当番ノート 第53期
昨年の話。つい、新規開拓がしたくなったため、近所の居酒屋をふらふら歩きながらお店を探していた。時間も遅かったので、たまたま開いていた居酒屋に入った。3階建ての2階にあって、その上には怪しげなスナックがある。細い螺旋階段をのぼると、お店に着いた。 「こんばんは〜まだやっていますか?」 暖簾をくぐりながらそう言うと、あれ? 返事がない。閉店の片付けをしているのだな、諦めて外に出ようとしたとき、奥の部屋…
当番ノート 第53期
オーディション番組を見ていると、「チャームポイントは笑顔です!」と元気よく言う女の子が本当に多いのだけど、そんな相手に対して心の中でいつも「本当にそれでいいのか?」と問いかけてしまう。 彼女らは歌とダンスでわたしたちを魅了してくれる。と同時に「恋愛禁止」を公約のように掲げて、そのせっかくの武器である笑顔を恋や愛には使用しないらしい。 夢と恋愛を天秤にかける残酷さも知らずに、6歳のきみは「アイドルに…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
わたしがいわゆるひらかれた場を志向したのは、仲間はずれにされることへの原初的な恐怖からくるものだった。 思春期にさしかかったころから同級生のコミュニティになじめなくなった。自分のアイデンティティをふりかえると、わたしはもともと多層にマイノリティである。第一に両性愛者であること、つぎに発達障害をもっていること。物心ついたころから家族でカトリックを信仰しているので宗教的にも日本では少数派であり、おまけ…
当番ノート 第53期
2018年、再び飛行機に乗り遅れた。 飛行機に乗り遅れるのはこれで三度目だった。 最初は高校3年生のとき、大学受験を終えて東京から帰る便だった。宿があった飯田橋から、羽田空港に向かう経路の選択を間違えた。多分、各停とか快速とか急行とかいった電車用語への理解がなかったので、どこかで遅い電車に乗ったのだろう。空港に着いた時には定刻25分前で、保安検査場が締切られていた。 振替の便の席を翌朝に用意しても…
長期滞在者
目の前に憂鬱が漂っていた。そうみてしまう自分の視点と目線があるのか、現実の世界にそんな事象が広がっているのか。感覚に濁りが生じているのだと思う。 淡々とすぎていた毎日。だが、1日の重みはある。十二分にある。 毎月の綴日である13日付近では、今よりも体調が優れていなかったが、今月は特にオト、イミ、ヒト、カチに触れながらつくりだすことのできるアートワークに巡りあえていた。 他者や外界にあるあらゆる事物…
当番ノート 第53期
前回、私が寸借詐欺師と(半ば意図的に)遭遇した話を書いた。私自身が納得したうえでの行動あっても、相手を増長させ、新たな被害を生み出した可能性も否定できないと認識しており、現在は深く反省している。これを「借金」にすべく、次回1000円を回収する決意を心新たにした。 さて、今回も横浜中華街でのできごとについて書かせていただく。薄い鉛筆の殴り書きのような記憶の中、そこだけがくっきり描かれ、彩られた壁画の…
長期滞在者
昨年9月の記事で取り上げたベトナム/カンボジアへの旅の半年後、今度はアメリカを旅した。 アメリカ大統領選が佳境を迎え、全米の地図をテレビで目にすることが多くなったことで、11年前にアメリカを旅した一か月を振り返りたくなった。 <往路> 成田から飛んだのか、羽田から飛んだのか、降り立った空港からどう移動したのかまったく覚えていない。大学は春休みに突入していたが、前日の夜まで終日バイトをしていて機内で…
当番ノート 第53期
2014年、長い長い大学時代を過ごした関西を、就職のため離れ、上京することになった。ただ、別に初めての東京だというわけではなく、学部時代に某省の研究機関(和光市)で研究をする機会があったので、1年くらい和光市と関西を往復する日々を送っていたことがある。研修で訪れた人が宿泊する寮みたいなところにしばらく住んで、気が向いたら西に帰って研究し、タイミングが来たらまた上京。端的に楽しかった、お金ももらえる…
当番ノート 第53期
きみは次の春が来たら、これまでのお友達とはさよならをして、ひとりこの町の小学校へ向かう。わたしの仕事の関係で引っ越し後も上手く転園できなくて、きみは6年間、隣町の保育園に通っていた。そこでたくさんの友達ができて、いつも帰りの車内では「今日は誰と何をしたか」をこと細かに教えてくれた。 みんなとは3月でお別れなのだと説明はしているものの、きみは学校が離れても友達のままだと信じてやまない。その証拠に、「…
当番ノート 第53期
2010年、モスクワ・シェレメーチヴェ空港。 初めての海外旅行で、僕はウィーンへ向かう飛行機への乗り継ぎに失敗した。 幸いにもこの日、同じ理由でモスクワで夜を明かさなければならなくなった人が20人ほどいた。世界各地から集められた20人は、まずホテルのロビーらしい場所に通される。 “トゥゲザー?トゥゲザー?ノー?” いかつい制服の青年が、同じグループっぽい集団ごとに声をかけながら、客の組数を数え歩い…
長期滞在者
スポーツ系の自転車にはフレームサイズというのがあって、同じ種類の自転車でもいくつかの大きさのパターンが用意されている。身長や股下長から割り出した「適正サイズ」の自転車に乗るべきである、といろんな自転車サイトを見ても書いてある。でも僕はこれをあまり信じていなくて、そもそも僕は今乗ってる自転車の前に、今から考えるとえらく小さな自転車に乗っていた。5年もそれを使っていたので今さら「サイズが大事」とかいわ…
長期滞在者
「8ヶ月ぶりです」この言葉を言う機会が多くなってきた。 8ヶ月ぶりに結婚披露宴の司会の仕事をすることができた。8ヶ月ぶりにライブハウスに行ってライブを観ることができた。8ヶ月ぶりにイベントの舞台で司会をすることができた。 少しずつできることが増えてきてはいるが、新型コロナウイルスの影響からは、まだまだ安心できるにはほど遠い状況の10月。私はラジオDJとして、 23周年を迎えた。 ラジオDJとして、…