当番ノート 第52期
かつて家には4匹の猫がいて、家族4人がそれぞれ猫を持っていた。 持っていた、というのは持ち物のような意味ではなくて、厳格な父を持つ、とか、素敵な娘さんを持ってしあわせね、とか、そういうふうな意味だ。 同じ屋根の下で暮らす猫なので、家族といえばそうなのだが、ペットとか飼い猫とかというよりは、お互いに馬(猫だけれど)が合う相手を自然と選び、寝食をともにする、といったほうが説明がつきやすい。 父の猫…
スケッチブック
8月2日 日曜日。朝、起きる。パンケーキを焼く。しおにリクエストされたミッキーマウスや、スナフキンの形を作る。いくつか失敗して、私が勝手に名前をつける。着替えて3人で買い物に出かける。1週間分の食料を買い込んで、スーパーの隣の100均で、しおの選んだシールを買う。帰り道に魚がとってもおいしい定食屋さんへ。お店のおかみさんから、大好きないくらをおまけしてもらってしおはご機嫌だ。お勧めされた近所のお花…
長期滞在者
布はフランス語でToile.女性名詞で、トワール、と読む. 自分の部屋を居心地好くするためには労力も時間も惜しまない性分だからか、持ち物が多い.とにかく引っ越しが多いのだけれど、どこの家に移っても、荷ほどきすれば、そこは私色の空間だ.フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、台湾、日本…各地から運び込まれたベッドリネンやクッション、カーテン、タッセル、テーブルクロス、ラグ、大小の花瓶、額縁、絵画やリト…
長期滞在者
8月。私はずっと、日本の夏は喪の季節だと思っていた。日本の歴史的にもそうだし、私の大好きだった祖父母も夏に死んだから。 夏には、蝉の鳴き声や空の色を眺めながら死について考える時間が必ずあった。それが今年はなかなか外に出ないせいか、季節感もないまま時間が過ぎている。何かが欠けている。 けれど欠けていることに違和感を持つのもおかしなことなのかもしれない。常に何かが欠けたまま、世界は動いているから。 た…
Do farmers in the dark
今月はまたも近況と、展示のお知らせしたいだけの内容になってしまいました。すみません。ではよろしくお願いします! 近況 最近は本当に情けない生活。ささいな間違いをたくさんしてしまっている。常に何かにパニくりながらぼんやりしている。 実のところ何ヶ月も前から家族の目を盗んでは、ポータブルゲーム機でほとんど○ボタンを押しっぱなしにしても問題ないようなゲームソフトを遊んでいる。家族の死角、または家族の死角…
当番ノート 第52期
昔から、多数決なるものが嫌いだった。いつも自分が負けていたからかもしれない。何を提案しても、私の提案は通らない。何も、おもしろくなかった。それに、最初から反対していたことが多数決で決まって実行され、失敗すると、集団として自分もその責任を取らされるのが嫌だったのかもしれない。最初から、私は失敗するとわかっていたから反対したのに、みたいな感じ。 多分、自分のしたことで一人失敗して詰むなら納得いくんだ。…
お直しカフェ
この2週間ぐらい、明け方背中の激痛と息のし辛さで目覚めて、1-2時間湯たんぽで温めたりストレッチで緩めたりして回復させたあと朝寝、というのをやってたら、案の定今日午前中の妊婦検診寝過ごしたんだけど、謝りの電話したら「それは辛いなーほな、このあとお昼食べた後においで」と慰めとゆるゆるのリスケしてくれたし、到着したら、診察前に話を聞きながら30分以上かけて背中マッサージしてくれたの、地元の小さな助産院…
当番ノート 第52期
今週は「お米もじルンタ」について書こうと思います。 お米文字については当番ノート3回目を是非ご覧ください。 「お米もじルンタ」は9月11日から開催される芸術祭「黄金町バザール-アーティストとコミュニティ 第一部」において川に展示する旗の作品で、ただ今制作中です。(根を詰めまくって腰を破壊しました。) スケッチ 「ルンタ」はチベット語で「風の馬」という意味の言葉です。ご覧になったことがある…
当番ノート 第52期
いこいの森、と呼ぶにはあまりに鬱蒼とした森(じっさいは林くらい)が小学校にあった。 松の木がどしんどしんと植わっていて、小さなため池に育ちすぎた亀と鯉がたくさんいた。手入れがあまりされていないぶん、自然の生き物が自由に暮らしていた。森は静かで、つめたく湿っていて、地面は濡れた枯葉でふかふかしていた。森の奥には二宮金次郎の銅像が建っていた。 6年生は「いこいの森」にタイムカプセルを埋める、という…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
まずは以下のテキストを見てもらいたい。 冷蔵庫の下の方に。デミグラスソースしかない。足元に。イナゴしかない。一文字違いですね、イチゴ。イチゴの方がいいな。大丈夫ですか、頼まなきゃよかったとか。ちょうどいいです。でもなんか、戦場から戻った感じですね。地雷一回踏んだんです。酒飲まない。車で来たんで。芝生をはぎ取るんです、そのあときれいに土を掘ってすぽっと埋めて、またきれいに戻す。その仕事は大企業でやっ…
当番ノート 第52期
友人が結婚したり出産したりする歳になった。月日は早く流れるものだなあと思う。自分自身が結婚などの人生のライフイベントを想定していないと、好きな作品の新刊の発売日ばかり見て時を重ねて、自分自身が結婚できる歳なのも忘れていく。友人が結婚するとか結婚したとか結婚したいとか聞くと、ああ、そういや結婚が可能な歳なんだっけなと気づかされる。時の流れって残酷だ。 マリッジブルーって言うと、結婚前に感じる不安感な…
当番ノート 第52期
田んぼを遠くから見ると、その整然とした風景に圧巻されることがある。緑の絨毯と例えられるその風景は、日本人の誇れるものの一つだろう。 田んぼを近くから見ると、一うね一うね、真っ直ぐに一糸乱れることなく植えられている。田植機のない時代から日本人はまっすぐに苗を植えた。 糸をピンと張ってそれに沿って植えたり、木で作った農具を定規のようにあてて植えたり、工夫して美しく植えた。雑草も一本たりとも許さなか…