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3F/長期滞在者&more

「出会うことで生まれる、きらめきのような感情が、きっと明日を照らしてくれる。」【米津玄師「感電」(2020年7月6日リリース)】

長期滞在者

朝目覚めて、その日を終えるまでに、今日の自分を使い切る。
余力を残さず。
そして眠りについて、しっかりと力を蓄え、明日を生きる。

「無理をしてはダメだけど、無茶はしてもいい。」

ラジオDJとしてまだまだ駆け出しだったころ。
信頼するラジオディレクターが言ってくれた言葉を、もう一度自分に掲げたような夏だった。

2020年8月30日。
毎年夏に、レギュラーラジオ番組『Voice of Heart』を担当している練馬放送と共に開催してきた「南田中図書館1日ラジオ放送局」。今年は新型コロナウイルスの影響で開催できるのか危ぶまれていたが、図書館の職員の方、練馬放送のスタッフと共にアイディアを出しあって、感染症予防対策を万全にして開催。事前予約で満席になるなど、結果として例年以上の盛況となった。

子どもたちを中心に集まった人たちの笑顔が忘れられない。
外出ができない、イベントも開催されない。
そんな世情の中で開催されたこのイベントは、その場に集まった人たち全員が「楽しかった!」と伝えてくれた。
中には「最近は人に会ったり、声を出したりしていなかったから、本当に楽しかった」という言葉を届けてくれた人もいた。

このとき、ラジオDJ体験として、米津玄師「感電」のイントロ曲紹介に挑戦する時間を作った。
参加者全員がこの曲をかけた瞬間に「知ってる!」となったことで、いかに「感電」がこの夏を象徴するヒット曲であるかをを実感した。「感電」のイントロ曲紹介では、誰もがとても緊張しながらも、どきどきわくわくしながら言葉をマイクに乗せているのが伝わってきて、私の胸にも喜びがこみあげた。

この曲と共に溢れだした、参加者たちのきらきらとした笑顔の瞬間だけで、米津玄師「感電」は、私にとって、2020年の夏に忘れられない1曲になっていた。

毎朝、新しい1日を踏み出す最初の1曲として、扉を開けて歩き出す瞬間に、必ず聴いていた音楽。
高らかなホーンセクションのイントロの音が、私の視線を前に導いていた。

米津玄師「感電」。
2020年6月26日から9月4日まで放送されていた、綾野剛と星野源のダブル主演によるドラマ『MIU404』の主題歌として書き下ろされた楽曲である。

ドラマの初回を観てから、私は一気にこのドラマの虜になった。
ドラマが放送される毎週金曜の夜が楽しみで仕方がなかった。

このドラマの中で、特に印象的だったのは、
「人生は誰に出会うか」ということだった。
出会いによって、いかに、人生が形成されていくかということを、実感せざるを得ない作品だった。

この夏、様々な「出会い」があった。
どこから書けば良いのだろうかと思うほどに。

暗澹とした日々から、夏の太陽の熱の上昇に呼応するかのように、新たな局面を迎えた8月。
毎日を「生きること」に集中して過ごし、そして9月に入ったとき。
この3ヶ月ほど、必死で準備していたことが無事に決行された。

2020年9月16日。
日本工学院専門学校 ミュージックカレッジ 音響芸術科 ラジオスタッフ専攻にて、私がこれまで教えてきている声優養成所から選抜メンバー6名を連れて、ラジオ番組制作実習が行われた。

毎年恒例のこの授業も、新型コロナウイルスの影響で今年は実現できるかわからなかった。
なんとかやれることにはなったものの、外部からの入校規制により、打ち合わせはzoomでのリモート打ち合わせ。
ジングルの素材などは各自、家で収録をして送るなど、これまでにない準備を進めてきた。

それでも「直接会って、スタジオで番組を収録する」ということがいかに大切かということをわかりきっている先生方と相談をして、様々な厳しい中を調整していただき、無事にスタジオで全員出会って、番組収録をすることができた。

今年は、新型コロナウイルスの影響で、声優養成所でのラジオトークなどのレッスンが未だに行えていない。
だから、せめて6名だけは、なんとか連れて行って、レッスンをさせたかった。
スタジオで、マイクの前でしゃべることができたを、実現させたかった。

「夢を叶えたい」。
そんな思いを胸に抱いている人たちが、新型コロナウイルスの影響で、苦しんだり、悲しんだり、泣いている。
自分にできることは、本当に小さなことだが、それでも、自分も夢を叶えたいと走って生きてきたから。
だから、今夢を叶えたいと思っている人たちを、ほっとくわけにはいかない。
これは夢を叶えることができた私の責務だ。
そう思って、実現に向けて動いた。

当日の朝もやはり米津玄師の「感電」を聴いていた。
この実習で生徒たちが「出会う」ことによって、未来を輝かせて欲しいと願いながら。

当日は、生徒たちの緊張と全力、そして、悔しさがありながらも、挑戦した充実感と、何よりも、楽しそうな笑顔を見ていて、ほっとした。今年のこの状況を肌身に感じながら何かを実現できるということは奇跡に近い。だから、帰り道は、「感電」を聴きながら本当に良かったという思いでいっぱいだった。

そんな日々を過ごしながら、私はどうしてもやりきれない寂しさを抱えていた。
それは、目の前で人間が奏でる音楽との距離が未だに遠かったこと。
少しづつできることが増えてきても、大好きな「ライブ」に行けることは叶ってはいなかった。

2020年9月15日。
9月19日に行われる日比谷野外台音楽堂でのライブをもって脱退する、ロックバンド、メリーのギター、健一のラストインタビューが実現した。これは取材ができる前日に急遽決定したことだった。

メリーについては、このアパートメントでの連載において、2017年2月に記したが、出会ってからずっと見守ってきていたバンドだった。

19年共に歩んできたメンバーが脱退する。
しかもその最後となるツアーが新型コロナウイルスの影響で、延期、再延期と未曾有の事態となっていた。
そして、この健一というメンバーは、多くを語らない人だった。

大好きなバンドのメンバーが脱退する。
しかも、ツアーは新型コロナウイルスの影響を受けている。
8月からツアーは決行されたものの、感染症の怖さの影響は計り知れない。

私は、15歳のときに、バンドを応援したい。
そのためにラジオDJになろうという夢を抱いた。

だから、バンドへの愛で苦悩している人たちの姿を見ていることが、つらくてたまらなかった。

私にできることはなんだろう。
考えて、考えて、動いた。
そして、実現したラストインタビュー だった。

このインタビューに向かうときも「感電」を聴いていた。

「感電」が主題歌になったドラマ『MIU404』では、「間に合わなかった」後悔が、描かれている。

取材を録音した音声を聴きながら、文字として原稿にしているとき、どうか届いて欲しい、間に合って欲しいと、ただただそう思って書き上げた。
一体どんな思いでバンドを去る日を迎えるのか。
このインタビューが公開されるまで、私は絶対に死ねないと思うほどに。

ライブの前日にラストインタビューは公開された。
多くの感想を読んでいて思った。

間に合って良かった、と。

私は「間に合わなかった」後悔を抱えていた。

私の親友は、メリーが好きだった。
ライブでは、「群青」という曲の「幸あれ」というガラの唄声に泣いていた。
その親友は、4年前の夏に突然心臓が止まり、この世を去った。

親友は私の幸せを心から祈ってくれていた。
彼が亡くなる、その直前まで。

私の幸せ。
それはいくつかあるが、何よりも、私の人生の最大の夢である、バンドを応援すること。
それができることが、やはり何よりも私が私を生きているという喜びと幸せを実感をすることができている。

親友だった彼に私は「幸せだよ」と言うことができなかった。
私の幸せは、彼が生きているときには、間に合わなかった。

2020年9月19日。
新型コロナウイルスの影響で、あらゆるライブが中止、延期になってしまった世界で、やっと初めて行くことができたライブは、メリーの日比谷野外大音楽堂だった。ライブを観るのは8ヶ月ぶりで、空気はすっかり秋の匂いがしていた。

日比谷野外音楽堂のライブで、「群青」のときに、雨が降った。
その雨は、次の曲では止んでいた。そのまま雨が降ることはなかった。

届いたかな。
これがあのとき、君と話した「幸せ」の私なりの君への答えだよ。

高校生の頃から、バンドを応援したい、その思いでラジオDJになるという夢を追い、音楽と共に歩んできた私にとって、ギターの健一のラストインタビュー のインタビュアーを務めるという大役を担わせていただいたことは、一生忘れない。

そして、その最後のライブを見守り、ライブの楽しさ、ギターの音の素晴らしさを、心から実感するライブが、音楽とバンドとライブに激動の時代となったときに、最初に観たライブとなった。

そのことの意味を、私は今もずっと考えている。

2020年の夏は。
毎日が、痺れるような日々だった。

「たった一瞬の このきらめきを」

その瞬間に生まれる、出会ったときのきらめきを決して見逃さないように生きた夏だった。

「きっと永遠が どこかにあるんだと
明後日を 探し回るのも 悪くはないでしょう」

2020年は、あまりにも不安定だ。
永遠も、幸せも、どこにあるのだと、先が見えなくなるような不安に襲われる。

けれども、それでも、永遠も幸せも、どこかに必ずあると信じ、探し、前へ歩みを進める。

あきらめることなど、私にはできない。

米津玄師の「感電」という曲は、そんな私の気持ちに寄り添ってくれる、2020年の夏の最大の味方だった。

ここに書いたことは「感電」を聴きながら過ごした夏のほんの一部である。
「感電」を聴きながら、様々な出会い、奇跡のような時間は、まだまだあった。

これからだ、と強く思う。

脱退したメリーのギター健一が言っていた「未来は白紙だ」という言葉が、自分の中に強く響いている。

これからをどう生き、どんなきらめきを生み出していくか。
それは、きっと、「出会い」にあるのだろう。
誰と出会い、誰と寄り添い、誰と共に歩み、どんな未来を描いていくか。

どんな絶望の世にいようとも、
あなたがいれば、未来はきらめくように美しく描ける。

私の心臓は、今、確かに動いているから。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ×2秒〜19秒”に乗せて)
毎朝、この曲を聴くたびに背筋が伸びて、さぁ行くぞという気持ちになるんですよね。2020年夏のヒットドラマ『MIU404』の主題歌となったこの曲。困難な状況が続く世界でも、出会うことで生まれる、きらめきのような感情が、きっと明日を照らしてくれる。そう信じることができるナンバーです。

米津玄師「感電」



武村貴世子

武村貴世子

ラジオDJ、MC、ライター。
これまで、FM802、Fm yokohama、FM-FUJIなどで番組を担当。

ラジオ番組、司会、ライター、トーク&アナウンス講師はもちろん、
朗読と音楽のコラボレーションライブも展開中。

国連UNHCR協会 国連難民サポーターとして、
難民支援を始め、世界や社会への関心が深く、社会貢献活動にも積極的に取り組む。

また、タロット・リーディングの学びも深め、
フリーランスでその活動の幅を広げ続けている。

Reviewed by
宮本 英実

今年の夏は、とにかく色々と、思うというか、思い知ることが多かった。しびれるような出来事がたくさん。誰しもが初めての経験だらけの時間の中で、改めて感じる出会いやつながりの大切さ、残る言葉。その時々の一瞬を、悲しんだり、喜んだり、悔いたりしながらも、最後はぐいっと前を向く。武村さんの思いを時系列で追いかけながら、すべてはめぐりめぐるものだなーと、頭の中をグルグルさせた。

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