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3F/長期滞在者&more

家日記 2021年4月

長期滞在者

振り返ってみると目の疲れにやられているこの数週間。

薬局に駆け込んで「目が痛い」と泣きついたら、タクシーの運転手が指名買いするという飲み薬を教えてもらった。最近は家でつい仕事をしすぎてしまい、体に悪影響が出ているひとが増えているそう。

何事にも良い面と悪い面がある。なるべく外に出ない生活を続けて一年以上経つけれど、誰かと直接話したときの温かさをしみじみと感じたり、マスクをしないでくしゃみをしている人を見かけてぎょっとすることは、今でも私にとっては新鮮で、ときにショッキングなのだ。

4月1日(木)
エイプリルフールだったらしいが、住人はみんな帰りが遅くそれどころではない様子。昔は昴君がエイプリルフールにふざけたブログを書いたりして、楽しく読んでいたのだけれど。冗談に精を出す時勢にならないかな、といいつつ私も仕事に追われる。

4月2日(金)
れいちゃんと、ニュースを見てると気が滅入るね、と話す。一週間くらい何も見ないでいたら少しは楽になるだろうか。

4月3日(土)
ここ数日、今井君を見ていない。今日は純君も見ていないし、どこか遠出でもしているのだろうか。

4月4日(日)
最近気を抜くと眠ってしまう。今日も夕方、気圧が下がりに下がっているとき、こんこんと眠ってしまった。目が覚めると、れいちゃんの作るガパオライスの香りが漂っていた。ナンプラーの匂いって、食欲を刺激するんだよな。

4月5日(月)
ようやく今井君を見かけた。どうやら北陸に行っていたらしい。生きていたのなら何より。

4月6日(火)
ふっと人の気配がなくなり、気づくと家にひとり。こんなこと、感染症が蔓延する前はしょっちゅうだったのに、今ではめずらしい。

4月7日(水)
目が痛くて何もできない。しかし仕事を休むわけにもいかない。居間の明かりすらまぶしく感じる。

4月8日(木)
「目が…もうだめ…」とふらふらになりながら帰宅すると、昴君以外の住人はまだ帰っていない。この家は働き者が集うなとつくづく思う。私は標語というものが好きではないのだけれど(効果がないし、なんだか嘘っぽく見える)、「働きすぎていませんか」と張り紙を貼るのもありかもしれない……。

4月9日(金)
お風呂上がり、純君のカレーと昴君のラーメンの二重攻撃で嗅覚を完全にやられる。夕食を食べたはずなのにお腹が空いてくる。

4月10日(土)
外出から帰宅すると、昴君しかいない。静かな土曜の夜。私が以前買ったインド土産のお香を焚いたらしく、甘い匂いがする。

4月11日(日)
人のいない週末。いつもなら窓を開け放って換気したくなるところが、今日は肌寒くてそんな気が起きない。

4月12日(月)
近所のカレー屋がめずらしく休業しているとれいちゃんから共有される。経営難?感染症にかかった?とにかく店員たちが無事であればいいのだけれど……。色々勘ぐってしまう。今井君はここのカレーを週に2日は食べていたので大打撃に違いない。

4月13日(火)
そら豆をグリルで焼いていたらもうもうと煙が立ち上り、れいちゃんが窓を開けてくれた。ごめんなさい……!!あとちょっとで火災報知器が鳴るところだった。

4月14日(水)
夜、23時を過ぎても純君と今井君が帰宅していない様子。私といえば最近、夜出歩くといえば深夜の徘徊だけである。

4月15日(木)
帰宅途中、飲食店が20時に閉まっているのを見て、今って緊急事態宣言なんだろうか、それ以外の何だっただろうか…と考えこむ。そんなこと考えても何にもならないのだけれど。

4月16日(金)
人の気配がない。日付が変わるくらいになってようやく純君が帰宅した模様。久しぶりに会ったねと言い合う。

みんな出かけてばっかりなのか、私が家にいすぎるのか。

4月17日(土)
今日、何回も転びそうになっているという昴君。明日は昼間に用事があるくせに、深夜から仕事をしなければならないという純君。この家は平和なのか、実はそうではないのか、時々あやしく思える。

4月18日(日)
晴れた日。人が少ないのを見計らって、お風呂をハイターで消毒し、窓を大きく開け放つ。庭の雑草が少しずつ生えてきたのを確認して、もしGW暇だったら草むしりでもするかと考える。今年もきっと、みんなどこか遠くへ出かけることはないだろう。

4月19日(月)
頭痛で朝、寝込んでしまう。眼精疲労が抜けない。純君が仕事する気配を感じる。弱っていると人の気配だけで安心する。

4月20日(火)
れいちゃんが最近始まったというドラマを見ている。不思議なことに、私はこの家の住人がテレビを見ていると安心する。その人が何かを見て楽しんでいることが嬉しい。実家にいた頃はそんなふうに感じたことはなかったのに。

4月21日(水)
今井君と久しぶりに居間で話した。九州に行ってきたのだという。お土産の丸ぼうろが美味しくて、あっという間にふたつ食べてしまった。

4月22日(木)
深夜に帰宅した純君、こたつのなかで久しぶりに寝落ちか……?と思ったけれど、きちんと部屋に戻った様子。夜はまだ冷えるから気をつけましょう。力を使い果たした顔をしている。

4月23日(金)
手に力が入らない。家で仕事した日はもともと記憶の色が薄くなりやすいけれど、今日はずっと夢の中にいるようだった。家が静かなせいだろうか。今井君もれいちゃんもいないし、家で仕事していたはずの純君の気配も途中から消え、昴君は二日酔いで弱々しい。

4月24日(土)
「サウナのAirBNBがあればいいんですよね」と居間で話す純君の声が聞こえ、思わず怪訝な顔をしてしまう。サウナのAirBNBとは……?

4月25日(日)
ディズニーランドを堪能してきたというれいちゃん。どうやら人数制限で、入念に感染症対策されているらしい。ちゃんと対策されたところなら、人が行っても良いと思うのだけれど。デパートも書店も一斉に閉めてしまうやり方は納得いかない。

4月26日(月)
今井君が最近、ずっと出かけている気がする。何をしているのだろう。純君までいない。

4月27日(火)
この季節に調子が悪いと感染症を疑ってしまうのが嫌なところだけれど、私の場合はあきらかに眼精疲労で、眠っても目の痛みや頭痛が抜けなくなってきた。整体に行ったほうがいいのだろうか。この家の住人は整体に行くとすっきりした顔で帰ってくるものの、私は知らない人間に体を触られることにわりと抵抗がある。

4月28日(水)
純君が最近お腹いっぱい食べていないという話を聞き、驚愕してしまう。たくさん食べてたくさん動く純君が……。心配になり、明日は寿司でも焼き肉でもなんでも食べに行きなよ!と言う。

4月29日(木)
この日記をレビューを書いてくれてるみさきさんと語り合う。文字のやりとりだけでは補えないものを感じる。苦しいことや辛いことが、少しずつほぐれていってほしい。

4月30日(金)
仕事へ。緊急事態宣言が出ていても、電車は混むし、東京の外に出ればデパートは開いている。純君が整体に行ってすっきりしたというので何より。しかし「代休だからのんびり仕事ができた」とは……。

浅井 真理子

浅井 真理子

もの書き。
エッセイを書いています。

Reviewed by
黒井 岬

冗談に精を出していたい、できることなら。もちろん今だって、近しい人とまでも深刻なことばかり話しているわけではないけれど。
長そうな道のりに泣けてくるが、勇気付け合うことを、言葉を交換することを、時々でも摂取しながら歩めたら と思う。

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