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3F/長期滞在者&more

「境界線を超えていく2人の言葉」【AKLO×JAY’ED「Different Man」(2017年9月6日リリース)】

長期滞在者

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「あれ? 前はもっとCDが積み重なっていたイメージが。」
「そうなの。だいぶ捨てたのよ。」

久しぶりに私の部屋を訪れた者からの言葉通り、
私の部屋から、多くのモノが無くなっていた。

深刻な理由はない。
時代の変化でCDを所有していなくても、これまでの自分の音楽のライブラリーをキープできる状態になった。
事実、私の周りのラジオDJ達からもだいぶCDを片付けたという話がよく聞かれる。

生活において、最も大事にしてきたことが、音楽を聴く環境である。
そのために大学時代に、音の良いスピーカーなどを買った。
以来、私の家の中心に在るのは、お金をかけて揃えたオーディオセットだった。
しかし、今の自分に必要なほんの僅かなCDだけを残した結果、
オーディオセットから響かせることができる音源は数少なくなった。

ラジオDJをしてきたこの20年、どれだけ多くの音楽をこの大きなスピーカーから聴いただろう。
マンションのゴミ捨て場にそれらを置きながら、大切な記憶がたくさん蘇ったが、捨てた。
私の家の中で一番大事にしてきたモノは、もう無い。

これでどこへでも行ける。

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この1年で夜の間に眠ったのは何度あっただろう?

いや、もっと前からだ。
そう、東日本大震災の直後くらいから、私はほとんど夜に眠れなくなった。
そこに加速度的にこの1年、さらに夜の眠りから遠ざかっていた。

夜の闇が朝へと向かっていく僅かな青の時間の中にいる時が、最も落ち着く。
いつものようにそんな時間を過ごしていた8月の終わりの日。
ふと目にした友人のFacebookに、この夏に良かったHIPHOPのSummer Selectionが書かれていた。
まだ聴いたことのない音楽に出会うのは大好きだ。
彼は非常に音楽への嗅覚が鋭いことを知っていたので、そんな彼が気に入っている曲なら間違いないだろうなと思い、
その一つ一つをチェックしていたら、JAY’EDという名前を見つけて、懐かしさを覚えた。

私の中でJAY’EDというと、2009年4月29日リリースの「明日が来るなら」。
JUJUのシングルとして、ダブルヴォーカルとして歌っていた楽曲であり、
当時USENでヒットチャート番組を毎週担当していた私はこの曲を何度も紹介し、
以降「Everybody」など、JAY’EDの曲を番組から届ける機会が多かった。

最近の彼はどんな歌声なのだろう? 
そんな気持ちで聴き始めた、AKLO×JAY’ED「Different Man」は、
彼の歌い出しである、♪開いていた窓〜の、“あ”の歌声から、心をすっと掴まれた。綺麗だ。
2017年のワールドワイドのヒットチャートを聴いていると圧倒的にHIPHOPナンバーが多い。
この楽曲に流れる空気からは、そんな2017年の今を限りなく感じて、そのセンスの良さに惹かれた。
繊細でメロディアスなトラックの中で、これまでの自分を超えていく確かな意志を伝える言葉も好きで、
太陽がはっきりと顔を出した新しい朝の時間になっても、私は何度も繰り返し聴いた。

そして、私の中からためらいが消えた。

その場所に行く前に死ぬわけにはいかないとずっと思っていた。
迷っていた私が、今がその時だと動き出すに至ったのは、南スーダンからの友人の一時帰国がきっかけだった。
彼女の話の中に、持ち物はバックパック一つで、呼ばれたらすぐにどこへでも行く人の話があった。

そうでありたいと思った。
私が私であるために。

この国から出る計画を立てた。
様々な調整をしていく中で、それでもふっと不安がよぎる時は、この曲を聴くとあっという間に迷いは無くなった。
出発日は、ちょうど20年前のラジオDJデビューにあたる日となった。

しかし、私が向かおうとしていた先では、その国で初めての政治的な異例事態が起き、
信頼している仲間たちから、今は行かない方がいいというアドバイスが飛んできた。

悔しかった。
自分がどれだけ心を決めても、世界の乱れの前には、私個人の想いは、あっという間にかき消されることを実感した。

同時にそれは、
平和でないが故に、自らの意志をズタズタに引き裂かれている人たちをより深く考えることへと繋がっていった。

世界が平穏じゃないと会いたい人に会いに行くこともできない。

今まで私はどれだけ多くのことを、平和の中で許されてきたのだろう。
目の前に突如表れた障害は、よりリアルに世界を感じることとなった。

とはいえ、動き出したことで、遠かった国への道がぐっと近くになったことは間違いなく。
どこか想像の中でしかなかったことが、現実味を帯びた。
このまま見ないで終わるわけにはいかない。
必ずその大地の空気を吸いに行く。

それは、私の眠れなかった夜に終わりを告げた。

この部屋に朝の光が射し込む。
これまでの自分が抱えていたものを捨てた場所には、未来への準備の資料が置かれている。
今以上に可能性を広げる挑戦が始まり、部屋を流れる時間が変わった。

次の自分はもう動き出している。
私の呼吸が求める旅の先を目指して。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪〜10秒〜32秒”。最初の10秒は聴かせて、10秒から32秒の間に言葉を乗せる。)

9月6日にラッパーACROとR&BシンガーJAY’EDによるミニアルバム『Sorry… come back later』がリリースされました。
EXILE、KREVAなどを手掛けたプロデューサーBACHLOGICのスタジオで、3人で合宿状態で作られたこの作品。
何度も聴きたくなるグッドクオリティなトラック。
ラップと歌の境界線を超えていく2人の言葉は、新しいあなたを連れてくるかもしれません。

AKLO×JAY’ED「Different Man」

武村貴世子

武村貴世子

ラジオDJ、MC、ライター。
これまで、FM802、Fm yokohama、FM-FUJIなどで番組を担当。

ラジオ番組、司会、ライター、トーク&アナウンス講師はもちろん、
朗読と音楽のコラボレーションライブも展開中。

国連UNHCR協会 国連難民サポーターとして、
難民支援を始め、世界や社会への関心が深く、社会貢献活動にも積極的に取り組む。

また、タロット・リーディングの学びも深め、
フリーランスでその活動の幅を広げ続けている。

Reviewed by
宮本 英実

迷いがなくなる瞬間というのがあって、それは何かとの出会いだったり、夜だったり、朝だったり。決意が揺らぐような出来事があったとしても、決意した瞬間からきっともう踏み出している。どこへだって行ける。朝がなんだか開かれている気がするように、目の前も、今までと同じようで、違うように。

いつも、武村さんの文章を読んだあと、武村さんがピックアップした曲を聞いている。AKLO×JAY’ED「Different Man」。曲がはじまりJAY’EDが歌い出した瞬間、あー武村さんが言いたかったことわかる!と一人、盛り上がってしまった。私は、心底気持ちのいい朝を迎えている。

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