笑う門には福来たる。
縁あって、1966年から放送されているテレビ番組『笑点』の公開録画にお邪魔させて頂いた。
一緒に行った人たちと後楽園ホールでの収録会場に入っただけで、みんな笑顔。
子供の頃から見たことがあるテレビ番組のセットは見ているだけでわくわくした。
ラジオでDJをしている私にとって、落語を観る時は楽しむことはもちろん、とても勉強になる機会。
声と音だけで想像して楽しんで頂くラジオトークは、落語から学ぶことが多い。
この日も、声の立て方、間の取り方など、笑いながらも、
そうかこういうふうに話すと効果的だなと、研究しながら拝見した。
でも何より、学んだのは「笑い」の大切さ。
収録中にふっと後ろを振り返って、会場を見回したら、誰もが解放されたような心からの笑顔を見せている。
私自身も、こんなにおもいっきり笑ったのはいつ以来だろう? と思うくらいに、
周りを気にせずに大きな声で笑った。
笑いすぎて拍手しすぎて、一緒に行った人たちと「顔が痛い! 手が痛い!」と話しながら、
にこにこ笑いが止まらない帰り道。
私にとって、「今日は良い一日だった!」と思えるのは、誰かと一緒におもいっきり笑った日だ。
この夏は、「息をつく暇もない」という言葉がぴったりとはまってしまうくらい、
毎日朝から晩までみっちりと仕事の予定がある日々を過ごしていた。
大学を卒業してから、就職ということをすることなく、20年以上、1人でフリーランスの仕事をしていると、
「自分ががんばらなければ。私がここでがんばらなければ」と考えて突き進んでしまう。
そんな日々の中で、レギュラーラジオ番組、練馬放送「Voice of Heart」での、
映画紹介コーナー“Movie Buff”で紹介するために、映画『コーヒーが冷めないうちに』を観に行った。
過去に戻れるという不思議な喫茶店で、
「もしも、あの時に戻ることができたら」という後悔を抱いた人たちが、
会いたかった人ともう一度出会うことで、未来に向かってポジティブに歩みだすという物語だ。
私にも過去への後悔はある。
特に突然亡くなってしまった人へ「なぜもっと『ありがとう』と伝えなかったのだろう」という後悔は、
ふいに私の頭をもたげる。
そのことが、私を悲しみや寂しさにすっと引きずり込み、動けなくさせる。
けれども、この映画の中で、ある登場人物が放った一言にはっとした。
その登場人物は言った。これからはおもいっきり幸せになると。
それは、誰かが亡くなったことで、自分が不幸になったら、
その人との出会いが、不幸なことになってしまうという意味だった。
自分がこれから幸せになることで、
亡くなってしまった人がいかに自分にとって大切だったか、
出会えてどれだけ幸せだったかを証明するための行動は、私の背中を押した。
映画のほんのワンシーンだが、
目の前の世界が一瞬で変わっていくような気持ちになった。
そうだ。このまま嘆いてばかりいたら、亡くなった大事な友人たちとの出会いが、悲しみだけに染まってしまう。
それは違う。私は彼らに出会えたことで、毎日たくさん一緒に笑った。
あの頃よりも、もっと幸せになろうと思った。
私が幸せになるために必要なことは、今、自分の近くにいる人たちと一緒に、心から笑っていくことだ。
不思議なもので、そう考えただけで、バタバタとしていた日常の中で、
いかに、自分の心が喜ぶ人との時間を確保するかということが、再優先事項になった。
「フリーランスは仕事が無くなったら、おしまい! 仕事優先!!」
これが私の生き方の基本原則だった。
それが、「明日は大好きな甥っ子の2歳の誕生日会だから、一日遊ぶ。仕事はその前までに一段落つける」と考え出した。
好きな人との時間をいかに長く過ごすかを最優先にする考えにしてみると、その一日がなんだか急に輝き出した。
そんな一日を過ごした帰り道。
駅のホームで、映画『コーヒーが冷めないうちに』の主題歌として書き下ろされた、
YUKI「トロイメライ」を聴いていたら、穏やかな感情が広がって、
自分でもわかるくらいに私の顔から笑みがこぼれていた。
この中で歌われている「何度でも笑うのよ」という歌詞はもちろんなのだが、私の心を掴んだのはこの言葉だった。
「想い出よりも、私のそばに来て」
過去の後悔を越える、今を過ごしていきたい。
私は今、傍にいてくれる、自分が好きだと思える人たちと、優しく笑い合って過ごす時間が愛しくてたまらない。
そんな人たちとも、いつか例外なく、最期の時がきてしまう。
だから私は、限られた時間の中で出会った人たちが、
「一緒にいると楽しいです」と、たくさん笑ってくれることを最優先に、毎日を見つめていきたい。
「私は、あなたと出会って幸せになれました」と、
心からの感謝を伝えられる私で在るために。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜11秒”に乗せて)
過去の後悔を越えて、今、自分と一緒に笑ってくれる人を心から大切にしたくなるナンバーです。
映画『コーヒーが冷めないうちに』の主題歌。
YUKI「トロイメライ」