長期滞在者
35歳の僕は夢のエネルギーで、全身満ち溢れていました。 35歳といえば、もう中年のおじさんと言っても良い年なのかもしれませんが、20代の頃よりも、若さと情熱で生き生きしていました。 僕は34歳で自分の夢を見つけ、ただひたすら、進んでいました。 僕の夢は「妖怪になること」です。 都内の病院で月給14万円ちょっとの夜勤当直の契約社員をしながら、仕事明けに井の頭公園で、 「夢はかなう!! …
長期滞在者
この身体が動くからこそ、私はマイクの前にいることができる。ストップウオッチを握って、イントロの秒数でおさめる曲紹介の緊張に鼓動を高め、スタッフと真剣に言葉を交わして番組を作って、収録を終えたときの安堵と体温の高まりを感じられるのも、生きて、健康な身体があるからこそだ。 2015年。戦後70周年を考えるラジオ番組『THINK OF TOMORROW』を制作したときに、漫画家の水木しげるさんに「希望を…
長期滞在者
旧知のM君が写真集を出版した。以前から『IMA』などに採り上げられているものも見ていたし、何度か展示を見たりもしているけれど、実のところ、いつも彼の写真はよくわからない。そもそも「写真」かどうかもわからない。フォトグラム(本来は印画紙の上に物体を置いて直接露光したり、カメラを使わずに画像を生成する手法)の亜種、という説明だが、その説明では何が何だかさっぱりである。最近のものを見ると、まるで電子顕微…
長期滞在者
ルーニィは、5月18日以降いつも通りの営業を再開していますが、来場者数はいつもの2割くらいで、とても静かな毎日です。というか、今年の入ってからずっとこんな感じだったような気がしています。ぼくにしたって、いつも観て歩く展覧会の半分も回れていないわけですから、どこも空いているようです。 15時ごろに近所のギャラリーにちょっと立ち寄ると、今日最初のお客様です、なんて言われることもしばしば。事業継続のため…
当番ノート 第57期
ほぼ毎日「誠に申し訳ありません」と書かれたメールを、両手では数えきれない数送っている。タイトルはそんな私のお気に入り謝罪文のうちのひとつである。 ちょっとした食い違いなどが起きてしまったり、名前を打ち損じていたり個人的に「危険度中」認定レベルの事態に使われている。メールを打ちながら自然と眉間にシワが寄って、送信ボタンを押す時には無意識に息が止まる程度のそれ。 あまり行き届かない人間であるために謝罪…
お直しカフェ
暑いような、まだそこまででもないような。アイスコーヒーが美味しい季節になった。私は春先を過ぎると、だいたいお店やコンビニでコーヒーのH/Iが選べるとき、条件反射的に「アイスで」と頼んでしまう。少し暖かくなって今年もそんな季節が来たなという嬉しさと、氷の入ったグラスでカランカランとやってくる小さな贅沢感、アイスの方がハズレのコーヒーに当たる確率が低いから、云々。という訳で、アイスコーヒーは今年既に飲…
長期滞在者
祖母が死んだ。感染症のこともあり、私は葬式に参列しないことになった。死に顔を拝めず、見送りもできない。死の実感がないまま過ごしている。 原因不明の咳が続く。なんとか生活しているというより、生活があるおかげでかろうじて寝起きしている。日常のありがたみをこれまでは感じてきたけれど、こんな日常を送っていていいのだろうかと今は疑問に思う。汽車はずんずんと進んでいるのに、途中線路の上でバラバラの部品になるの…
当番ノート 第57期
唐突だが、日本で一番真面目にお姫様ごっこに取り組んだ女児であったと自負している。 幼稚園児の頃、ディズニープリンセスの小物を身につけキャラクターになりきる友達を見て(それはお姫様ごっこって言わないんだよな〜)とちょっとした違和感ををおぼえていた。 貴女方はお姫様ごっこではなく「ディズニープリンセスごっこ」をしているに過ぎないの。本当の「お姫様ごっこ」は自分の中にある姫マインドを極限まで引き出して、…
長期滞在者
人と話すのがとても苦手だ。テンポの良い言葉のキャッチボールというのが難しい。気が利いたこともなかなか言えない。「おはようございます」と「こんにちは」も上手く言えなくて、先日、モネの夕方の散歩でいつも会うポメラニアンを連れたおじさんに「おはようございます!」と言ってしまった。私とモネの後ろに長い影ができていた。 気の利いた褒め言葉がぱっと出てくる人は羨ましい。私自身もそうだけど、やっぱり褒められると…
当番ノート 第57期
両隣り、できれば上下にご挨拶するのが引っ越しのマナー。 さて、短期滞在ではあるものの、入居して当番ノートを書かせていただけることになったのだから、しっかりご挨拶せねばならない。 *** スズキコトハです。都内で勤め人をしています。誕生日は12月の射手座で、結婚・出産・キャリアアップという言葉に敏感なお年頃。血液型はB型です。 *** 出来心でカタカナで名前を検索してみると、詐欺師の方が…
当番ノート 第56期
「序」「破」「Q」と来て、「襲来」「渚」「Air」「まごころを、君に」。そして、「シン」。最後は「世界の中心でアイを叫んだ落とし物」で終える。おめでとう。「序・破・Q」から振り返ろう。 落とし物やごみなどの地面に転がっている物には、落とし物やごみの落とし主・失くし主(そして、ポイ捨てした奴)の面影が感じられる。落とした人、失くした人の抱える寂しさが、ぼんやりと感じられるのである。私が「地面」の写真…
当番ノート 第56期
9 凪子 ナラザキくんにフラれたその日、わたしは、久しぶりに泣いた。学校の、女子トイレの個室で、声を出さないように気をつけながら、しくしくと泣いていた。わたしはこんなに悲しいのに、溢れ出る涙は暖かくて、それが余計に悲しかった。 ◯ どうして男の人と寝るのか、わたしにはよくわからない。でも、社長たちに抱かれている間は、少しだけれど寂しさを紛らわせることができた。わたしは寂し…