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3F/長期滞在者&more

家日記 2020年9月

長期滞在者

束の間の休暇は、久しぶりに海へ。

神奈川県には10年以上住んでいたのに不思議と愛着がわかず、東海道線に乗りながら「本当はもっと遠くに行きたい」と思っていた。けれど江ノ島や鎌倉を歩いていたら、いつの間にか「このへんで良い物件はないかな」と考えはじめている自分がいる。

海に近い土地から離れて8年経つ。いつかまた海を身近に感じられる場所でと思っていたのが、急に芽吹いたようだった。

ただ広い、大きな海があるということ。たったこれだけのことが、どれほど生活に、人生に影響を与えるか。

ただし今住んでいる家も居心地がよくて到底捨てがたく、海辺の家はふたつめの家にして2拠点生活にしようかなどと考えてしまう。私の欲深さ、神奈川県なんてと言っていたのに手のひらを返す早さときたら……。

叶うだろうか。ふたつめの家。

9月1日(火)
深夜に旅行券を手配する今井くんと純君。どうやら航空券がセール中らしい。私もどこかに行きたい……と思いつつ、思うだけのままである。

9月2日(水)
ホルモンバランスのせいだとわかってはいるのだけれど、情緒が安定しない。ものすごく悲しい気持ちになってしまう。こんなとき、たった一錠飲むだけで気持ちが晴れやかになる合法的な薬があればどれだけいいだろうかと思う。

9月3日(木)
住人会議。感染症のリスクがある時期に、来客をどうやって受け入れていこうか?と話し合う。それぞれの考えがきけてよかった。そして・・・れいちゃんの転職が決まったときいてとても嬉しい!!よかった。

9月4日(金)
純君の知り合いからもらったというゼリーを食べさせてもらう。美味。

9月5日(土)
今日はアパートメントのマルシェの作品を管理人の家から発送する会。電車に乗って出かけるのが最近めずらしいし、人に会うのも嬉しい。マルシェはとても良い体験だったけれど、次はリアルな空間で展示ができたらいいな。

9月6日(日)
めずらしく、一日中眠ってしまう。過労気味。

9月7日(月)
ひどい頭痛。台風一過のせいだろうか。うんうんと唸っているうちに、今井くんが古い洗濯機を買い手に搬出してくれていた。ありがたい・・・。

9月8日(火)
明日から仕事だというれいちゃん。なんだか喜ばしい。今井くんから今日は日中暑かったことを教えてもらう。家にずっといると外の様子がわからないのは、不健康だな・・・。

9月9日(水)
ずっと家にいても日が落ちるはやさは感じられる。夜はカネタタキの鳴き声。季節が過ぎていく。さみしい。

9月10日(木)
二日酔いでしんどそうな昴君。昴君、そろそろ肝臓を労った生活を送ろうね。

9月11日(金)
スターバックスでフラペチーノを飲んだことがないという純君。そう言われると飲ませてみたくなる。そういえば住人のみんなとはごはんに行くことはたまにあっても、お茶をしたことは一度もない気がする。

9月12日(土)
前の住人、絹江ちゃんが無事に出産したと連絡が入る。めでたい!感染症に気をつけながら産むのは大変だっただろうな。無事でよかった!

9月13日(日)
涼しい。そのせいか、力がかくんと減ってしまって、気力もない。

9月14日(月)
夜、れいちゃんの家族が送ってくれという梨と、純君の家族が送ってきたというシャインマスカットを食べた。元気が出てくる。果物は偉大なり。

9月15日(火)
豚キムチの香りが漂う。昴君の遅い夜ご飯。

9月16日(水)
今井くんから10月からGoToキャンペーンが都民にも適用されると聞かされる。10月。休む暇はなさそう・・・。

9月17日(木)
帰宅してぼんやりしていたられいちゃんの梨を食べることができた。梨。ずっと食べていられる美味しさ。

9月18日(金)
昴君が体調不良らしく心配である。感染症は未だに落ち着かないし、ワクチンに関するニュースは不穏だし。

9月19日(土)
野球へ。今井くんから家賃のお知らせがきて、え、今月ももう後半なの・・・と驚いてしまう。

9月20日(日)
友人の芝居を見に新宿へ。芝居!?と驚かれそうだけれど、おそらく私が見てきた企業、店などのコロナ対策の中で最も気を使っていたと思う。検温はもちろん、荷物は床に置かない、会場内では会話なし、などなど・・・演者とお客さんを守りながらもパフォーマンスしている姿をみて、本当に頭が下がる。しかし外に出てみれば連休で人出がすごくて、一目散に帰る。やれやれ。

9月21日(月)
今井くんと純くんは山を登ってリフレッシュしてきた様子。いいなあ。私は読みたかった本をじっくり読んで過ごす。休暇に海外に行く予定がないのは何年ぶりだろうか。

9月22日(火)
相変わらずゆっくり眠り、本を読む。今井くんがお土産に買ってくれたぶどうを食べる。こんなふうにのんびり過ごすのが久しぶりなので、ちょっと落ち着かない。ニュースを見るとどこも人出がすごいそうで、ますますどこかに行く気が失せる。

9月23日(水)
私の休日といえば神保町にいって本を買い、お茶を飲みながら読み、のんびり歩いて帰るのが定番になりつつあり、しかしこれはこれで私にとって非常に落ち着く過ごし方である。

9月24日(木)
夏休み。けれど遠出は厳しいということで、近場の海辺へ。海にきたのは久しぶりなので、何度も「やっぱり海辺に住もうかな」と考えてしまう。

9月25日(金)
肌寒い。すっかり秋になってしまって、ちょっとさみしい。深夜に純くんが帰ってきた。仕事でトラブルがあり、コンビニで買ったおにぎりをこれから食べるのだという。お疲れ様・・・。

9月26日(土)
今日はコールセンターになるイベントをするという今井くん。今井くんがコールセンター・・・? 知り合いのラーメン屋店主からかかってきたりと、なかなか楽しかったらしい。オンラインイベントの時勢にあっている。

9月27日(日)
家中がしっとり。今の除湿機も住人の洗濯物を乾かすためにフル回転。

9月28日(月)
れいちゃんが夜ご飯にラーメンを食べているのを見て、ついうらやましくなってしまう。韓国では、一番美味しいラーメンは他人が食べているのをつまみぐいするラーメン、という定説があるらしい。

9月29日(火)
DJIのOSLOを買った今井くん。顔は浮かない。どうしたのと聞いたら、「技術についていかないと生き残れない・・・」と真剣な様子。元気を出してくれ。せっかくOSLOを買ったんだから配信でもやればというと、自撮りなんて!という。わかる。私の世代は自撮りに対する抵抗感のある人がやや多い印象。

9月30日(水)
9月が終わることに唖然としてしまう。部屋のドアを開けたまま寝落ちしているらしい純くん、早寝のれいちゃん、きっとまだ起きているのであろう昴くんを深夜に感じる。今井くんはどこかへ旅立った様子。

浅井 真理子

浅井 真理子

もの書き。
エッセイを書いています。

Reviewed by
黒井 岬

海の音を聞くと安心するのはなぜだろうと思ってみたけれど、森の音でも川の音でもたぶん安心してしまう自分は、どうやら単純に都会に退屈して疲れている。
凪いだ海のささやかな波の音で始まる音楽を、遠くから届けてくれた人がいた。私はその音楽をすぐに気に入った。自然が聞かせてくれる音を捉え直して作品に織り込む行為は、自然の気配の傍に住んで生活しながら見つめることと、もしかしたら似ているかもしれない。

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