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2F/当番ノート

家のこと

当番ノート 第29期

一人暮らしをして、2年ぐらい経過した。
はじめてこの家を見に来たとき、ここに住んでみたいな~と
なんとなく自分が住んでいる様子が思い浮かんだ。

異性とお付き合いする時も、きっと、そう。
自分がその人とお付き合いしているのが思い浮かばないと、
なんだかしっくりこないなと思い、前に進もうとしなくなる。
イメージと違った展開が待っているかもしれないのに、
しっくりこないその先に、しっくりが待っていたかもしれないのに、
それを選択することができない。

家を探すのは、恋人を探すのと似ている。

人がどのようにして家を決めているのか。少し気になる。
家の雰囲気ではなく、立地や金額でポーンと決めてしまうのは男性が多そう。
特にこだわりがなく、どんな人ともお付き合いできるタイプかな。
何件も物件を見ても決めかねている人は、慎重に自分に合った恋人を探すタイプかな。
人との出会いもだけど、家探しも出会いだと思う。

私の今の家は、夏は暑くて、冬は寒い。
最上階だからか、日があたって夏は熱されているように暑いし、
天井が高いからか、冬は部屋全体が暖まりにくい気がする。
この家に住んでいて、う~んと唸ってしまうのは、その室内の温度ぐらい。
キッチンは広いし、小さいけどダイニングスペースもある。
欠点と思う部分も含めて、この家が好きである。

この家に住み始めた頃、家と私には距離があった。
家も生きているのかと思うほど、お互いがよそよそしく、緊張して暮らしていた。
家に帰ってきたはずなのに、疲れる。
癒しの空間なんて私にはないのかなと思ったり、
家に帰ってきて疲れるってなんだよと自分に感じていた。
次第に、家に居る時間が落ち着かないからか、友人と遅くまで遊んで、寝に帰るだけの時期もあった。
もういよいよ、家との距離ができた状態になっていた。
同棲している恋人たちの悩みのようなことを思い始めていた時、意識して家で長く過ごすことにした。
一緒にいる時間が二人の距離を縮める作戦だ。
作戦内容は、家でごはんを作り、そして食べること。
掃除をたくさんすること。
たまに友人を呼んで、家と私でおもてなしをすること。
友人たちが帰った後に、片付けをしていると、家に「お疲れ様」と言われたような気になる。
家も素直なのか、少しずつ空気が変わってきた気がする。
「家ってさ、暮らしていくうちに固い空気がやわらかくなっていくんだよね。」と友人が言っていたのを思い出した。

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少し前に、引越しをする話があった。
自分の中でもその話は乗り気で、物件も何件か見に行ってみた。
入った瞬間になんか違うなと感じる物件だった。
なんとなく悪くないとは思うけど、住んでいる自分が想像できないし、家の印象がのっぺりしていて掴みどころがないようにも感じた。
そしてそれらの物件を見ていると、今の家のことを思い出して心配というか不安になった。
これは、ちょっといいなと思う男性がいたけど、今の彼が頭をよぎるのと似ているのかもしれない。

結局、引越しはせず今の家にいる。この家が好きなのだ。

田中 晶乃

田中 晶乃

ただの会社員。ようやく30代の仲間入り。
東京生まれ東京育ち。

お酒と器とラジオが好き。
インドに行ったり、シェアハウスで暮らしてみたり、
特になりたいものはないかもしれないけど、のんびり暮らすのが好き。

Reviewed by
中田 幸乃

「作戦内容は、家でごはんを作り、そして食べること。
掃除をたくさんすること。
たまに友人を呼んで、家と私でおもてなしをすること。」

これは、晶乃さんが、自分の家と仲良くなる作戦。


わたしは、”おもてなし”をすることが苦手だ。
ハイ、それはもう、本当に苦手なのだ。
誰かのためにお茶を淹れるだけでも、もうダメ。
湯呑みからお茶が溢れる。
その反省を生かし、以後、湯呑みに注ぐ量が明らかにに少ない。
豆乳は爆発させるし、ズボンの裾に引っ掛かって転ぶ。
一人でいるときは起こらない失敗ばかりする。
怖い。
苦手を通り越して、もはや、おもてなし恐怖症だ。
わたしの部屋へ遊びに来てくれた皆さん、ごめんなさい。

さて。
わたしは、今の家以外に家探しをしたことがない。
新しい家を探そうと思ったことも、ない気がする。
あれこれ考えすぎて、結局、決断することができなくなる自分を想像して、うんざりしてしまうから。

だから、家でごはんを作り、食べ、掃除をして、
自分によく馴染むようになった家に、人を招き入れることができる晶乃さんは素敵だな、と思う。

今住んでいる家を「いいな」と思ったときの、自分の感覚を信じ続けること。
そして、もっと心地のよい空間を、自分で作って、人に紹介できること。
晶乃さんが家と仲良くなるための作戦は、きっと、人間関係を築くうえでも大切なことなのだ。


わたしも、おいしいお茶くらいは出せるようになりたいな。
誰かが来るときのために、おいしいお茶っ葉を準備しておこう。

そう思いついた自分が、なんだか妙に嬉しい日曜日。

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