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2F/当番ノート

La mer

当番ノート 第4期

今日はあまりにも暑い日曜日だったので海に行った。

子供の頃から海に縁がなかった。
両親がそんなに海に行かなかったせいだろう。
自宅から海までは電車か車。結構時間がかかるし、行くならば一大イベントだった。
あげくの果てに、中学校、高校と水泳の授業がなかったのでどうやって泳ぐのかも忘れていった。
日本では大きなプール施設があり、流れるプールだったりウォータースライダーといったような
アトラクション感覚であり、浮き輪も使用していた。
あまり潜らなくていい感じだったから友達と数回訪れた程度。

なんか海って聞くと実感がわかなかったし、正直どうしていいのかわからなかった。
クラシックバレエをやっていたせいもあって日焼けしちゃいけないし。
(たとえ肌が白くても身体に白いファンデーションを塗りまくらなくてはならないけど)

大人になって友達と海に行った時、みんながどうやって過ごしているのかを観察した。
また他の友達が海のそばに住んでいたので、ちょっと私の中で海が近くなった。

そんなある日家族でグアムに行った。
ホテルは海沿いで部屋から一面の海。その下は波がドォーンと押し寄せてくる。
広いベランダからは海しか見えないくらい。波の音が大きく聞こえる。
夜でも波の音が止まらない。

眠れなくてベランダに出てみた。そしたら自分の目の前の海が真っ暗。
手前はちょっと明かりで見えるが、遠くは真っ暗。

なまぬい空気、なまぬるい風。

黒い何かがゴォオオオとうねりをあげている。

海の向こうから何かが私のもの全てを奪い取ってしまうような、
海の向こうから黒い何かが多いかぶさってきそうな。
海に呑み込まれそうでとっさに後ずさりしたのを鮮明に覚えている。

でもそんな事も翌日のエメラルドグリーン色の海を見たらすっかり忘れていた。

そこから船に乗って小さな島に行った。そこでは星の形をした砂があるらしい。
行ってみると完璧な白い砂浜!
足が届く範囲で海で遊んで、星の砂も探しに行って長い時間を過ごした。
そしたら夕方になってじんましんが発生。最初は虫に刺されたのかと思ったら
どんどん大きくなる。そしてお腹にあったじんましんが、足首まで下がり
今度は顔まで上がってきた。時間差で上下に移動するなんて知らなかったし
大きいものは5センチほどまで!完璧に日光によるじんましんだった。
生まれて初めてこんなにひどいじんましんになった。

それからというもの、水着を着て直射日光をあびる事はほとんどなくなっていった。

数年後まさか私が海で有名なマルセイユに住むなんて。
この街は海あっての街。

日本の美白とは正反対。
日焼けはゴージャスさの証。時間さえあれば4月末から日焼けをしに海へ行く。
すでに6月には驚くほどの黒さに!
ヨーロッパではどれだけゆとりのある豊かな時間を過ごせたかが日焼けに現れる。
なので暇さえあれば直射日光を浴びて、ここぞとばかりに日焼けする。

私はいつも白い。
「夏休みはそんなに良くなかったの?」
と聞かれる事もあったくらいだ。

相変わらず海が苦手で、泳がずに訪れる事の方が多かった。
海を遠くから眺める分には大丈夫。
近づくと心の奥がぎゅっと緊張する。
心の底からリラックスなんて到底出来ない。

なんでなんだろう?
どうして海に近づこうとしないのか?
泳げないからか?
慣れていないからか?

何か子供の頃にあったのだろうか?
それとも生まれる前の前世で何かあったのか?(まぁ考え過ぎだろうけど)

潮風は苦手だ。

今急に思い出した。
日本である舞台を見た。少女達の幼さの中の狂気。

みなさんは幼少の頃の事って覚えていますか?
もう覚えてはいないけど幼い時にフタをしてしまったはずの何かが
もやもや溢れ出てきてしまったような
そんな感覚が湧いてきて、見ている間中泣いていた。
心が締め付けられるシーンがたくさんあった。
具体的な記憶ではなくて、もやもやした記憶。

そのもやもやさが海を見ているときの感覚と同じだ。
はっきり思い出せないんだけど、心がざわざわする。

今でも海を見ているとあの感覚がよみがえる。

なまぬい空気、なまぬるい風。
黒い何かがゴォオオオとうねりをあげている。
海の向こうから何かが私のもの全てを奪い取ってしまうような、
海の向こうから黒い何かが多いかぶさってきそうな。
海に呑み込まれそう。

ただ単純にこわい。

でもせっかくマルセイユに住んでるんだから
もうちょっと海を好きになってみようと思うのが2012年のテーマ。
この前日本に帰った時に日傘を持ってきたんだ。
フランスで日傘をさしている人は全くいない。
そんな事は気にせずに、日傘を開きます。

今日は3回泳いだ。17時から19時まで。日の入りが21時なのでこの時間がちょうど良い。
その前だと日差しが強すぎて、じんましんは再発するかもしれない!!
足が届かない岩場で泳ぐといっても数分。魚もたくさん泳いでいる。
ちょっとだけ泳いであとはじっと海を眺めている。
そして何故なのか常に考えている。

浮き輪がつかえたらいいのに。ヨーロッパでは浮き輪を使ってる人はいない。
みんな素敵に泳げている。
正直にうらやましいなぁ。
みんな魚のように泳いでる。

マルセイユの海は美しすぎるほど美しい。
わかっている。
だけどやっぱり心の奥はぎゅっと緊張している。

まずは立ち泳ぎからだ!!!

木下 佳子

木下 佳子

ダンサー。

フランスはマルセイユ国立バレエ団で踊っています。

竹のように強く凛とまっすぐに、時にはしなやかに。

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