日本の春には動きがある。
それまでの生活や環境から、最も変わっていく季節。
私の周りでも様々な決断があり、
それぞれが、各々のやるべきだと思うことを胸に、距離にしたらかなり遠い場所へと旅立っていく。
そんな人達にぐるりと囲まれるような環境にいると、
自分がこの場所から動かないでいるのがいけないのではないかという気にすらさせられるが、
私は春の中で、いつもと変わらずに自分に与えられた役割を生きている。
でもこの波のない時間が、嵐の前の静けさだということも、どこかでわかっている。
静けさを味方にして、私は秘めた刃を研ぐ。
いざという時に、錆びついていないように。
私が知っているあなたの顔は、いつも苦しそうだった。
ここから抜け出したくてたまらない、そんな顔をしていた。
そして、その苦しみから解き放たれて、あなたが笑顔を取り戻した時、
私はその傍にはいられない。
2017年1月から3月まで放送されていたTVアニメ『クズの本懐』。
初回から、どきっとするほどエロティックなシーンが出てくるアニメで驚いたのだが、
見続けているうちに、登場人物たちの心理描写に引きつけられていた。
本当はこう思っているけど、それを出さずに、自分が傷つかずにいられる選択をしていく。
にこやかな笑顔の裏側には、残酷な目線も秘めている。
誰にだって、自分だけが持っている、色にしたら、黒と表現できる感情はあるはずだ。
もちろん、私にだってある。
アニメのエンディングテーマとなっていた、さユり「平行線」を聴きつつ、
とかく目を背けがちな、自分のそういう感情について考えていた。
そうすると、なんだか随分と自分は我慢をしたり、自らの幸せを他者に差し出しているような気がした。
気付いたら、自分の笑顔を自分で踏みつけるようなことばかりしている。
私に余計な痛みはいらない。感情は声に出るから。
声を仕事にしている私にとっては、私情のブレで声に影響が出ることがとにかく好きじゃない。
自分が掴んだ夢だったこの仕事に支障が出るくらいなら、プライベートは切り捨てる。
そうやって生きてきた。痛みに振り回されるのは、まっぴらごめんだ。
でも、そう思って生きていたって、
ふいに何気ない言葉で、自分の身体のどこにこんなチクリとする箇所があったんだと、疼いた情性の揺れに戸惑う。
心の痛みを完全に切り離すことなどできやしないことはわかっているのに。
それでも傷つかずにすむことばかりを探っている。
いつまで私はこの想いを言葉にしないつもりなのだろう。
きっと、言いたいと思った時には、今際の際だ。
毎年必ず見に行く、桜の咲く場所がある。
本当に静かで綺麗な場所だから、あなたに見せたいと思いながら、
結局この春も言い出せずに、一人で来ている。
桜を見上げながら聴いた「平行線」。
どこまでいっても一人の道を追求し続ける互いの進む方向は、交わること無く、それを良しとする。
行きたいところに行って欲しい。
あなたに笑っていて欲しいから。
だけど、これからの私の未来で、もし一つ何かを変えられるとしたら、
涙を流す顔だけじゃなくて、一番嬉しいと思う笑顔の時にも、すぐ傍でその声を聴きたい。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ✕29秒〜39秒”に乗せて)
このままでいたくないから、私は本音を一つ言葉にする。
傷口から咲く花はきっと鮮やかに色づく。
さユり「平行線」