「8ヶ月ぶりです」
この言葉を言う機会が多くなってきた。
8ヶ月ぶりに結婚披露宴の司会の仕事をすることができた。
8ヶ月ぶりにライブハウスに行ってライブを観ることができた。
8ヶ月ぶりにイベントの舞台で司会をすることができた。
少しずつできることが増えてきてはいるが、新型コロナウイルスの影響からは、まだまだ安心できるにはほど遠い状況の10月。
私はラジオDJとして、 23周年を迎えた。
ラジオDJとして、現在私は練馬放送『Voice of Heart』という番組を担当している。この番組には、毎週新作映画を伝えるコーナー「Movie Buff」、図書館の職員の方にインタビューをしておすすめの本を紹介する「ねりほん・プラス!」というコーナーがある。
映画も本も、私にとっては人生では欠かせない、世界への扉を開いてくれる大事な文化である。
新型コロナウイルスの影響で外に出る機会が減ったぶん、
本を読む時間は圧倒的に増えた。
そんな中で、急速にはまったのが韓国の文学を読むことだった。
きっかけは2年前、2018年に神保町の秋の風物詩となっている『神保町ブックフェスティバル』に行ったときだ。
韓国の本を取り扱うワゴンがあり、そこで気になっていた韓国の作家の本があるか尋ねた。
そのときに話したのが、翻訳家の古川綾子さん。
初対面にも関わらず、古川さんとのたくさんの会話の時間がとても楽しかった。
そして、その日に初めて韓国文学の本を書い、少しずつ読み始め出した。
練馬放送『Voice of Heart』での「ねりほん・プラス!」のコーナーの取材で図書館に行くと、自然と韓国文学を探して読むようになった。買うにプラスして借りるも増え、一気に読書量が増えた。
気づけば私の本棚には韓国文学の本がどんどん並ぶようになった。
何故ここまではまったか。
本それぞれの魅力はもちろんだが、私が読んだ本たちは、どれも現実を真正面に見据えて、逃げることなく、臆することなく言葉を綴り上げていた。そのことに強い信頼を抱いた。
胸にギリギリとするような痛みを伴うからこそ目をそらすことができない。
涙をこらえられないほど過去の記憶を揺さぶられる物語。
救われるような美しさで包み込んでくれるはっとするような言葉。
親友のように語りかけてくれる本ばかりだった。目の前の韓国の文学が私を魅了していった。そうなると、自然に韓国の文化にもっと触れたくなり、日々の食事で韓国料理を食べることが多くなったり、もちろん韓国の音楽を聴く時間も長くなった。
BTS「Dynamite」。
2020年8月21日にリリースされたこの曲はビルボードのシングルチャート、Billboard 100で初登場1位を獲得した。
1970年代のディスコ・ポップを彷彿させるナンバーで、あっという間に2020年、世界を代表する大ヒット曲になった。
「Dynamite」のヒットをニュースでよく見かけるころ、日本で公開されたBTSのドキュメンタリー映画『BREAK THE SILENCE: The Movie』を映画館に観に行った。
この作品は2019年のワールドスタジアムツアー「LOVE YOURSELF: SPEAK YOURSELF」に密着したドキュメンタリーとメンバーへのインタビューで構成され、何故BTSが世界でこれほどまでに愛されているかがとてもよくわかる内容で圧巻だった。
韓国アーティストで初となるロンドン・ウェンブリースタジアムでのライブや日本での公演はもちろん、ロサンゼルス、シカゴ、ニューヨーク、サンパウロ、パリなど、世界中どこでもすさまじいほどの歓声。
特に私が驚いたのがサウジアラビアでのシーンだ。
ヒジャブを被った女性たちが感情を爆発させて熱狂している姿は衝撃的だった。自分が中東の国、ヨルダンに行ったときに、女性が感情を表に出すことを良しとしない文化に触れていただけに、映画から伝わってくる、BTSの音楽を聴くことで、喜びや楽しさ、嬉しさをおもいっきり解放している女性たちの姿から、私はBTSの音楽、エンターテイメントの真のすごさを感じずにはいられなかった。
ワールドツアーというものが、いかに、世界の国々を音楽で繋いでいたかというリアリティが溢れるこの映画を観ていて、ミュージシャンたちが行ってきた「ワールドツアー」がもたらす意味についての考えが止まらなくなった。
2020年、世界中のアーティストたちがワールドツアーを行えなくなっている今、それはただ単に楽しい時間を失っているだけではなく、世界の調和をも損なってしまっているのではないだろうかと思った。
音楽は、人間の心を癒し、救い、生きる力を与える。
BTSが世界を飛び交うことで、確実に、今この時代を生きる人たちの思いを繋いでいる。
チョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』でこんなシーンがある。
子どものころのキム・ジヨンと姉の部屋に大きな世界地図が貼られる。
そして母が二人にこう告げる。
「行けなくても、知っておきなさいね。世界はこんなに広いんだってこと」
2020年は世界を自由に行き来することが難しくなった年。
けれども、行けなくても、世界の広さは何も変わらない。
世界中から生まれる音楽も、音楽を愛する気持ちも、何も止まってはいない。
直接行って、直接会って、直接話して、直接触れることができないからこそ、
世界の文化に触れることで、世界との繋がりをしっかりと保っていたい。
様々な国の文化は、私の心に話しかけてくれる。
文化という理解者は、いつだって親しみと共に、こんなにも傍に在る。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ×秒のため、曲が始まる前に紹介)
さて、ここでお送りするナンバーはアメリカ、ビルボードシングルチャートで初登場1位を獲得し、2020年を代表するヒット曲になっているナンバーです。個人的にはこの曲で彼らはグラミー賞を獲得するのではないかと思っているくらいに、今、世界中の人たちの心を音楽の楽しさで繋いでいる一曲だと思います。
それではお送りしましょう!
BTS「Dynamite」