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2F/当番ノート

粗末な飽食

当番ノート 第27期

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育ちなのか、仕事柄なのか、食材や料理の廃棄には人並み以上に抵抗があります。

例えば今年の節分・・・「恵方巻き」の廃棄量のすさまじさにネット上に嵐が吹き荒れていました。

特別な日でなくとも深夜のコンビニに行くと、賞味期限をチェックしながら廃棄物を集めているのであろうカゴに、まるでモノのようにパンやおにぎり、惣菜などの食品を投げ入れている姿を目にします。

買う方はもちろん期限切れのものなどわざわざ買いたくないでしょうし、売る方も決まりで売るわけにはいきません。

双方の事情は理解できながらも、食べられるものが捨てられている光景は胸にモヤモヤが残ります。

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さて、時代は「食の安全」がトレンド。

「無添加」「有機」「天然~」「身体に優しい」「地球にやさしい」などなど
「ナチュラル」や「ヘルシー」といった食事からのアプローチが非常に目立ちます。

当店もそのようなうたい文句は一切使っていないものの、実際に野菜は無農薬栽培のものや、ワインも所謂「自然派」と呼ばれるものを比較的多く取り扱っていますし、当然ながら化学調味料も使っていません。

ただこれは別に、思想の問題というわけではなく、自分たちが美味しいと思った食材や、信頼できる生産者さんたちとのお付き合いを続けている結果、たまたまそうなったというだけです。

もちろん、決して合成食品添加物や化学調味料、または農薬などを積極的に擁護するつもりはありません。

ですが、巷にあふれている「自然」あるいは「自然なつくり」とは一体何なのでしょうか?
また「天然由来」であることと「化学的に作られたもの」と「健康」や「安全」との因果関係はどこにあるのでしょうか?

もちろん人体に少なからず悪影響を及ぼす化学物質は沢山あるでしょうし、ワインや食品において、ただ生産性を高めるために使われるそれらの物質については肯定する気はありません。

ただ、病気の治療や予防に「薬」を飲むなどして使用する人間が、「薬」を使用された農作物やワインなどを全てひとくくりに否定する姿が存在するのは若干不思議です。

また「天然」由来の物でも身体に悪いものは沢山存在します。
フグ毒もトリカブトも大麻も全て「天然」物です。
例が極端ではありますが、「自然」「天然」が「健康、安全」とは限りません。

日本の食文化が「不自然なもの」と自身で評価する世論ですが、世界でもまれに見ぬの食料の低自給率に対し、食品廃棄率が世界一であるこの国において、頭ごなしに「保存料」が否定されていることの方がよっぽど不自然である気がするのは私だけでしょうか?(この間に因果関係があるかは別の話ですが・・・)

「こだわりの無農薬野菜」を作る農家さんがいるように、「体に害のない食品添加物」の開発に命を懸ける科学者さんもおそらくいることでしょう。

インターネットが普及し、様々且つ膨大な情報が手に入る現代・・・
宣伝の仕方に問題のあるものも多いですが、商品自体に善悪はありません。

大切なのは受け手側の問題・・・
一つの情報に惑わされず、多面的な切り口で切り取り、どの情報を自分に落とし込むか・・・ということだと思います。

そのうえで結果的に何を信じ、何を好むのかは人それぞれですよね。

「(通称)無菌豚」(SPFポーク)は豚肉自体が無菌なわけではないですし、「脂肪ゼロ」や「糖質ゼロ」も「完全にゼロ」ではなく「ゼロに限りなく近い」という意味合いのことが多いわけです。(共に含有率が0.5%以下であれば法律として表記上ゼロと表示して良い)

また、真の意味で「全く精製されていない砂糖」などというものも存在しません。

何が言いたいかというと何事も盲目的、極端はよくなくて、バランスが大事ですよね・・・というふわっとしたまとめで如何でしょうか?(笑)

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ちなみにではありますが、日本の食料自給率は生産額ベースで約64%
カロリーベースで約39%
極端に言うと、我々が摂取している’(食べている)エネルギーの約60%は輸入食材によるものだということです(あくまで平均値)

対して食料廃棄量は世界一の年間1800万トン
現在、世界で年間に1500万人以上の餓死者が出ている中、1800万トンという数字は約3000万人分の年間食料量に相当するようです。

ただし、1800万トンという数字は生ごみ等含め全ての食料廃棄物なので比較しても仕方がないですが、その中でも食料ロス(冒頭の恵方巻きのような期限切れや食べ残し、期限内に腐敗させてしまったものなど、本来食べられたものであったはずものの廃棄)は年間500万~800万トン

これは日本人一人あたりがおにぎりを2~3個捨てている量にあたるそうです。(皆さんが直接ゴミ箱に入れているわけではないでしょうから実感が薄いでしょうが)

先にも述べた通り、もちろん一概に紐づけることはできませんが、短絡的に考えると添加物、保存料の使用が減れば減るほど食料ロスは増えてしまうのではないかとも思います。

対して、現在日本人の平均寿命は世界一
健康寿命(介護等の必要なく、日常生活に支障のあるような病気、けががない自立して過ごせる年齢)の平均も現在で既に世界一です。

コレは日本の医療の発達なのか、日常的な食生活なのか、或いは他に起因するものがあるのか・・・。

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改めて表記しますが、私は特に合成食品添加物や化学調味料、または農薬などを積極的に擁護するつもりはありません。

私もそういったものをほとんど使いません。

より長く健康でいること、いようとすることも悪くはない・・・もとい、素晴らしいことだと思います。

趣味や嗜好としては何ら問題ありませんし、素敵な取り組みかとは思います。

ただし、それが何か「えらいこと」をしていることにはあまり(全くとは言いませんが)なっていません。

世の為、環境の為、地球の為、そして人の為と先に述べた「食の安全」とが必ずしも直結はしないのではないかと、個人的には思うのです。

問題の解決は、何を選んで食べるかといったような表層的なことではなく、もっと根深く日本の、そして世界の食文化の根本的なところからでないと望めないような気がします。

よくあるシチュエーションかと思いますが・・・
あなたはスーパーに行ったとき、欲しい商品の賞味期限が近いものと先のものが並んでいるとしたら、どちらを買いますか?
その商品に保存料が入っている時と入っていない時で選択が変わりますか?
直近の期限の違いで選ぶ時と、数年先の期限の違いで選ぶ時とで気持ちはどう違いますか?

・・・と、特に対案を出すわけでもなく、一石を投じて、投げ捨て御免

ドロン

井口隆之

井口隆之

Concerto オーナーシェフ
1982年生まれ
私立武蔵高校卒業
アロマフレスカグループ、TACUBO(現)等で研鑽と積み、2013年 東京都渋谷区 代々木上原にて「Concerto」を開業
オープン初年度よりミシュランガイド ビブグルマン部門掲載

日々料理を創造しながら、どうでもいいことばかり想像しています

Reviewed by
ヤカ

食べたい時に沢山食べられるものがある飽食の国だからこそ、もっと根本的な部分を見つめ直す必要性があるのではないか。
食品を廃棄する姿ほど悲しいものは無い。

スーパーで食品を買っているとき、奥のものから食材を取る人がいる。
パッケージの原材料部分を凝視している人がいる。
店員さんにこの食材一部分傷んでいたから商品を変えてほしいという人がいる。
コンビニでは期限が切れる商品を廃棄しているし、
回転寿司屋さんではある程度まわって選ばれなかったお寿司を躊躇なくごみ箱にポイポイ投げ捨てられていた。

生産者の規則も、消費者の気持ちもわかるからこそ、
選ばれることなくそのまま廃棄される食品のことを考え余計につらいきもちになる。

ゴミ箱に食べられるために生まれてきたわけじゃないのになあ。

国からみたら埃のように小さくても、廃棄させる食品を少しでも少なくできるよう自分ができる事をしていこうと改めて感じた。

みなさんはいかがですか?

ドロン

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