桜が咲いた。
3月の週末。大阪に向かう新幹線の中で、東京の桜もこの土日が見頃というニュースを目にした。
今年は例年よりも随分と早く開花した桜。
大阪に着くと、京都の桜も咲いているみたいだよという話を耳にした。
父親が大阪出身ということで、小さい頃から大阪や京都にはよく足を運んでいたが、
私は、日本でも特に美しいと言われている京都での桜を見たことがなかった。
「ねえ、お父さん。京都で桜が咲いているみたいなんだけど、見た方がいいかな?」
「予定を変更してでも見た方がいい。」
父からの言葉で、決めた。
私が京都の桜を見たら、父は喜んでくれるだろう。
大切な人が喜んでくれる道を選びたい。
一泊二日ですぐに帰る予定だった大阪の旅の予定を変更した。
これまで数多くの旅を経験してきたけれど、旅に出発してから帰る日を変えたのは初めてだった。
そこからは、流れに身を任せてみようと思った。
目の前に見える景色が「こっちだよ!」と呼びかける方向に向かって、思考を手離して進んでみた。
大阪を出発する電車に飛び乗って京都に着いた日は夜で。
河原町駅から地上に上がって、まず最初に見えた夜桜の美しさに涙がこぼれそうになった。
今まで見てきた桜と全然違う。
そのまま円山公園に向かって歩を急がせ、通称「祇園の夜桜」と呼ばれる、
一重白彼岸枝垂れ桜(ひとえしろひがんしだれざくら)の前に辿り着いた。
ライトアップされたその桜は、優美で幻想的な雰囲気を醸し出し、
いつまでも見ていられると思うほどの美しさに魅了された。
月の光も射し込むその桜の花を見上げている間、私は悠久の時を思わせる優しさと和やかさに包まれていた。
円山公園の近くに、私の祖父母の墓がある。
翌日、よく晴れた日に祖父母に会いに行った。京都には私の居場所があることが嬉しかった。
墓参りに行った後に、もう一度この枝垂れ桜を見に行った。
太陽の下と月の下ではこんなにも表情を変えるのかと思った。
円山公園の枝垂れ桜は、この春、私に今まで知らなかった感情をたくさん教えてくれた。
ところで「京都に桜を見に行こう!」と決めてから、嬉しい出来事が次々に花開いた。
旅を延ばしたことで、自分がラジオDJとしてのオーディションに受かった、
FM802に10年以上ぶりに立ち寄ることが出来て、当時私を育ててくれたプロデューサーを始め、会いたい人に会えた。
大阪に住んでいる叔母の家に急遽泊まることで、親族と語り合える時間を持てた。
東京から京都に引っ越した大好きな女友達と、数年ぶりにずっと笑い合う楽しい時間を過ごした。
私を慈しんでくれたおじいちゃんおばあちゃんと、たくさん話が出来た。
京都で今まで食べたことがないと感動するほど、美味しいものを食べた。
何より、私はとても好きだと思える人たちと一緒に、桜を見上げることが出来た。
予定外の道を進んだら、楽しかったねと心から語り合える多くの笑顔の景色が生まれていた。
京都から帰ってきても、なんだか旅気分が抜けずに、
そのまま東京で桜が美しい場所に気ままに行ってみた。
その中でも特に気持ちが良かった場所が、隅田川の川べりだった。
東京で生まれて、ずっと東京に住んでいながら、この地での桜を見たのも初めてだった。
童謡「春」で歌われる麗らかさを今まで知らなかったことを後悔するほどに、素晴らしい景色がそこにあった。
この辺りは漫画、アニメ、実写映画となった作品『3月のライオン』のモデルとなっている、
いわゆる聖地と呼ばれている場所。
私はiPhoneのミュージックアプリの再生ボタンを押して、この作品で使われてきた楽曲を聴きながらこの地を歩いた。
UNISON SQUARE GARDEN「春が来てぼくら」は、
TVアニメ「3月のライオン」第2シリーズ第2クールオープニングテーマである。
最初にテレビからこの曲を聴いた時に、なんて素敵な春の曲なんだろう! と、
聴いているだけで心にポンポンと花が咲いていった。
青空と桜と、そして何よりも川辺から感じる、
春の風の中でこの曲を聴くと、身体がふっと軽くなったように感じた。
春が来た。
それだけで新しい歩みを刻みたくなるのは何故だろう?
自分はこれからどんな新しい道を選んでいくのだろうという想いと共に、これまで自分が辿ってきた道程を考えた。
私はどれだけ流れに身を任せてきたことがあっただろうか?
こっちに進みたい。これがやりたいんだ。
自分を中心に考えた意志を貫くことで、確実に願いを現実にしてきたこともあれば、自分を追い詰めてしまうこともあった。
桜が咲いたよ。
桜を見に行こう。
春ならではのきっかけがもたらしてくれた数日間に生まれた幸せを感じたことで、
暖かくなったから花が咲くように、自然に川を水が流れるように、
その時の状況に身を任せて進んでみることを、もっと楽しんでみようと思えた。
そして何より、その選択は自分の大切な人が笑顔でいてくれるだろうか? という今までにない思考が芽生えた。
とはいえ、しまったと思うこともきっとあるだろう。
なぜこっちに進んでしまったのだろうと後悔することもあるだろう。
けれども、何かに嘆き、何かに悲しんだとしても、
また春に桜を見上げれば、一瞬で心がほころぶだろう。
「そういえば、桜の花が咲いたことをきっかけに、たくさん嬉しいことがあったな。」と。
また春がくれば必ず思い出す、幸せな桜の記憶がこの胸にあるということは、人生の宝物だ。
そんな春の時間を過ごすことができたのは、いつもより早く咲いてくれた桜のおかげ。
予定外の出来事を、もっとずっと、楽しんで生きたい。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜16秒”に乗せて。)
聴いているだけで心に花が咲く、この春の新曲をお届けしましょう。
どうしよう? と迷っても、大切な人と幸せな時間が過ごせる方を目指して進みたくなるナンバーです。
UNISON SQUARE GARDEN「春が来てぼくら」