当番ノート 第25期
今日のニューヨークは土砂降りだ。こんなにも降り続く雨を、久しぶりに見た。普段は雨が降っても傘をささない人たちも、さすがに今日ばかりは傘なしではいられない。思いゆくまま降り続けてもらい、明日からカラっと晴れてくれたらいいなと思う。春はまだか。 福島からの来客があった。とは言っても私が呼んだわけではなく、ニューヨークで開催される講演に参加するためにやってきた。知り合いと久しぶりに会える、しかもニューヨ…
当番ノート 第25期
夏の休暇が始まると、僕とミアキは毎年祖父の家へ泊まりに行く。休暇のはじめから二週間は、必ず祖父が独りで暮らす家で過ごすのが僕たち従兄弟の決まりだった。 僕は数えで十一歳、ミアキは一つ上の十二歳になる。親族の中で数少ない歳の近い男同士、それに互いの趣味も良く合うためか、僕たちはお互いがいれば遊び相手には困らなかった。 ミアキは母親の血が濃い整った相貌に利発な頭を持っていたが、いかんせん少々気難…
当番ノート 第25期
三重県地図を眺めていると道の軸が見えてくる。高速道路に国道、旧街道と時代を重ねても伊勢神宮に吸い寄せられのびているのだ。なんだか磁石に吸い寄せされる砂鉄みたい。 「三重のおへそは神宮にあり!」企画会議の時、発行人の一声で街道歩きの新シリーズがスタートとなった。ご遷宮目前の2012年、来るご遷宮を目標に各街道を健脚女子2人が神宮へ向かって各街道をいく。東海道から派生する伊勢街道に、京・大和方面から続…
当番ノート 第25期
君がぼくのことを、一番好きだった瞬間に それはたぶん、ぼくの予想では2年くらい前だと思うけど もしいま、10秒だけ あの時の君がぼくの前に現れたとしたら ぼくは、なにをするだろう なにか言うだろうか 休みの日、雨。 起きたらもう昼前で 寒いしベッドから出れないでいるぼくは ぼんやりとそんなことを考えています 休みの日の、頭の悪い…
当番ノート 第25期
“私、考えるんだよね。欲しいものは手に入ったなって。好きな仕事でしょ。ボーイフレンドでしょ。この町もしっくりくる。 “……でも何かひとつ、たぶんあとひとつなんだけど、足りない気がする“ その言葉たちを聞いたとき、パズルのピースを集めているみたいだなと思った。 今をずっと続けられれば、それで幸せだと思うんだ。それじゃいけないのかもしれないけど……” “ ◎ これが大切だと思うものを、ひとつずつ集めて…
当番ノート 第25期
“僕が旅にでる理由は だいたい百個ぐらいあって”*と、くるりの岸田さんが歌の中で歌っていた。 私がニューヨークに来た理由も、百個はないが結構ある。一つ目の理由は、その曲の一節とまた似ていて、その時自分がいた場所で息が詰まりそうになったのと、小さな理由が山ほどと、大きな理由としては、この街に溢れるエンタテインメントと、行動さえ起こせば巡ってきそうなチャンスの影に心奪われたから…
当番ノート 第25期
家の扉が叩かれたのは午后のハーブティーを淹れようと読書の顔を上げ、立ち上がった時だった。 窓から差し込む光は淡昏く、雨音は朝からずっと硝子を叩き続けていた。細く降り注ぐ音の中で読書をするときほど、幸せな瞬間はない。 こんな雨の日にわざわざ訪ねてくる人間はそういない。よっぽど急ぎの用か、よっぽどの変わり者かのどちらかだ。おとなしく本を読んでいた相棒が扉の方を見るなり、慌てて巣箱に帰っていくから…
当番ノート 第25期
東京から単身三重に飛び込んでNAGI編集部に入舎。ローカル出版物に携わる仕事がスタートした。慣れない土地での日々は目まぐるしく、入って間もなくして山登り取材に駆り出され毎日があっという間に過ぎていった。学生の頃のようにコンスタントにモノクロ写真が撮れない。焦りを感じつつも日々の生活に追われていった。事務所の窓に広がる田んぼが掘り返され水が差し鏡のように浮かび上がっていく。植えられた稲が茂りだし穂が…
当番ノート 第25期
別れた人に会ってきた それ別れてないじゃんね 魔が差したというかなんというか、 さみしかっただけなのかもしれないし もしかしたら、どんな顔だったか思い出したかったのかもしれない 結果から言えばね、 会うんじゃなかったなって思う たのしかった たのしかったけどね 2メートルくらいの長さの棒の端を お互いのおでこにあてて 棒を落とさ…
当番ノート 第25期
旅先の窓の外に海が見える部屋で、ホゼの言葉を思い出していた。 「光はまだ知らないこと」 ああ、あなたの言った通りだ。と私は思う。 ホゼに会いに行った5年前、私は彼に「あなたにとっての光と影って何?」と聞いた。 怪訝な顔をした彼に、慌てて「陽射しがあなたの顔に素敵な陰影をつけていて、だから聞いてみたくなったの」と言い訳をしたのだけれど、あのとき私は切実に人の中にある光と影を知りたいと思っていた。 あ…