あの時出会った、あの瞳は、今、輝いているだろうか?
2019年6月29日。
イオンモール京都桂川にて、「世界難民の日」記念講演。
「〜七夕に、世界の平和を願う〜」と題して、話をする機会をいただいた。
ショッピングモールで、世界の難民の話をするということで、
果たして「楽しいお買い物中に立ち止まって話を聴いてくれる人がいるのだろうか?」という不安を抱いてもいたので、
「楽しく聴けるには?」と考えて、写真を使いながら、◯☓クイズを交えて進めたところ、
多くの人に最初から最後までまっすぐに聴いていただいた。
「この少年の願いは、学校に通うことである。◯か☓か?」
会場にいる全ての人が、◯と答えていた。
そう、正解は◯。
ヨルダンで出会ったシリアから逃れてきて難民として暮らす少年は、
身体を動かせなくなった父親に変わって、外に出て働いて家族の生活を養っていた。
けれども少年の胸には本当は学校に行きたいという願いがあった。
その少年の瞳は、太陽の光を浴びて元気に遊んでいる同じ年頃の子どもたちの無邪気な瞳の輝きとは違った。
すでにその時には、どこかあきらめにも似たひっそりとした瞳をしていた。
あれから月日が経った今、彼はどうしているだろうか? と、彼の写真と共に話をする度に、
私は何度も何度も、彼のことを思っている。
紛争や迫害によって故郷を追われた人の数が、7000万人を超えた。
6月20日、世界難民の日を前に発表された最新のグローバル・トレンズ・レポートでの報告によると、
世界で移動を強いられている人の数は約7080万人。これはUNHCR創設以来、この70年で最高レベルの数値。
20年前の2倍。タイやトルコの人口に相当。この1年では230万人の増加。
さらに、この7080万人という数字は、2018年末時点の統計であるため、
ベネズエラ危機により発生した数は一部しか反映されておらず、実際はこの数を上回ると見込まれている。
(受け入れ国政府が発表した数値によると、ベネズエラ国外に逃れた人は400万人)
毎年毎年、この数字は増える一方で、心の中で覚悟していたとはいえ、
実際に7000万人を超えたという報告を見た時には、涙が出るほど悲しくてたまらなかった。
自分がヨルダンでシリアから逃れてきた人たちに会って、3年が過ぎているのに、
未だにシリアは安全と平穏を取り戻したとは言えない。
そして、その間にも、世界中で次々に問題が起きている。
一体何をどうすれば、この最悪の数字はこれ以上増えることがないようにすることができるのだろうか?
2019年6月20日の朝の私の気持ちはとても重かった。
7000万人を超えた数字の悲しみがべったり張り付いている身体をなんとか歩かせて、
その日、東京スカイツリーが、世界難民の日を伝える国連ブルーに灯る、
点灯の瞬間を、難民支援をしている多くの方々と見守る会場へと向かった。
その会場から、UNHCR親善大使MIYAVIのFacebook Liveの司会を務めた。
バングラディシュで暮らすロヒンギャ難民を訪問し、
前日夜に帰国したばかりのMIYAVI親善大使からは思いが次から次へと言葉になって、
とめどもなくあふれた。
その中で、私は7月24日リリースのニューアルバム『NO SLEEP TILL TOKYO』についても触れた。
なぜなら、5月11日にZepp DiverCityで観たライブで披露していたこのニューアルバムに収録される新曲の、
ありとあらゆる曲に胸が高鳴ったこと。
なにより、彼が世界で見て感じてきたことが音楽に昇華されていることを感じたからだ。
このFacebook Liveで、親善大使としての活動は新曲にも表れているということを、彼は話してくれた。
あの日のライブで、私が特に好きだった曲が「Under The Same Sky」だ。
近年英語の歌詞が多い彼の楽曲の中で、この新曲が日本語の歌詞だったことも、とても印象的だった。
この曲の音から感じる未来を切り拓くようなパワーに触れていると、
私は、胸の中でぐるんぐるんになっている悲しみや迷いや葛藤が、すうっと晴れていく。
世界で起きている問題の、壮絶な苦しみや痛みや悲しみを前にして、
私は自分のあまりの無力さに、何度も何度も打ちのめされている。
それでもあきらめないでいられるのは、このままでいたくないからだ。
京都で講演をした時。ちょうど大阪ではG20が開催されていた。
私はこう話した。
「一人ひとりの声が多くなれば、世界のリーダーも無視できなくなるはずです。
私たちにできることの一つに、難民問題に関心を持ち、話題にするということがあります。
今、世界の難民問題はとても大変なことになっていると、
世界中の人が一斉に声にすることで、変わることがあると私は思います。」
世界規模で向き合わなければいけない問題に、たった一人ではあまりにも現実の問題が大きすぎる。
けれども誰もがこのままではいけないと話題にするような状況になれば、必ず変わる日がくる。
毎年の最悪の数字に嘆く日を終わらせたい。
この曲を最初に聴いたあの夜、
私は、難民支援という現場で出会ってきた人のことを思い出していた。
あの時「学校に行きたい」と願っていた少年。
難民という状況になってしまい、心から平穏な生活を望む人々。
世界中にいる難民支援に関わるまっすぐな志と優しさを持つ人たち。
いつも一緒に悩みながらも、とにかくやってみようと前へ進もうと行動する仲間。
そして、何ができるかわからないけど、自分も関わっていきたいと話してくれたあなた。
悲しみも絶望もぬぐえる力は、出会いなのだろう。
どうしたらいいのだろうと思う時こそ、君を思う。
何度も何度も。
それが、私を歩ませる、一番の力だから。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜10秒”に乗せて)
涙がこぼれそうな時。あなたは誰のことを思い浮かべますか?
私はこの曲を聴いて、自分に一番力が湧いてくる大切な人の顔が浮かびました。
MIYAVI「Under The Same Sky」