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Do farmers in the dark(35)

Do farmers in the dark

魚捕り放題(それはすごくしんどい、頭に穴が空いて焼き魚の目になった先輩たちの頭部が見える)

チャリスがやってくる。それはまるでずぶ濡れのハイソックスのように。(1)

クァンツ木村(カンツキムラ)は今日もバターを舐めて言った。

「うぅ~ん、今日もバターがベタァ~」

クァンツ木村、彼はとても、バターが大好きだった。彼はとてもバターが大好きだったんだ。そしてベターという英単語が好きだった。あらゆる選択肢の中でまさにこれはだいぶ良いという意味だ。

カンツは、なんというかネットリした顔つきの中年(50代)男性で、青ヒゲが目立つタイプの純粋無垢な紳士だった。なぜ青ヒゲが目立つのか。あろうことか、悲しいかな、彼がヒゲを毎日きちんと剃っていたからだ。ただ実際青ヒゲが目立つのは素晴らしい事だ。なんとなく紳士に見えるからな。髪は何も整髪料を付けていないにもかかわらず、ツヤツヤでネットリとした癖毛だった。

「クゥァンツさん、うぃ~す、おはようっすぅ~」

ライトニング数馬(ライトニングカズウマ)が、今日もある程度元気な挨拶でクァンツのアパートの部屋に訪ねて来た。

「おっすライトニング!今日もありがとうね~。バターでも食べる?」とクァンツ。

「バターは大丈夫です。いらないっす。」

「ヤギのバターだよ、とてもあっさりしてうまいよぉ~。なんか体にいい気もする。食べない?」

カンツは再度伺う。

「すみませんバターはいらないっす」

とライトニング。ライトニング数馬は坊主頭に、非常にまつ毛が長い切長の目をしており、小さなおちょぼ口が特徴の、太ってはいないが割としっかりした体格の可愛らしい中年男性(50代)だった。

カンツはある種の不毛なチケットを制作、販売、受け取りを一括して行う事業を行っており、それが功を奏し、何不自由無く毎日大好きなバターを3切れほど食べられる生活を送っていた。

そしてライトニングカズウマはその仕事を手伝い一緒に働いている。それはなぜか。友達だからだよ。

カズウマもカズウマで、ペコロス(ミニ玉ねぎ)と芽キャベツ(ミニのキャベツ)が大好きで、彼はカンツの仕事を手伝いよく働く事によって何不自由無く毎日大好きなペコロスと芽キャベツを3つずつ、合計6コも食べられる生活を送っており、あろうことかたまにそれらをわざわざ串刺しにして食べるような変態(ヘンタイ)だった。

爽やかな朝、もう10時半だ。窓に付いている薄緑のブラインドから漏れて溢れ出る陽光と、バターみたいに少し黄ばんだ白の壁に少しくすんだ汚れの色。とある街にある、安アパートの1室ふう、少し上等なプレハブふうの一戸建てがカンツの自宅兼事務所だった。

気付くとカンツは既にスプーンに残ったバターを全て、ネットリと舐め終わっており、とにもかくにも今日も仕事が始まった。

カンツは少しだけ厚手の大きな紙を用意し、部屋の真ん中にある大きな机の上に置いた。これからこの紙に活字を印字し、ある種の不毛なチケットを作るんだ。

そしてカンツは無事に大きな机の上に紙が置かれた(置いた)事に満足して(カンツはなぜか一瞬、自分が置いたのにそれが置かれたように思った)、すぐにパソコンに向かい、ゲームアプリをやり始めた。

Wizard-take power on the strength18-というゲームだ。2Dではなく3Dの奥行きのあるゲームで、プレイヤーは便器を操る筋骨隆々の魔法使いとなり、荒野にて遙か上空の神から地面にどんどん落とすように提供される5パターンの形の便器を日々のトレーニングで鍛え上げた逞しい腕で持ち上げ、鍛え上げた足を使った巧みなフットワークで、便器と便器と便器と便器とをうまく組み合わせ接着剤で接着させ出来るだけ大きな正多面体(正4、6、8、12、20面体のどれか)のたくさんの便器の集合体を作ったのち、それを物質を浮遊させ動かす魔法を使い対戦相手にぶつける。先にライフポイントが0になり事切れた方が負けだ。カンツは1時間ほどエンターキーと矢印キーを連打して便器を組み合わせていた。

その間カズウマは、部屋をウロウロと歩いたり、ブラインドから外の天気を覗いたりしていた。この日は覗くまでもないほど雲一つない晴天だった。庭が見える。庭は砂70%砂利10%その他20%くらいの割合の空き地ふうの地面だった。庭は家の4倍ほどの広さがあり、広々とした更地が見える。その更地ふうの庭の周りには、グリーンで塗装された1.5mほどの金網が囲っていた。カズウマはウロウロするついでにカンツのパソコンも何度か見た。カンツはいつ見てもキャラクターを操作し架空の便器で正多面体を組み上げていた。いつ見てもひたすらにエンターキーと矢印キーを連打している。その他はペコロスと芽キャベツを今日は何個食べるかとか、串に刺すか刺さないかとかを考えたりしていた。実のところカズウマはペコロスと芽キャベツを1個ずつポケットに忍ばせている。とにかく暖かな空間だ。カズウマはカンツの部屋が大好きだった。

ついにカンツはゲームをやめ立ち上がり、仕事の第二工程に入った。カズウマもそれを手伝う。

1時間ほど前に机に広げた紙に、もう一枚、1mmほどの厚さの硬いエンビ版を載せる。そのエンビ版には50枚分のチケットが作れるよう文字情報がくり抜かれており、そこに滑らかで粘性のある緑がかった黒色の塗料をヘラで伸ばすことでコッテリした文字情報が印字される。50枚分のチケットのもとが作成された。それをカッターで上手に切ってミシン目を入れ5枚綴りのチケットが10セット出来る。ものの5分で2人は手際よく事を運び、ひとまず文字を印字したところまで作業は進んだ。チケットには、

「ほら穴チケット」

「電話番号クァンツ木村(カンツキムラ)090-〇〇〇〇-〇〇〇〇」

「1枚1回」

と書いてある。カンツはほら穴を所有しており、そのほら穴への招待チケットを作り全国的に販売していた。

カンツは

「今回もなかなか、いいなあ」

と言った。

カズウマも

「ウンウン、いい感じ~」

と頷く。

そしてカンツはあらためてパソコンに向かい、先ほどの便器のゲームをやり出した。

ゲームをやりながらカンツはカズウマに、塗料が乾いたら夕方ごろ私と一緒にカットして、説明書と一緒に袋詰めしてもらえませんかな。と頼んだ。カズウマは

「アイアイサー、」

と言って、部屋をウロウロしたり、最近覚えた新式の筋トレをやり始めた。small cosmic movements(スモウル コズミック ムーブメントス)という名前だった。何も持たずに直立してやる筋トレで、決して体、腕や足を大きく可動させる事無く、体の内側から生じる内部的な小さな動きを体全体にどんどん広げていき、体全体を高速でぶるぶる震えさせる筋肉トレーニングだ。内側から生じるエネルギーがどんどんと波打つように体全体に広がり、同じところに立ったまま体のありとあらゆる可動域がなかば自動的に動き出し、上下左右に高速で大きく震える。立ち止まったまま非常に激しいブレイクダンスをしているようにも見える。カズウマの目は激しい自身の頭部の動きで部屋の四方八方を視界に収めていた。チラリと一瞬視界に捉えたカンツは便器を組み合わせていた。肺は呼吸をせずとも、肺の近くにある筋肉の動きに合わせて浅く、どんどん速く、ヒュッヒュッヒュッ、ヒュッヒュヒュヒュヒュヒュコココココォ~ッッコゥぅェア~!と高速で自動的に空気を出したり入れし、時にぅェアァァッ!!!と自動的に叫びのような声を肺そのものから発したりしている。少しして、カズウマは視界が白くチカチカし始めたのでやめた。

足がぶるぶるしていた。この新式の筋トレは、ヒザ横、モモ横、スネ周辺が主に鍛えられると評判だった。

その後もカズウマはウロウロウロウロウロウロしたり、そろそろお昼ご飯だなあ、昨日はのり茶漬けを食べさせてもらったから、今日は鮭茶漬けかなあ?ノリ茶漬けよりも、シャケ茶漬けがいいなあ、と思ったりした。いつも昼ごはんはカンツが作っていたんだ。

プルプルプルプル…..プルプルプルプル….

突然の電話。この電話が鳴ると言うことはつまり、ほら穴チケットを使いたいというお客さんからの電話だった。カンツはカズウマに、私が電話を取ろう。と言った。

いつもカンツは電話を取る時に緊張していた。これから客人をほら穴に連れて行く者として、精一杯紳士的に、明るく朗らかな声で受け答えしなくてはという気持ちで胸がいっぱいだった。そして20秒くらい呼吸を整え緊張でドキドキが爆発しそうな胸に手を当てながら、カンツは満を持して受話器を取った。

「アィぃぃぃぃ!!!ホラ穴のカンツ木村でヤンス!!」

~続く

隕石が割と柔らかそうで良かった
木澤 洋一

木澤 洋一

ふと思いついた事や気持ちいい事や、昼間に倒れてしまいたいような気持ちを絵にしています。

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