マイクに向かって喋る横顔を見守る。
緊張で震えるような表情。
全力でやるんだという瞳。
ほっとして笑顔が弾ける。
ラジオレッスンの講師として指導をしている声優養成所の生徒達と、
日本工学院レコーディングクリエイター科ラジオミキサー専攻の生徒のみなさんとの合同番組制作の授業。
ここ数年、夏になる前の恒例の景色となっている。
「今日はうちの子達が、お世話になりました。」
番組制作が終わって、私はそんな挨拶をしていた。
自分が教えてきた生徒達が「楽しかった!」と話している姿を見ていて、今日はとても良い日だと感じた。
「見守る」というのは、時にぐっと堪えなければいけないことが多い。
つい飛び出して、「大丈夫?」と声を掛けたくなるけど、ここは信じようと自分を押しとどめる。
また、見守るだけで何もできていないと苦しくなることもよくある。
ある時。何もできずに悩み続けていた私にこう言ってくれる人がいた。
「見守るのも力ですよ。」
この言葉を、それ以来私は大事にしている。
大きく深呼吸をする。
本編が終わって、そういえば息をしていなかったと思うくらいに、一曲一曲に集中していた。
2016年7月7日。Zepp Tokyo。
vistlipは今年もバンドを結成した日にライブを行った。
最初に彼らのワンマンライブを観たのが、2011年7月7日のことだった。
彼らにはあまりにも大きな悲しい出来事があった。
そして、活動を復活して、七夕の日に、初めてZepp Tokyoでのワンマンライブを行った。
あの日は、観ている方も緊張した。
当時の私の心境を一言で表すならば、「見守る」という言葉が適切であろう。
その時の記憶があるからだろうか。
7月7日、Zepp Tokyoというシチュエーションは、vistlipのライブを一番集中して観る日となっている。
2016年3月30日に発表されたミニアルバム『SENSE』。
視覚、味覚、嗅覚、聴覚、触覚という五感をテーマに、 メンバーがそれぞれ作曲を担当した5曲が収められている。
このアルバムが世に放たれた時。
私はヨルダンにいて、発売の時期に聴くことができず、それっきりになっていた。
帰国してからすぐに聴けばいいものの、なんだかタイミングを逃してしまったような感覚で、
CDショップで見かけても手を伸ばすことさえできずにいた。
だから、この作品でのリードトラックであり、メンバー全員で共作した、視覚をテーマとした「La Vista」という曲は、
vistlipの9周年の日となった、Zepp Tokyoのライブ会場で初めて聴いた。
ライブの1曲目だった。
スリリングなイントロの展開は、一体今夜はどんなライブになるのだろうという自分の緊張感と呼応した。
ステージには「La Vista」のMVで使用していた、
『SENSE』というミニアルバムのテーマである五感を視覚的に表した物が映し出され、
画面の中で表現されていた絵が今そこにいる現実のメンバーの姿と重なり合っていた。
私は目の前に広がる「La Vista」の堂々としたライブシーンに魅了された。
この日は、全曲演奏が始まると、曲の頭文字となるアルファベット一文字と
ヴォーカルの智さんが考えた、曲を表す「言葉」がスクリーンに映し出されていった。
vistlipの楽曲は全てにその曲にしかない独特の物語と世界がある。私はそれがすごく好きだ。
「言葉」をきっかけに、自分がその曲を聴いていた時の記憶や感情がどんどん膨れ上がっていく。
そして、2011年6月1日に、彼らが復活の音として渾身の想いと共にこの世界に届けた「SINDRA」に添えられた言葉に、
私はすっと心を掴まれた。
「ただいま。」
それは過去だ。
しかし、私にとっては、かけがえのない過去だ。
あの日、おかえりと喜び合ったこと。嬉しさに泣いたこと。
その想いは、一生消えない。
かき乱される想いというのは厄介だ。
けれども、その行動や発言一つで、自分の気持ちをあっという間に掴んでしまうほどの存在に出会えたことは、
自分の人生の中で尊いことだと私は思っている。
ライブが終わってから、聴かずにそのままでいた『SENSE』を買った。
その日のライブでは演奏されてはいないが、気づいたらこの作品に収録された、
「Rosalia Lombardo」というミッドバラードを何度も繰り返し聴いていた。
「あと何回かしか笑っていられない日々で、あと何回かしか伝えるチャンスが無い中で何が出来るのかな?」
“何が出来るのかな?”
それは今の私が、あらゆる場面において、日々自分に問いかける言葉だ。
もしも今、私が彼らの楽曲を放送できるラジオ番組を持っていたら。
彼らの最新作からの曲であること、そして、この日のライブのオープニングを飾った曲ということで、
迷うこと無く「La Vista」を選曲しているだろう。
では、なぜ彼らの楽曲を選ぶのか。
その理由は、vistlipというバンドのライブが、2016年の今、非常に状態が良く、
とにかく、今見て欲しいという想いを伝えるためだ。
私が観てきた中で、vistlipのライブはいつもすごいというわけではなかった。
おいおい大丈夫か!? と思うような演奏もあったし、
このままでいいのだろうか?? と余計な心配をしてしまうこともあった。
だからこそ、見守っていた。
今年の七夕に観た彼らのライブは、今のvistlipなら、どこにいっても勝負ができるだろうと思えるライブだった。
私が特にいいと感じたのは、楽曲の立ち上がりの早さだ。
こちらに隙を与えることなく、畳み掛けるように曲を演奏していく。それが気持ちいい。
繰り出される音に、エナジーが加わり熱量を上げる。
また、このバンドの歌詞の世界観の特異性は、その歌声を通して想像力を掻き立てる。
これから彼らが創りだしていく景色がどんなものになるのか。
私は今、これは楽しいことになりそうだ!! というわくわくした気持ちでいっぱいでいる。
バンドが歩み続ける姿を見ていて、心配になることも、まだまだこれからあるだろう。
だけど、揺らぎながらも迷いながらも、必死に今よりも良くなっていこうという強い意志を持って進む彼らは魅力的だから。
私はその全てを受け入れて、楽しみながら、見守り続けていくことを選ぶ。
7月7日のライブに行く前は、必ず神社の七夕まつりに行く。
短冊に書く願い事は、2011年7月7日に初めて書いたことからずっと変わっていない。
今年も、それは現実になるという迷いのない想いと共に、ペンを握り、短冊に願いを込めた。
笹に揺れる短冊を見つめる。
珍しくよく晴れた七夕の空に、将来を思い描く。
願っていたこの場所に来たねと、あなたと共に笑う日は必ず来る。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜14秒〜26秒”に乗せて。番組の1曲目として選曲。)
さぁ、今日の一曲目はvistlipです。
今年も結成の日となる、7月7日、七夕にZepp Tokyoでライブを行いました。
9周年を祝うこの日、オープニングを飾ったのは、
五感をテーマにした楽曲を収めた最新ミニアルバム『SENSE』から、メンバー全員が共作したこのナンバーでした。
今年の夏は、単独ライブツアーに加え、
lynch.、SuGとのスリーマンツアー「LSV」など、各地をライブで駆け抜けていく彼ら。
繊細なメロディと共に加速するバンドサウンドをライブで体感すると、
あなたを想像以上に刺激するでしょう。
vistlip「La Vista」