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3F/長期滞在者&more

家日記 2018年6月

長期滞在者

私はすぐに疲れる。大声を出す人間、人のことを平気で悪く言う人間、刺激的な音や色や情報、そういったものに触れるとげっそりしてしまう。

だからこの家の住人の親切心と自立具合、静かに営まれる生活に私はとても助けられていると思う。

誰かが私と同じように日々を生きている。その息遣いを感じるだけで、私はほっとする。

6月1日(金)
そろそろ日付が変わる頃。家にいるのは今井君と昴君と私だけ。

今井君はかれこれ2時間以上電話している。なぜわかるのかというと、居間のすぐ隣の和室が今井君の部屋なので声が筒抜けなのだ。ちなみに彼はこのことをあまり気にしていない。私は電話で話すと1時間でも疲れてしまうので、やはり彼のエネルギーはすごいと思う。

6月2日(土)
朝、ヨドバシカメラのエクストリーム配達でハンドソープの詰替を頼んだら夕方に届いた。恐るべし。最近、この家で愛用している無添加石鹸のハンドソープが近所のドラッグストアに置かれなくなったのだ。

6月3日(日)
この日から出張のため、家で何が起きてるかはわからず・・・と思ったら、出張先に着いた途端恐ろしいメッセージを受信する。昴君の部屋でGの幼虫が3匹(!!!)確認されたとのこと。畳の裏が怪しいと聞き、震えながら宿に向かった。

6月4日(月)
出張先なので家のことはほとんど考えないだろうと思いきや、純君から庭の草むしりを提案され、絹枝ちゃんが予定調整ツールのページを用意してくれた。予定を記入。この家の住人の予定がいかに合わないかを痛感する。まあ3人も揃えばなんとかなるだろう。

6月5日(火)〜 6月9日(土)
この期間はずっと出張先で四苦八苦していた。

6月10日(日)
出張先から帰国。時差ボケのせいでほとんど寝て過ごす。

夜、居間で純君、昴君、今井君と柚餅を食べた。週末京都へ行っていた純君のお土産だ。見た目は素朴な薄緑色のお餅で、食べると柚子の良い香りが口の中に広がる。

6月11日(月)
台所の水垢の掃除をした。みんなが眠っている、あるいは出かけているときに掃除をするのは楽しい。

6月12日(火)
23時過ぎ、家にいるのは今井君と私だけである。帰国してから絹枝ちゃんの姿を見ていない。

1時近くになってから純君がお弁当を持って帰ってきた。これから食べるの?まだ仕事するの?と驚きながら、作ったばかりのなめこのお味噌汁をおすそ分けした。前日も彼は明け方まで家で仕事していたらしい。こんな世の中じゃ、少子化対策どころか恋ひとつする暇もない。

6月13日(水)
絹枝ちゃんの部屋にGの幼虫が出たと聞いて戦慄する。昴君の部屋にも先週幼虫がいたので、急いで対策を練る。とりあえず既に買ってあった屋外用のブラックキャップを設置することになった。私はとにかくGが苦手で、出現したら発狂寸前、大慌てで他の住人を呼んで駆除してもらっている。ああ、平和に過ごせますように。

6月14日(木)
用事で外に出て0時過ぎに帰宅すると、純君が居間で仕事をしていた。髪を切ってサッパリした様子。ちなみに純君と今井君と私は同じ美容院で切ってもらっている。電車に乗って行かなければならないのだけれど、馴染みの美容師がいるのだ。

一番遅く帰ってきたのは絹枝ちゃんだった。私の交友範囲が偏っているのは重々承知しているが、世の中の若者は帰宅が0時を回るまで働くことが当たり前なのだろうか?私は時々自分が怠け者なのではないかと怖くなる。

6月15日(金)
仕事から帰ってくると疲れが出たのか眠ってしまい、22時過ぎに起きた。少しだけ何か食べたいと思っていたら、めずらしく今井君の作ったごはんを食べられることに。滋賀の大津で買ってきた鮎ご飯。出汁がきいていて美味しかった。ちなみに今井君は料理ができないわけではななく、他のことで手が一杯なのだ。

6月16日(土)
絹枝ちゃんが薄手のコートを家で羽織っていた。確かにそれくらい寒い。私もニットのカーディガンを羽織る。時々小雨が降る。こういった気温差に私はとても弱い。

6月17日(日)
外でお酒を飲んで良い気持ちで帰ってくると、純君が居間で仕事をしていた。社員旅行から帰ってきたものの、仕事で発生した障害の対応中だという。神様は彼に何かご褒美をあげてほしい。お土産は沖縄の塩を使ったチョコレート付きのポテトチップス。食べすぎないように気をつけなければ。

6月18日(月)
出社前、大阪の地震のニュースを知って怖くなる。この家はいざというときのために非常食や非常用持ち出し袋、簡易トイレなども揃えてあるけれど、気になったので帰宅後に中身を点検した。非常食の賞味期限が切れていることもあり、新規購入を提案する。ちなみに前回購入したのは尾西のアルファ米とパン・アキモトの37ヶ月保存が効く缶詰入のパン。被災したときに毎日乾パンばかりでは精神的に辛いだろうという判断から、なるべく美味しいものを買おうとしている。

6月19日(火)
絹枝ちゃんが非常用持ち出し袋を出しやすいように押入れを整理してくれていた。ありがたい。

昴君がグロッキーな状態で帰宅。どうやら飲みすぎたらしい。ちなみにこの家でお酒を飲むのは今井君を除く全員。絹枝ちゃんはビールが好き。純君は飲むと赤くなるタイプで、昴君は飲みすぎると具合が悪くなるタイプ。私はウイスキーが好きなのだけれど、最近酒量が減っている。

6月20日(水)
低気圧で一日中頭が痛い。

汗をかけば少しは体が楽になるかと思い、ジムで軽くトレーニング。帰宅して汗だくのトレーニングウェアを洗おうと思いきや、パウエルは既に昴君の洗濯物を乾かすためにフル回転していた。昴君の服をずらしながら何とか自分の服も乾かす。

23時半時点で家にいるのは純君を除いた全員。純君の働きぶりはもはや私の想像の域を超えていると言っていい。

6月21日(木)
やはり純君の帰りが遅い。大丈夫だろうか。

6月22日(金)
割れ物のゴミの捨て方に対して、住人チャットで苦言を呈してしまう。今週はなんだかいろいろと疲れてしまった。

6月23日(土)
明日もし晴れていたら午前中に庭の草むしりをしようと話していたのだけれど、今日は生憎の雨。この分だと庭は水浸しになりそうだ。この家の庭は四方を囲まれているので日当たりも水はけも悪く、そのくせ雑草が生えると恐ろしい勢いで育ってしまう。純君は明日急遽仕事に行かなければならなくなり、申し訳ないと連絡してきた。そんなことより純君の体が深刻に心配である。

6月24日(日)
結局草むしりは中止。

夜、久しぶりに純君と話した。少し痩せたような気がする・・・。今夜はワールドカップなので24時から試合を見るのだと意気込んでいる。昴君はサッカー観戦に興味はないけれど、純君がいるなら見ようかなと言って居間へ向かった。私もついつい後を追いかけてしまい、最後まで試合を観てしまった。本田がゴールを決めたときトイレに行ってしまったことが何よりも悔やまれる。日本は強いなぁ。

6月25日(月)
最高気温は33℃。恐ろしく暑い。夜の23時時点で家にいるのは私と昴君だけのようだ。けれどこの家は全員が揃っていたとしてもかなり静かなほうだと思う。そして静かな家というのは私にとって何よりも大切な居場所だ。世の中はあまりにもせかせかとしていて、情報が多すぎるから。

6月26日(火)
2年前にこの家で漬けた梅酒が少し残っている。隙を見て誰かと飲もうと思っているのだけれど、最近は疲れてしまって声をかける元気もない。昔は昴君と飲んだりしていたのだけれど。昴君は最近バンド活動と仕事で忙しく、今日もバンド練習を終えて0時過ぎに帰宅してきた。

6月27日(水)
風邪のひきはじめだろうか。ほとんど横になって過ごした。自室にいても耳を澄ませていれば玄関の音が聞こえるので、誰かが出たり入ったりするのをぼんやりと感じ取っていた。

6月28日(木)
サッカーのワールドカップが23時から開始。少し遅れて純君が帰宅したので、絹枝ちゃん以外の全員で観戦。今井君は普段ほとんどスポーツ観戦をしないので、きっと純君の影響なのだろうなと思う。かくいう私も、誰かが観なかったら1時まで起きて観戦しようなんて思わなかっただろう。

キッチンにプロテインが置いてあったので絹枝ちゃんに聞いてみたところ、最近飲み始めたのだという。激うまチョコ風味と書いてある。どうやら美味しいらしい。

6月29日(金)
梅雨があけた。家の中が全体的にむわっとしている。庭を覗くと雑草が恐ろしく生い茂っていて密林のような状態になっていた。

一番早く帰ってきたのは絹枝ちゃん。かと思いきや、居間で仕事の続きをしているようだ。居間で仕事をするのは主に絹枝ちゃんか純君、そもそもフリーランスなのでオフィスとの垣根がそこまでないのが今井君と昴君。私は家には極力仕事を持ち帰らないようにしている。家だとどうしてもだれてしまうのだ。

6月30日(土)
昼間、誰もいない時間帯があったのでキッチンの掃除。異常に蒸し暑い。冷房の効いている部屋から出たくないような日だった。

外出先からの帰り道、ブルーレットや重曹やカビキラーなどを買った。1階のトイレが少しこもっているように感じると絹枝ちゃんが言っていたが、確かにそんな気がする。湿度が高いからだろうか。窓は開けているのだけれど・・・。古い家は色んなことが気になるけれど、手入れできるうちは可愛いものである。昔、ネズミに侵入されたときは流石に業者を呼ばなければならなかった。あれはこの家の大事件だったなと思う。

june

浅井 真理子

浅井 真理子

もの書き。
エッセイを書いています。

Reviewed by
黒井 岬

「密林のような」庭という言葉に勝手にわくわくしてしまった。忙しく働いたりサッカーを観たり虫に怯えたりしながら生きる住人たちを横目に、いつの間にか深度を増していく密林。草刈りが延期され続けたら、一体どうなってしまうのだろう。暖かい季節の、緑の勢いは容赦無い。

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