イメージの海で #4

第22期(2015年8月-9月)

#4 音とイメージ(1)

眠れないときは羊を数えなさい、と言われる。子供の頃は頑張って数えたが、飽きて目が冴えるばかりで効果があったような気はしない。羊を数える習慣が元はイギリスから来たもので、羊のフワフワしたイメージやのどかな光景、繰り返しによる催眠効果の他に、英語ならではの仕掛けがあると知ったのは大人になってからのことだった。sleepとsheepはよく似た発音のため、one sheep, two sheep..と数えていくことは自分で眠れ、眠れ~と暗示をかけることになるのだという。また、sheeの音が寝息と近いため安らぎの効果も得られる。確かに、シィーとかスゥーといった静かな音は気分を落ち着かせてくれるし、羊が一匹、よりは抵抗が大分少なそうだ。音一つが生み出す効果は大きい。

息の音がもたらす安心感が言葉の壁を越えるように、音から人が感じとるイメージにはある程度普遍性があるようにも思える。例えば演奏記号であるスタッカート(音を切ってはずむ)アンダンテ(歩くような速さで)スラー(音を結びつける)なんかは言葉を知らずとも語感だけで何となく意味が伝わる。
イライラさせる=irritateや、名前=name、それで=soだったりと似た発音の単語も少なからずあって面白い。

日本語の特徴の一つにオノマトペの豊かさが挙げられる。擬音語、擬態語合わせて少なくとも4,000語以上と膨大な数があるが、正しい表現を勉強するというより殆どは慣習的に蓄積されていく。私たちは知らない擬音語や擬態語が使われてもその意味を類推することが出来る。それは多分50音それぞれに色があり、感覚や状態を音から連想することができるからだ。

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具体的に、日本語では音とイメージにどんな結びつきがあるのだろうか。
50音のイメージは5段と10行それぞれの掛け合わせから生まれる。段は母音、行は子音の発音方法でそれぞれの性格が決まってくる。

【段】各段に特徴的な印象を、同じ段の音を重ねるオノマトペから見る。

〈ア段〉・・・開放 (パア、ザア、ワアワア)
〈イ段〉・・・鋭さ、厳しさ。(チョキチョキ、ビシビシ、キビキビ、ギザギザ) それと関連して、痛みを表すキリキリ、ヒリヒリなども
〈ウ段〉・・・受け身、内に込める。ウッ、ムム、と言葉に詰まる。クスクス、フフ、など含みのあるかんじ。「含む」ためムスッと、プクッとむくれる、膨らむ。クルクル、ウズウズなど元気な動作も。
〈エ段〉・・・漏れ出る、下品な。(ヘェー、ゲェー、デレデレ、ゼエゼエ)
〈オ段〉・・・大きさ、包容、穏やかさ。鷹揚な一方オドオド、コソコソなど動揺し気の弱い様子も。落ちる/湧き上がる(ボトボト、ゴロゴロ/モコモコ、コポコポ)

【行】各行に特徴的な印象を、発音の仕方とオノマトペや形容詞、漢字から見る。

〈カ行〉
・無声の破裂音。角のある感じ、乾き、硬さ。固体(カツカツ、コンコン)
・抽象的なかたさにも及ぶ。(ギクシャク、キチンと / 形式、規則、禁止 / 国家、会議、権力など「お堅い」ことにまつわる単語はカ行が多い)
・ククク、やケケケなど音を重ねた笑い声は悪役のもの。ガンとして動かない、キーッと悔しがる、ケッと吐き捨てるなど気の強さ、頑固。
・ケタケタ、キョロキョロなど活発、好奇心。
・悲しい、苦しい、怖いなどマイナスの感情も。

〈サ行〉
・無声の摩擦音。シュン、サッ、刹那などのはやさ。速いということは抵抗のないことでもある(スルスル、サラサラ)この点はナ行と対照的。
・水に関する音が多い。ザアザア、シトシト(雨)、シンシン(雪)、シクシク(涙) →静けさ、湿気、清涼感につながる(しとやか、すっきり)
・息を最も大きく使う行で、発声に息が混じる。そういった「息吹」や「水」の影響か、生、死、心、神、精神、真理、性、信など音読みでは特に神秘的な単語が集中する。

〈タ行〉
・タ、テ、トは無声の破裂音。→タカタカ、トントン、テケテケなど叩く、打ち鳴らす音 / チ、ツは無声の破擦音。
・タラタラ、トポトポ、ツルツル、テカテカなど濡れた感じ。液体(サ行より規模が小さい水で、注ぐ・表面に広がる感じ)
・テチテチ、トコトコ、チョコチョコなど小ささ、幼さ
・たらふく、たんまりなど足りること。

〈ナ行〉
・有声の鼻音。舌を口蓋に当てる時の感覚や音と関連してか、粘り気があるイメージ。(ヌルヌル、ネバネバ、ネットリ) 伸びる。(長い、ニョロニョロ)→このことは遅さにもつながる。(ノウノウ、ノロノロ)この点はサ行と対照的。
・舐める、飲む(口や舌に関係) /滑らか、流れる、塗る、練る/寝る、のんびり/などがこれらの印象と関係している。感情面では泣く、憎い、妬みなど。

〈ハ行〉
・無声の破裂音。カタカナのハと漢字の八はよく似ており、音も末広がりの開放的なイメージと対応している。ハ行はすべて笑い声で、この行の声には緊張と緩和の感情が表れやすい。擬音語や擬態語も発音同様、空気を含んだ感じがある(ハラハラ、フワフワ、ホトホト)
・音を重ねる場合/促音/長音に分けて見ていくと
  ○ハハハは明るい笑い。ハッ、は気づきや驚き。ハァーはため息、暖めるとき。拡大していくと覇や破など、力を解放するイメージ。
  ○ヒヒヒは悪意のある、もしくはひきつった笑い。ヒッ、はひるんだ声。ヒィー、は悲鳴や音を上げるとき。
  ○フフフは含んだ笑いフッ、は鼻で笑う声。フゥーは力を抜く、冷ますとき。
  ○へへへはへつらいや照れの笑い。ヘッ、は予想外のことへの間抜けな声。へェーは感嘆、揶揄。
  ○ホホホは高笑い、女性的な笑い。ホッは安心。ホォーは感心。ホカホカ、ホクホク、ほのぼのなど温かさにつながる。

〈マ行〉
・有声の両唇鼻音。唇を合わせて離すことで発音。とっさに出ない(ンマー、とか ンム、などンが入る)
・丸みのある響きとイメージ。まろやか、まったり。
・ママ、マンマなど子供が発音しやすく、唇(幼児期)との結びつきが強い行で、オノマトペにもムニャムニャ、モジモジ、モシャモシャ、メロメロなどいじらしい様子が表れる。芽、愛でる、萌える
・ミチミチ、モリモリ、モクモクといった満ちてかさが増す感じ。森。

〈ラ行〉
・有声のはじき音。(例外あり) 舌を巻いて叩くことで発音。明瞭な響き。
・和語でラ行から始まる単語はほとんどなく、ほぼ漢語を含む外来語かランラン、リンリン、ルンルンなどの擬音語に当てられている。洋風、楽しげなイメージ。音読みだと理、倫、慮、礼、論など知的な印象も。

〈ヤ行〉
・有声の口蓋接近音。口を狭めて息の通り道をつくる。半母音として「イ」
・優しさ、安らぎ、許し、柔らか、弱さ(ヤンワリ、ユラユラ、ユルユル、ヨタヨタ)
・そのはかなさと紙一重の夢、闇、夜、憂、幽など得体の知れないイメージも。全体的にくっきりした形がない。カ行と対照的。

〈ワ行〉
・有声の両唇接近音。唇を狭めて息の通り道をつくる。半母音として「ウ」
・輪、和、環など、循環やバランスを表す
・ワイワイ、ワハハと笑う。ワは狭めた口から一気に口の中を膨らませる発音であり、明るさや緩和、拡張と結びつく(フワッ、シュワッ)
・わお、とwonderの類似に見られるような驚きや不思議。少し音は違うけれど英語の5Wは「わゐゑを」に近い。

行によるイメージの違いが分かりやすい例を探してみる。例えば、笑顔を表す擬態語ニコニコにはいろんなバリエーションがあり、偶数番目の行に音によってニュアンスが違っている。
ニカニカ(活発な)
ニコニコ(同じカ行だが、ニカニカより落ち着いた)
ニタニタ(べたついた)
ニヘラニヘラ(下品な)
ニマニマ(満足げな)
ニヤニヤ(不敵な)

一方こちらはすべてオ段、偶数番目の音がロで、奇数番めの音によって状態の違いが生まれている。
オロオロ(動揺)
コロコロ(固体が転がる)
ソロソロ(静かな)
トロトロ(粘り気のある)
ノロノロ(遅い)
ホロホロ(空気を含んでほどける)
モロモロ(まとまりが崩れる)
ヨロヨロ(弱った、疲れた)

★擬態語の後ろにつく「リ」は連続性、「ン」は動作の終了や一回性、促音「ッ」はスピードを表す。
クルリクルリ(間を置かず連続)
クルンクルン(一回まわるという動作が続けて行われている)
クルッ(勢いに焦点が当たっている)
そのためあらかじめ連続を前提とした動作、ユラリユラリやソロリソロリには「ン」がつかない。

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一音一音の響きとその組み合わせから、重さや軽さ、温度、触感、味、匂い、見た目などの五感、また感覚に留まらず時間的・空間的な距離までも想起される。それは逆に音の選択ひとつにそれほどの情報を込めることができるということでもある。
こうして挙げたイメージには個人的な印象や恣意的な選択も多く入っているし、厳密に割り振られている訳ではなく科学的な裏付けをとるのはきっと難しい。けれど何となく、自然の音や発音方法から音のイメージが連想によって発展し別の意味合いが生まれていく過程を推測したり、かけ離れたもの同士の音の上での興味深い繋がりを見ることが出来るし、またその個人差や曖昧さこそが豊かな連想を生むのだと思う。