待ち望んでいたその日は、こんな輝かしい天気の日に良いことが起きないなんてあり得ないと思うくらいの青空が広がる朝だった。
これから大事な仕事に行くという日の朝には、U2「Beautiful Day」を聴く。
2000年10月30日に発表された、U2にとって10枚目となるスタジオ・アルバム『All That You Can’t Leave Behind』からのリードシングルとなったこの楽曲は、2001年の第43回グラミー賞で、Record Of The Year(最優秀レコード賞)とSong Of The Year(最優秀楽曲賞)を受賞している。この秋でちょうどこのアルバムが発売されて20年が経つ今も、私は、良い1日を始めていこうというときには、迷わずこの曲を聴く。ラジオから朝、この曲が聴けた日には「今日は良い1日になるな」と思うほどに、私にとっては、お守りのような曲になっている。
2020年10月24日、25日。
Designship2020が開催された。2018年から開催された日本最大級のデザインカンファレンス。
1回目から司会を務めさせていただいているこのイベントは、今年、新型コロナウイルスの影響で初のオンライン開催となった。
数多くのオンラインイベントが開催されている2020年。私にとっては、初のオンラインイベントでの司会だった。
Designshipは、これまでのオフラインでの雰囲気をそのままオンラインで伝えていくことに徹底的にこだわり、LED画面を3面使ったセッションステージを作り、登壇者がそこに立つ場面をインターネットを通して伝えることで、観る側にまるで会場にいるかのような没入感を作り上げていた。
開演前のアナウンスでは、「本日満席を予定しておりますが、皆様のご自宅のお席には十分に余裕があるかと思います。確実に着席した状態でご覧いただけますのでご安心ください。」といった、オフラインでの会場でのアナウンスにちょっとしたユーモアを加えたアナウンスをした。聴いていた人も、何より私自身もこうした仕掛けを楽しんだ。「こういう状況だからこそ、こうしたらおもしろくなるんじゃないかな?」。そんなふうに楽しめる視線を持ちながらアイディアを交わし、わくわくしながら、あっという間に2日間の日程が無事に終了した。
そして、このDesignshipでは、毎年、私の世界を一気に広げてくれる胸が躍るセッションに出会う。
今年セッションを行った数多くの登壇者の中で、私が最も心に残った人が、中里唯馬さんだった。
中里唯馬さんは、アントワープ王立芸術学院卒業後、自身の名を冠したブランド「YUIMA NAKAZATO」を設立し、2016年からパリ オートクチュール ファッションウィークに公式ゲストデザイナーとして参加している。
この日のセッションでは、世界中の人々が、自分にぴったりと合ったオートクチュールの服を作れる未来を目指して、人工タンパク質を使った布で、針と糸を使わずに衣服を作りあげる開発をしていることを伝えた。その技術の素晴らしさもさることながら、可能性を追い求めること、未来には実現しているかもしれないことを話すときの、中里唯馬さんの輝くような目に魅了された。彼のホームページにはこんな言葉が綴られている。
「衣服が今より良くなれば、世界は必ず良くなる。」
世界は必ず良くなる。
その思いがこの瞳をこんなにも輝かせているのだろう。
私は、今、この瞳をしているだろうか?
難民支援に関わるようになってから、毎年欠かさずに足を運び、司会としても関わるようになったUNHCRの難民映画祭。今年はこのイベントも、UNHCR WILL2LIVE Cinema 2020として、オフラインからオンラインでの開催となった。(2020年12月10日まで開催中)
今年は、第92回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート作品の『ザ・ケーブ』。そして、『安住の地を求めて〜LGBTとして生きる〜』の2作品が日本初公開作品としてラインナップに入っている。
『ザ・ケーブ』は、内戦下にあるシリア、グータで生きる人たちが撮影されている。包囲された町。地下に作られた病院で爆撃を受ける中、シリア初の女性責任者として、限られた医療資源とともに、医師として治療を続けるアマニ・バロアを追ったドキュメンタリーである。
また、『安住の地を求めて〜LGBTとして生きる〜』は、LGBTであることによりひどい迫害を受け、母国シリア、アンゴラ、コンゴ民主共和国を逃れてアメリカに第三国定住した4人の若者の人生を追ったドキュメンタリーとなっている。
新型コロナウイルスの影響の中、私はとにかく自分が生きることで必死だった。
感染症にかからないように予防をすること。全て無くなった仕事の立て直しをすること。2020年の最初に手帳に書いた目標は全て一度白紙にして、「生きる」を最も大切な指標とした。
そんな日々を送っていた私は、この2作品を観て、自らを激しく反省した。
両作品共に、何もかもがズタズタになっていくような現実の中でも、命さえ脅かされる日々であっても、瞳はしっかりと未来を見つめている人々がそこにいた。
自分自身を守ることは何よりも大切だ。しかし、そのことに集中するばかりで、世界への目線が狭まっていた自分に気づいた。私は私に問いかけた。
困難に胸を痛め、先行きのわからない現状の中でも、未来へのヴィジョンを描くことをあきらめてはいなかっただろうか?
『安住の地を求めて〜LGBTとして生きる〜』の中で、2016年以降、アメリカでの難民の受け入れ数は70%減少し、これは過去最低の記録であることが伝えられている。2016年はアメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプが当選した年である。ドナルド・トランプという大統領が、難民という困難な状況に置かれている人たちにどういう接し方をしてきたかは、この過去最低の記録からも明らかだ。
2020年11月7日(日本時間8日)。
アメリカ大統領選挙は民主党候補のジョー・バイデン前副大統領が共和党の現職ドナルド・トランプ大統領を破り、当選確実となったことが報じられた。
私のLINEの通知音が次々に鳴る。
それはホワイトハウスの在るワシントンからの写真が届く音。
親しき人が撮影したその写真は、今このときが弾けるような喜びに溢れていて、その瞬間を夢中に生きていることが伝わってきた。撮られる側も、撮る側も、光彩に満ちた瞳をしていることがわかる。
瞳の煌々たる光は、私の心を照らした。
輝きから新たな力が湧き上がってきた。
困難には決して負けないという思いを持ってはいたが、歯を食いしばり、耐えて、なんとか今の状況を乗り切ろうという思いが先行して、わくわくするような楽しみや、新たに作り上げていく今よりも良い未来への想像と、そこに向かうためのアクションが足りない自分に気づいた。
これから未来は良くなる。
世界は必ず良くなる。
その思いで輝く瞳。
朝が来る。
「Beautiful Day」を耳元で再生して、最初の一歩を踏み出す。
今はまだ降り注ぐ太陽の光を借りながら輝かす瞳かもしれない。
それでも、光を失ったままよりは、ずっとましだ。
瞳の輝きは、必ず良い未来へと繋がる道への灯火。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜12秒”に乗せて)
今日は素晴らしい日になる。そう信じるとき、あなたの瞳は今朝の太陽よりも美しく輝いているはず。
あなたにとって今日が良い1日になりますように。
U2「Beautiful Day」