。しかしこのYMOとの初接触は衝撃的だった。彼らが10年前の音楽界に革新をもたらしたこと、そして活動の再開自体が歴史的であることをナレーションは頻りに強調していた。「ビハインド・ザ・マスク」のカッコよさに痺れてしまい、これはスゴイ人たちだ、ぜったいにこのニュースを見ておかないと、と彼らの演奏を凝視した。主旋律を弾く人は知っている、世界的な作曲家。元々このグループだったのか。もう一人のキーボード…は知らない人。そしてドラムにひどく衝撃を受ける。え、この人、CMにめっちゃ出てる人じゃん!

それから数年後に高橋幸宏がやっていたAXELという深夜番組の音楽チャートは、オリコンではなく、HMVでの売り上げをメインとする独自のチャートだった。こんなものが局地的に流行っているのかと、目を光らせて毎週楽しみに見ていた。時は渋谷系全盛。カヒミカリィもコーネリアスもニール&イライザも、HMVでは1位を当たり前のようにかっさらっていく。

ミスター・チルドレンと桑田佳祐のジョイント・ライブに、あまり仲良くない近所の先輩に誘われたのは親同士が仲良かったからで、そうした事情に子どもを巻き込むのはやめてほしい。フーやピンク・フロイドなどロック殿堂入りアーティストのカヴァー・ライブで、ビートルズ以外はまるで知らない曲ばかりで申し訳なくなった。「マネー」という曲で「マネー」とはっきり聴こえた。こりゃカタカナの歌だ。アンコールはクレージーキャッツの「悲しきわがこころ」の替え歌で、ドラムスの男に当時あったゲイではないかという噂を、「桜井としかヤってません」と歌って茶化した。ドッと笑いの起こる代々木。惨めな気持ちで帰路に着いた。

anouta

anouta

友人の集まりから発展し、2012年ごろより年1回ペースで、音楽をテーマとするZINEの作成をしているグループです。主なメンバーは本業が報道職の若山と、本業がデザイナーの宮崎。

Reviewed by
武村貴世子

カセットテープの爪を折るというのは、ちょっとした決意がいる作業だった。
爪を折れば、もうこのテープには新しい出会いを上書きできない。
それでも今、私の手の中にある大事だと感じる音を消したくないという思いで、
パチンと爪を折る瞬間、そのテープは自分の宝物となった。

あの頃、HMVのチャートというのは不思議な魅力を放っていた。
作品をリリースするたびに、1位を獲得していく、渋谷系アーティスト。
彼らの楽曲を聴くことが、最先端の象徴として語られていた。

あぁそうだったよなの時代感。
当時の自らの景色も蘇る。

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