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2F/当番ノート

夕暮れの続きを探して

当番ノート 第31期

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夕日を追いかけていた。読み方も知らない町で、僕は夕暮れと夜に境目がないことを知った。黄金色に染まったコンクリート塀の間をひとりで進む。子どもの頃の話だ。アスファルトの匂い、長く伸びた影、湿り気を帯びた暑さ。僕はどこまで行けるだろうか。答えを探していた。見知らぬ風景に身を置くことに感じる不安と期待。夕暮れと夜のようにふたつの感情にも境目はなかった。

どうやって帰ったのだろうか。記憶がすっぽりと抜け落ちている。思い出せるのは鮮烈な夕日の輝きと、するすると流れていく見知らぬ風景。幼き日の冒険である。

20年を経てもなお、僕はあの時の夕日を求めて進み続けている。
正確には、走り続けている。
当時は隣町という狭い世界だったが、今は大きく広がった。南米やアフリカの砂漠、アマゾンのジャングル、急峻な山々などで行われるランニングレースが舞台だ。

標準的な大会では1週間にわたり、衣食に関わる荷物を背負い、250kmを走る。気温が40℃を超える砂漠では汗にまみれて、時にもうろうとしながらも。もうろうとしていると自覚できているので大丈夫、とブツブツ呟きながら進んだこともある。この独り言はチロルチョコのようにバリエーションが豊富だ。けがをした際は痛みがあるうちは大丈夫、意識があるうちは大丈夫など。呟く時は割と厳しい状況が多いので、チョコほどに甘くはない。

走ったところで賞金が得られるわけではないし、名誉はもらえるものならいただくが、さほど重要ではない。走る理由なんて夕日を追いかけていた頃とそう変わらない。

足を踏み入れたことのなかった大地に自分の足で立ち、まだ見ぬ風景を追いかける。目指しているのはゴールではない。あの日の夕暮れの続きである。今度はどこまで行けるのだろうか。純粋な好奇心にせかされて走り続ける。

とダラダラ書いたところで、初めまして、若岡拓也です。これからよろしくお願いします。

若岡 拓也

若岡 拓也

ローカル、移住、走ることなどを
題材にしてライターとして活動中
福岡県上毛町で地域おこし協力隊
海外の砂漠や山岳、ジャングルを
走る大会にチャレンジしています
7日間250kmが標準的な長さです
1984年生まれ石川出身の双子座

Reviewed by
朝弘 佳央理

子ども時代は初めてのことの積み重ねだった。

言葉を覚えた日のこと、
うんと遠くまで歩いて今日は地球一周したなと思ったこと、
眠る前に桂枝雀の怪談を見たら寝られなくなっていつも眠っている夜中にも世界は動いていると知った、
猫はおたまじゃくしを食べる、
雷が来るのはこういうときだと分かった日、
目の奥のほうでものを見ている人と、そうじゃないひとがいる、
さっきより遠くまで靴を飛ばせるようになった、
土に宝物を埋めると二度と見つからない。

懐かしい町に行って夕日を浴びながら歩いていたら、子供の頃にもこうしてじゃんじゃん日焼けをして歩いたことを思い出して、私はもう二度と子供時代を味わうことはないのだ、と立ち尽くしてしまった。
ああでも、とその時私は思ったのだけれど、こういう風におとなは何度でも生まれ直すことができるのかもしれない、これまで身体のなかに重ねてきた時間に幾度か立ち返りながら、そこからよし、と地面を蹴ってみることができるのだ。

大人になるとなかなか毎日は発見しないし、毎日は成長しない……ような、気がしてしまう。
けれど走っていると、実は全くそうではないことに繰り返し気づくことができる。

ランナーの若岡さんのコラム、公開から少々遅ればせながら、少しずつ紹介させていただきます。

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