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2F/当番ノート

彷徨う人へ①

当番ノート 第51期

雨の日が続きます。去年、出口のない6月を過ごしてから、1年が経ちました。深い梅雨の中で溺れていた。ここから2週間は少し苦しい話にお付き合いください。

去年の6月、地方の大学に進学したはずの妹が、都内にある実家に帰ってきました。入りたての大学を退学すると言うのです。「本当は叶えたい夢があった。自分の気持ちを無視して、4年間、違う勉強をし続けることはできなかった」それが妹の言い分でした。家族は何も否定せず「勇気のある決断をしたね」と妹の覚悟を受け入れました。

その夜は、溢れる感情を止められず、夜通し涙が止まりませんでした。周囲を巻き込んででも一度決めた道を引き返す強さが、憎たらしいくらい、うらやましかった。私にはないものでした。

ほどなくして、大きな荷物とわずかな思い出を引き連れて正式に帰ってきた妹は、再度大学を受験するために、いろんな人の力を借りながら準備を始めました。

一方、私は仕事以外の大半の時間を眠りに費やすようになりました。何も考えたくなかった。普段あまり夢は見ませんが、この時期は過去の夢を繰り返し見ました。

いつも決まって同じ場所にいます。ランドセル置き場にあるシルバニアファミリーの人形。畳の部屋に散らばったカラフルなおはじき。ちいさくて薄暗い中庭。ホールに並んだ一輪車。大きなブロックのおもちゃ。ざあざあと降る雨の音。ほこりと湿気のにおい。7歳の私が、かつて過ごした息の詰まるような場所です。

小学1年生の頃、2ヶ月間だけ学童に通っていました。酸素の薄いせまい空間で、みんなと一緒に、規則正しく放課後を過ごすことが苦痛でした。どうすれば苦しさが消えるのか分からず、よくホールの前にあるトイレに駆け込みました。しかし吐いても吐いても、楽になるどころか口の中が酸っぱくなるだけで、途方に暮れました。日を追うごとに、目眩や吐き気はひどくなり、事務室の布団で休ませてもらいながら、母の迎えを待つ日が増えていきました。

夢は、学童の先生から、あるひとことを言われたところで終わります。ゆっくりとしゃがみ込み目線を合わせて、話し出す。「やめたいのなら、こんなことをしないで、自分の口で言うのよ」。

もう十数年も前のことです。この言葉は重たく沈み私の中の一部になっていますが、急にこんな夢を見るようになるなんて。明けない夜が鈍く続きました。

そして、季節だけが容赦なく夏へと向かっていくのです。

ほたるいか

ほたるいか

ほたるいか

あくせく働く20代。水色が好き。秋が好き。ムーミンが好き。ハイボールと日本酒が好き。雨が大の苦手(頭が割れてしまいそうに痛むから)。とっておきの一冊は今日マチ子の「センネン画報」。三姉妹の真ん中。写真はラムネの中に入っていた、よい匂いのするビー玉。

Reviewed by
田中 晶乃

胸の奥がぎゅっと痛くなる。
ほたるいかさんの経験とは違うが、学童のあの空気を私も知っている。
楽しいと思えなかった場所。学校の先生とはどこか違う先生たち。
今思えば、みんなの見せない寂しさが少しずつ集まっている場所だったのかもしれない。

先生からの言葉を読んで、涙が出てきた。のどの奥が痛くなる。
私自身にも当てはまる言葉だったからだ。
わかっているけど、自分の中の想いをそう簡単には出せない。
伝えていたら何か変わる?変えてくれる?
どこからどう何を伝えたらいいのか。単純なものではなくて。

人生の先輩として、子供である自分を1人の人と扱ってくれた言葉。
大人になってもどこまでもその言葉が追いかけてくる。

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