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2F/当番ノート

斜め上の空

第40期(2018年8月-9月)

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夏が終わる匂いがした。

通り雨に泣いたアスファルト、信号が青に変わる。

私は探し物をしながら歩く。散歩でも、駅までの道も。いつも、少し見上げながら歩く。

田舎で育ったせいか、ひとごみが苦手だった。
すれ違うひと、ひと、ひと、ひと。目に飛び込んでくるひと、背景を連想してしまう、情報の塊が蠢くようで、都会の駅が怖かった。

目を合わせない、顔を見ない。戸を立てるようにして、今では駅でも揺らがない。それでも少し怖くて、真っ直ぐに前を見たりはしないけれど。

少し見上げながら歩く。ちょっと風変わりに見えるのかな。少し見上げながら歩く。建物の切れ端と、狭まった空と、

それから、電線が見える。

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空を探している。少し見上げて、景色を探す。
電線に囲われた空の、四角く切り取れそうな部分。

始まりは思い出せない。だけど、電線が好きだ。あまり共感されたことは無いけれど、私は1人でも電線が好きだ。

好き、は一やっかいだ。劇的に訪れる好きもあれば、気づけば住み着いている好きもある。

理由が説明出来ないと、うまく言葉に紡げないもどかしさの分だけ、もっと好きになってしまう。
きっと、言葉の向こう側で好きだ。

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どこにでもあるから好き、かもしれない。どこの街でも、好きを見つける。

今日も歩く。少し見上げて、電線を探しながら、歩く。

もうどの街も、怖くない。

山口絵美菜

山口絵美菜

女流棋士、ライター、観戦記者、造形作家
1994年、宮崎県出身。
2005年 将棋と出逢い、女流棋士になることを決意。
2013年 京都大学文学部入学
2014年 女流棋士デビュー
2017年 京都大学文学部卒業
2018年 造形作家デビュー、オリジナルキャラクター「平家駒音」をプロデュース(Twitter:@HirakeGomao)

Reviewed by
大沢 寛

時々、呼吸が浅くなり苦しくなることがある。
そんな時は人との接触を避けて、山や海に行きしばらく過ごすようにしている。
ぼくの場合、自然と調和をはかるのが、自分の呼吸を取り戻すのにいちばん適している。

見上げると電線…
都会の空を見上げると、建物と建物の間を電線がひしめきあうように配線されているが、よくよく見ていると、次第に幾何学的な模様に見えてくることがある。場合によっては、浮世絵に描かれる梅の木の枝のように。

都会に暮らすと、密集した建物や人の多さにうんざりし疲れることもあるが、日々の生活の中でちょっと視点を変えてみると、普段見慣れた光景にも愛着を感じ、ホッとする瞬間を得られる「好き」が見つかることもある。わざわざ遠くまで気分転換を求めに行かなくても、ちょっと視点を変えて周囲を見渡してみると、じつは意外と近くに「好き」はあるのかもしれない。

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