熱く沸騰した血が私の身体を駆け巡っていく。
試合のテンポは、まるで曲のリズムに乗っているような気分になる。
選手の動きを追い、ボールの音に耳を澄ませ、呼吸を共に走らせ、
プレイに合わせて、ここだというタイミングで言葉を発する。
秋はバスケットボールのシーズンの始まりだ。
私は、今シーズンも日本のバスケットボールのリーグで、試合のMCとしてコートサイドにいる。
バスケットボールの試合でMCをやってみませんか? と声をかけられたのが、1995年、大学4年生の時。
以来、今に至るまで、試合MCとしての仕事を続けている。
もう20年以上、秋から春にかけての週末はほとんどバスケットボールの現場で過ごしていることになる。
今シーズン、最初にMCをした試合は、女子のリーグである、
Wリーグ、富士通レッドウェーブのホームゲーム。
富士通レッドウェーブには、リオデジャネイロオリンピックで、バスケットボール女子日本代表選手として戦った、
長岡萌映子選手と町田瑠衣選手が所属している。
この夏のオリンピックで、バスケットボール女子日本代表「アカツキファイブ」は、
観るもの全てを興奮させる素晴らしい試合を展開し続け、8強入りを果たした。
私も毎回試合中継を見るたびに胸を熱くさせていただけに、
その代表選手がいるチームの試合のMCができるということにわくわくしていた。
目の前で展開していくオリンピアンのプレイは纏う空気がまるで違った。魅せられる。
私の声にも熱がこもる。試合を終えた時には、言いようのない興奮感でいっぱいになっていた。
11月4日に川崎市とどろきアリーナで行われた富士通レッドウェーブの試合の前には、
長岡選手と町田選手に、オリンピックでの8位入賞の原動力となったとして表彰式のセレモニーがあった。
その司会進行をしている時、スタッフが機転を利かせて、セレモニーのBGMとして、安室奈美恵「Hero」をかけた。
その瞬間、一気にアリーナがあの夏のオリンピックの空気に包まれた。
「見ていて」と言われると弱い。
大体において、私は「見る」側なのだが、
たまに「見られる」側になる時、そこに見ていて欲しい人がいると、
この人の前では絶対にかっこ悪い姿を見せたくないと、
自分のどこにこんな力があったのだ? と思うほど、これまでにないパフォーマンスを発揮することができる。
見られることで生じる精彩の経験が自分自身にもあるからこそ、しっかりと見ていようと思う。
見ることで、この人に備わった力が理想以上の輝きを放つならと。
見ている私と見られているあなた。
見られている私と見ているあなた。
それは思う以上に力を与え合う関係なのだろう。
目には見えなくても実際に間違いなくそこにある真実だ。
自分の中に強さが湧く時。
そこには、そんなに壮大な目標があるわけではない。
この人に笑って欲しい。
この人に喜んで欲しい。
支えてくれたあの人の気持ちに応えたい。
全てが終わったら一番に会いに行きたい。
君を思えば鼓動が高鳴る。
君を思う事で強くなれる。
自分がこの世界に生まれて、そんな人に出会えただけで、それはもう意義のある人生だったと言えるのではないだろうか。
安室奈美恵「Hero」は、NHKリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック放送テーマソングとなっていた。
連日のようにテレビからその歌声は流れ、iTunes Storeでもこの夏はトップソングの上位に入り続けていた。
年末へと向かっていく日々の中、2016年のヒットソングとして耳にする機会もあるだろう。
そんな時、もしも私がラジオで曲紹介をする時は、リオデジャネイロオリンピックの記憶はもちろんのこと、
自分自身に力が湧いてくるような存在への感謝、応援の熱情も込めて、この音楽に寄り添いたい。
見ていていつも思う。
あなたの強さに恥じないだけの自分で在りたいと。
あなたが見ていてくれるから、負けられない。
心の中に自分だけのMVPがいることが私を強くしている。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪アウトロ5分13秒〜5分38秒完奏に乗せて)
この曲を聴くと、リオデジャネイロ・オリンピックの興奮が蘇ってくるという方も多いと思います。
私もこの夏は、バスケットボールの試合を中心にオリンピックに夢中になりました。
自分を応援してくれる人がいる。それだけで勇気になりますよね。
あなたがいるから私は強くなれる。
お送りしたナンバーは、安室奈美恵「Hero」でした。