鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
「しょぼい喫茶店」と書かれたドアの鍵を開けたら、まずはじめにごはんを作る。わたしがここで働くのは十八時から二十一時半、お酒を飲むお客さんもいるけれど、メニューはごはん一種類だけ。サイズがちょっと小さめになっても、高校生でも払える値段で。カウンターだけの小さな店とはいえ、ひとりで働くにはそれがちょうどいいところだった。 カウンターの中からは入り口が見えないけれど、お客さんがやってくるとドアの音でわか…
長期滞在者
今月はとにかくよく走っていた。 といっても仕事や余暇を鬼のように充実させていた訳でなく、文字通りよくランニングをしていた。 特に大会に出る予定は無いし、時間を測って走ることもしないし、距離を伸ばしていくこともしないが、走って汗だくで家に戻ってシャワーを浴びた後の爽快さを味わいたいがため、また寝る前にふくらはぎの筋肉痛の気持ちよさを味わいたいがため走っていた。 実家の近くに住吉川という川があった。上…
長期滞在者
ある日突然飛蚊症が暴れ出した。 かなり前から少量、小さいのがチラチラしてはいたのだが、ある日を境に暴力的に増えたのでびっくりした。とくに右目の下方に常に塊があるので、普通に道を歩いていても右後ろから何か黒いものに追跡されているような気になる。部屋の中でついと視線を上げると、床からゴキブリが壁を駆け上がったかのような影が見える。はっきりいって相当のストレスである。 飛蚊症が大量出現したその日の夜、夜…
長期滞在者
コロナウイルスの騒動で、3月に入ってからのギャラリーはどこもお客さまの数が減っているようです。すでにお受けしているお仕事が少し残っているのですが、新規のお仕事が減っており、平日はとても静かなものです。 ぼくたちの方針としては、政府から全業種営業停止の命令が出ない限りは淡々とギャラリーを開け続けます。今のところ、展示キャンセルの申し出もなく、少し静かだけど、いつも通りを続けていこうと思っています。 …
長期滞在者
2020年の3月がこんなことになろうとは。そんな気持ちで過ごしているのは私も同じだ。 世界保健機関(WHO)が世界でのパンデミックを宣言した、新型コロナウイルスの影響による日々は、毎日気持ちが追いつかないくらい驚くようなことが連続していて、とまどいながらも、ただひたすらに、良くなる未来を願うばかりだ。 フリーランスで仕事をしてきた自分にとって「生活」を営むための問題は多々起きている。自分のことを考…
Mais ou Menos
ぴちゃん 今日もお疲れ様です。ここ数日、家のことがあまりできなくてごめんね。体調がここまで悪いと感じたのは、成長ホルモンをはじめてから、初めてだと思う。久々に、あ、死ぬかもって思ってしまったよ。こういうときに、頼れる相手がいること、心からありがたい。 2月後半ごろから、フェミニズム関連の本をたくさん読んでいます。勉強不足だと感じることがすごく多かったから。読み始めたら、他にもたくさん読みたいと思う…
スケッチブック
2月1日 目が覚めたら朝の4時だった。 夜と朝の間、起きると眠るの間。少なくともこの家で起きているのは、私だけ。というのはあと2時間くらいだろうから、30分でメールを返して、1時間で原稿できるとこまで進めて…と段取りを考えるも、ぴんとこない。 こんな贅沢、もっと踊ったらいいじゃないと声がする。 最近、言葉の鎖を解くことについて考えている。惰性で繋がれていたものを、いったん解いて、ほんとうはひとつひ…
Do farmers in the dark
こんばんは!今回も何というかエッセイ、のようなものを書きました。実のところ僕のナルシシズムが極限まで高まっているからです。なぜかって?ほとんど一人で引きこもっているからだよ。だからいつも自信満々だ。ひとたび外に出ればその自信はシャボン玉のようにそよ風に連れ去られたと思いきやその直後に割れてしまうだろう。 もし僕が外に出たなら、石につまづき、通行人には遠慮なく至近距離から屁をこかれ、お世話になってい…
長期滞在者
今月は慌ただしかった。感染症のことはもちろんだけれど、父が倒れてしまって心が落ち着かなかった。幸い私は人混みを避けて過ごせるし、父は手術がうまくいって経過良好。 誰かと話したり支え合ったりできることのありがたさを、何度も噛みしめる。身を守るために考える時間と、気を緩めるための時間の両方を作っていかなくちゃな、と思う。 2月1日(土) 玉ねぎ4個を飴色になるまで炒めていたら、家がすっかり玉ねぎ臭に・…
お直しカフェ
生後8ヶ月の子どもとの、せいぜい半径500m圏内で完結してしまう今の生活では、新型なにがしの影響なんてほとんどないかもよと感じている。幸か不幸か、社会との断絶はいま結構大きい。今日、息子と二人でポストまで楽しく散歩に出て、3月の陽気もあってか、大小の子どもが賑やかに遊ぶ昼間の公園の風景は結構よかった。義務教育のなかった頃の世界を想像する。ほんの100年前、子どもが家族のそばに居続ける暮らしはどんな…
長期滞在者
前回の記事からの続き。 翌朝、信じられないくらいの頭痛で目が覚める。 ちゃんと財布も携帯もある。ネックウォーマーだけ、どこかに忘れてきたよう。 早起きして、熊野古道の中腹にある滝を見に行こうと思っていたが、まったくもって間に合う時間じゃなかった。 部屋を出て1階に下りると、宿のおばちゃんがソファに座っていて、「朝ごはん、トースト焼けるけどどうします?」と言われるが、食欲が皆無なので、「ちょっと二日…
長期滞在者
対角線という名の自転車に恋をした。自転車に? 自転車の名前に? それがよくわからない。 めったに実車を見る機会のない、販売台数の少ないメーカーの自転車なので、恋をしたといってもカタログやwebの写真を見ての話である。実物を見てではない。 自転車の分類としては、ランドナーと呼ばれる旅用自転車(荷物が積める・泥よけがついている・長距離移動に疲れないよう振動吸収に優れる鉄素材でできている・太めのタイヤを…