雨の日が続きます。去年、出口のない6月を過ごしてから、1年が経ちました。深い梅雨の中で溺れていた。ここから2週間は少し苦しい話にお付き合いください。
去年の6月、地方の大学に進学したはずの妹が、都内にある実家に帰ってきました。入りたての大学を退学すると言うのです。「本当は叶えたい夢があった。自分の気持ちを無視して、4年間、違う勉強をし続けることはできなかった」それが妹の言い分でした。家族は何も否定せず「勇気のある決断をしたね」と妹の覚悟を受け入れました。
その夜は、溢れる感情を止められず、夜通し涙が止まりませんでした。周囲を巻き込んででも一度決めた道を引き返す強さが、憎たらしいくらい、うらやましかった。私にはないものでした。
ほどなくして、大きな荷物とわずかな思い出を引き連れて正式に帰ってきた妹は、再度大学を受験するために、いろんな人の力を借りながら準備を始めました。
一方、私は仕事以外の大半の時間を眠りに費やすようになりました。何も考えたくなかった。普段あまり夢は見ませんが、この時期は過去の夢を繰り返し見ました。
いつも決まって同じ場所にいます。ランドセル置き場にあるシルバニアファミリーの人形。畳の部屋に散らばったカラフルなおはじき。ちいさくて薄暗い中庭。ホールに並んだ一輪車。大きなブロックのおもちゃ。ざあざあと降る雨の音。ほこりと湿気のにおい。7歳の私が、かつて過ごした息の詰まるような場所です。
小学1年生の頃、2ヶ月間だけ学童に通っていました。酸素の薄いせまい空間で、みんなと一緒に、規則正しく放課後を過ごすことが苦痛でした。どうすれば苦しさが消えるのか分からず、よくホールの前にあるトイレに駆け込みました。しかし吐いても吐いても、楽になるどころか口の中が酸っぱくなるだけで、途方に暮れました。日を追うごとに、目眩や吐き気はひどくなり、事務室の布団で休ませてもらいながら、母の迎えを待つ日が増えていきました。
夢は、学童の先生から、あるひとことを言われたところで終わります。ゆっくりとしゃがみ込み目線を合わせて、話し出す。「やめたいのなら、こんなことをしないで、自分の口で言うのよ」。
もう十数年も前のことです。この言葉は重たく沈み私の中の一部になっていますが、急にこんな夢を見るようになるなんて。明けない夜が鈍く続きました。
そして、季節だけが容赦なく夏へと向かっていくのです。
ほたるいか