長期滞在者
カメラは重力に従う。それが物理だ。ほっておけば落ちるものを、人は手放すまいと緊張したり、ストラップをかけたり、法則に逆らった努力をする。以前とあるギャラリーで若い男の子が珍しいレンズをつけたカメラを持っていたので「ちょっと覗かせてもらってもいいですか?」とお願いしたら「ちゃんとストラップ手に通してから持ってくださいね」と念を押された。以前誰かにカメラを落とされたのかもしれない。その慎重さに感心した…
長期滞在者
毎週教えに行っている学生たちと、Instagramのストーリーを使って「作品」ではなく、自分をプレゼンテーションする短い動画素材を作る実験をしています。 もともと、SNSの趣味的な投稿というのは、自分にとっては仕事の一部であって、プライベートで投稿(プライベートっぽく見せる投稿はある)したことがない事情もあって、インスタのタイムラインに保存されるタイル状のサムネイルこそ僕にとっては、情報発信の重要…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
マスクをしている人にもだいぶ見慣れてきた。今やもう、マスクをしていない人と向かいあうのに身体的な抵抗感が生まれるという話も聞く。マスクの価格は一度大幅に高騰したのち、元の安さまでは戻りきらないところで安定してしまった。わたしが「うなずく人カフェ」という企画をやったのは昨年の夏で、まだ五十枚入り数百円でマスクが買えたころのことだった。 「うなずく人」というのは、文字通り、話を聞いて、ただうなずく人の…
当番ノート 第52期
誕生日が嬉しくなくなってきたのは、成人を越えた辺りからだろうか。成人するとお酒が飲めて煙草が吸える。煙草はやらないが、お酒は嗜んでみたかった。そこでほろよいの冷やしパイン味を成人の瞬間に買いに行き、一人暮らしの小さな部屋で缶を開けた。 あのときの高揚感は何物にも代えがたい。大人になった瞬間を味わって、解放感に満ちていた。しかし、それを最後に、私は誕生日を歓迎できなくなった。二十歳過ぎたら、あとは老…
Mais ou Menos
まちゃんへ 最近、編み物が楽しいです。特に自分で手紡ぎした糸で編むとすごく気分が良くてびっくりします。自分の手で物を“創造”するってこんな感覚なんやなと噛みしめている。最高に良い気分です。 編み物をすることは、自分にとってすごくセラピーになってると思う。 編み物してるときは、気持ちが癒されてる。静かな気持ちになる。あと、家のイスを新調したのも、嬉しかった出来事の一つ。座っててしんどかったのが軽減さ…
当番ノート 第52期
前回の当番ノートで書かせて頂いた「お米もじルンタ」の続きです。 158枚の五色の旗の中に「馬」と「星」がいるので、是非探してみて欲しいです。馬はルンタ、風の馬、星はポラリスです。 なぜ、風の馬とポラリスが登場するかについては、吉田勘兵衛さんの故郷であり、わたしの故郷兵庫県川西市に隣接する大阪府能勢町が関係します。 吉田勘兵衛さんは京都府亀岡の本梅(ほんめ)にて生まれ、その後間もなく現在の大阪府豊能…
長期滞在者
先駆性!根源性!現在性! 最近の口癖である。 今年に入って多々再認識することがあり(7回以上は)、先週にもその体験が、、、 ひとり池袋駅から家へ帰る時、雨降る空を見ながら、「卑弥呼さんも聖徳太子さんも空海さんも、地球側から天空に顔を向けて思い耽ることをしていたのかな… 時間と空間を超えて似ていることをしている… 間接的にコミュニケーションできてありがたい… いま…
当番ノート 第52期
かつて家には4匹の猫がいて、家族4人がそれぞれ猫を持っていた。 持っていた、というのは持ち物のような意味ではなくて、厳格な父を持つ、とか、素敵な娘さんを持ってしあわせね、とか、そういうふうな意味だ。 同じ屋根の下で暮らす猫なので、家族といえばそうなのだが、ペットとか飼い猫とかというよりは、お互いに馬(猫だけれど)が合う相手を自然と選び、寝食をともにする、といったほうが説明がつきやすい。 父の猫…
スケッチブック
8月2日 日曜日。朝、起きる。パンケーキを焼く。しおにリクエストされたミッキーマウスや、スナフキンの形を作る。いくつか失敗して、私が勝手に名前をつける。着替えて3人で買い物に出かける。1週間分の食料を買い込んで、スーパーの隣の100均で、しおの選んだシールを買う。帰り道に魚がとってもおいしい定食屋さんへ。お店のおかみさんから、大好きないくらをおまけしてもらってしおはご機嫌だ。お勧めされた近所のお花…
長期滞在者
布はフランス語でToile.女性名詞で、トワール、と読む. 自分の部屋を居心地好くするためには労力も時間も惜しまない性分だからか、持ち物が多い.とにかく引っ越しが多いのだけれど、どこの家に移っても、荷ほどきすれば、そこは私色の空間だ.フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、台湾、日本…各地から運び込まれたベッドリネンやクッション、カーテン、タッセル、テーブルクロス、ラグ、大小の花瓶、額縁、絵画やリト…
長期滞在者
8月。私はずっと、日本の夏は喪の季節だと思っていた。日本の歴史的にもそうだし、私の大好きだった祖父母も夏に死んだから。 夏には、蝉の鳴き声や空の色を眺めながら死について考える時間が必ずあった。それが今年はなかなか外に出ないせいか、季節感もないまま時間が過ぎている。何かが欠けている。 けれど欠けていることに違和感を持つのもおかしなことなのかもしれない。常に何かが欠けたまま、世界は動いているから。 た…
Do farmers in the dark
今月はまたも近況と、展示のお知らせしたいだけの内容になってしまいました。すみません。ではよろしくお願いします! 近況 最近は本当に情けない生活。ささいな間違いをたくさんしてしまっている。常に何かにパニくりながらぼんやりしている。 実のところ何ヶ月も前から家族の目を盗んでは、ポータブルゲーム機でほとんど○ボタンを押しっぱなしにしても問題ないようなゲームソフトを遊んでいる。家族の死角、または家族の死角…