Love is・・・に続くあなたの言葉は? と問われて、
私は時間をかけて、自分自身の中に息づく愛を探した。
「あなたにとっての愛とは?」
これまでにも何度だって聞かれてきた。
Love is・・・の問いを投げかけられたのは、今年のTOKYO RAINBOW PRIDEの会場でのこと。
“性的指向や性自認(SOGI=Sexual Orientation,Gender Identity)のいかんにかかわらず、差別や偏見にさらされることなく、
より自分らしく、各個人が幸せを追求していくことができる社会の実現を目指すイベント”で、
愛とは? という質問を前にして、私はその場に座り、時間をかけて考えた。
そして、周りをぐるっと見渡した時に、無数の笑顔が弾けていることに気付いた。
あぁ、この景色こそ、愛だなと思い、私はこう答えていた。
笑い合うこと。
愛という言葉は、LOVE、AMOUR、حبなど、様々な言語で表現されている。
だけど、笑顔という目に見える行為は、抱き合うよりも素早く、好意を伝えることができるはずだ。
多様性を尊重し合う人々の中で、考えた愛。
それは、今、私を最も突き動かしている愛に他ならない。
2016年3月22日。
その夜、私はかつて経験したことのない緊張感の中にいた。
ベルギーのブリュッセル空港での連続テロ事件が発生した状況の中で、
一人で中東のヨルダンへ向かうことになるという、予測もしなかった事態におびえていた。
成田空港から飛行機に搭乗し座席に座ると、目の前にある機内の音楽サービスを案内する小さなモニターに、
赤、桃、紫、青、水、緑、黄、橙の輪がグラデーションで繋がっていく、COLDPLAYのアルバムジャケットが映っていた。
私は迷わずその画面をタッチし、ヘッドフォンからその音を耳へと引き寄せた。
深夜のフライトの中で聴いた「Adventure of a Lifetime」は、不安をかき消してくれた。
“Turn your magic on”
そう歌い始めたこの楽曲は、
知りたい、学びたい、動きたい、感じたい、伝えたいという想いで日本を飛び出した私の生き方を肯定してくれた。
それでいいんだ、行ってこい! そう背中を押してくれた曲だった。
2017年4月19日。
東京ドームでのCOLDPLAY来日公演。この日が来ることに胸を踊らせていた。
普段は黒や白を纏うことが多い私だが、
会場には、Yellowのカットソーに、春に咲く花を淡い色彩で描いたストールを巻いて向かった。
待ち望んだ空間は、あまりにも理想的な場所だった。
日本語だけではなく、英語、中国語、アラビア語・・・私の耳では把握しきれないくらい、
世界の様々な言葉の音が飛び交っていて、ライブが始まる前から、楽しくて仕方がなかった。
何故、争っているのだろう?
ここのところ、世界はさらに不安定に揺らいでいる。その変化の速さに戸惑うことも少なくない。
日常の中で“ミサイル”という単語の登場頻度が増した。
今や“テロ”という文字をニュースで見かけることは珍しくない。
しかし、それらのワードが頻繁に飛び交うことに、私は強烈な違和感を感じている。
私たちが生きる世界に、人為的に危険を与えるような意味を含んだ言葉は、
果たしてこんなにもいつもの風景の中に顔を出していただろうか?
そんなことを考えている日々の中で観たCOLDPLAYの来日公演は、
「グローバル・インクルージョン(Global Inclusion、世界の調和・一体化などの意)」と「ポジティヴ」をテーマとしていた。
世界中でヒットした曲たちは、演奏が始まると同時に、人々が待ってましたと言わんばかりに大合唱。
来場者一人一人の手首に光るXylobands(ザイロバンド)は、曲に合わせてくるくると繊細に色を変え、
その光の集合体は、誰もが歓喜の声を上げずにはいられないくらい美しい輝きの演出を作り上げた。
自分が今いる空間では、言葉や文化、国籍も性別も年齢も関係なく、
一つのバンドの音楽で、約45000人もの人達が、一緒に笑っている。
「世界はこんなにも美しい」
その言葉に尽きる景色だった。
一番楽しみにしていた「Adventure of a Lifetime」は、
「Viva La Vida」に続けて、間髪を入れずに、その高らかなイントロが響き渡った。最高の瞬間だった。
私は自分でもわかるくらいにあふれんばかりの笑顔と共に両手を高く挙げて、全身から喜びを発光させるように歌った。
ヨルダン行きの飛行機の中で、不安を吹き飛ばしてくれたこの曲は、
今また、自分が感じている不可解な気持ちも一瞬で取り払ってくれた。
それだけじゃない。
自分に勇気を与えてくれた楽曲が目の前で演奏されているという事実によって、
私の中で力を弱めてしまっていた生命力も、息を吹き返した。
“Alive Again”
ライブが終わってから、興奮した気持ちのまま、手の中のiPhoneで、InstagramやFacebookを見る。
#ColdplayTokyoのハッシュタグを辿れば、笑顔と喜びと幸せばかりが無数に存在していた。
こういう感動を共に抱き、笑い合える人と出会えていることが、私にとっては世界の美しさそのものだ。
笑い合うことで、お互いの距離が近くなる。
そこに楽しさが生まれる。もっと言葉を交わしたいと思う。
そして、あなたと私の理解が深まる。
人と人が出会って、相互に笑みを浮かべるきっかけとして、
音楽が大きな意味を持つことを、これ以上にない希望と共に、今、改めて信じることができた夜だった。
誰も争いなんて求めてはいない。感じたいのは、笑顔が弾ける喜びだ。
それも自分だけが笑う世界よりも、
誰かと共に笑い合う方が、ずっと幸せだって、本当は誰もがわかっているはずだ。
笑顔のエナジーに、境界線はない。
私は知っている。世界がこんなにも美しいことを。
それは、どこかで聞いた言葉でもなく、誰かに教わったことではない。
今を生きている私自身が、この目で、この耳で、この身体で感じたことだ。
だから、何度でも言う。
世界はこんなにも美しい。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜17秒〜37秒”。〜16秒は聴かせて、17秒から37秒の20秒で曲紹介。)
この春、東京ドームで来日公演を行った、COLDPLAYのナンバーをお届けします。
世界の調和とポジティブをテーマにしたライブの中で、
この曲は、特に、一人一人の人生の尊さを、カラフルに表現していました。
世界はこんなにも美しいということを、音楽で伝える最高のナンバー。
COLDPLAY「Adventure of a Lifetime」