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2F/当番ノート

イノシシと豚

当番ノート 第18期

イノシシ肉を製造・販売する上で、学ばなければならないことはたくさんある。

食肉製造や食品衛生、マーケティングだけでなく、狩猟文化や食文化、野生動物の生態や農業被害と対策の現状、外食産業のあれこれ、などなど。

今の私は、知識も経験も足りず「イノシシのプロ」と認めてもらうには、まだまだ勉強が必要だ。

そんな私が最近、関心を向けているのが家畜の世界だ。

私たちの施設に持ち込まれるイノシシの体重は、成獣のみを対象にしても30kgから90kgと、実に様々だ。

成獣の平均体重はわずか40kgほどで、皮や内臓、骨などを除くと、たった16kgほどの肉しか残らない。

一方で、豚の出荷時の平均体重は110kgといわれていて、そこからは50kg以上の肉がとれるらしい。

豚もイノシシも必要な処理行程に差はないのに、一頭あたりから製造できる肉の量は三倍にもなる。

さらに、豚の処理施設では、獣医師免許を持った「と畜検査員」による厳しい検査が義務づけられている。

豚に病気や異変が見つかれば、問題がある部分を即座に廃棄できるシステムだ。

検査員の専門知識に加えて、一日に数百頭、年間で数万頭を検査した経験が、日々の処理技術や検査精度を向上させている。

それに比べ、野生動物の食肉処理には、食品衛生法以外の規制がない。

また、野生動物の捕獲数には限りがあるため、年間に捕獲されるイノシシは数百頭ほどだ。

イノシシの処理頭数としては決して少なくない頭数だが、豚の処理頭数と比べれば、圧倒的な経験不足だ。

だからこそ、安全な獣肉(野生動物の肉)を流通させるためには、製造・販売する私たちが家畜のことを学んでおく必要があると考えている。

今まで、私が野生イノシシの魅力を語ると、配合飼料を食べている家畜が比較され、批難されてしまうことが多かった。

しかし、イノシシやシカなど、獣肉事業の実情を知れば知るほど、家畜とその生産者のおかげで、私たちがこんなにも手軽に肉料理を楽しむことができるのだと、痛感せずにはいられない。

イノシシの不安定な品質や生産量を「自然のものだから」と前向きにとらえてもらえるのも、家畜とその生産に関わるすべての人たちが、安定供給を追求してきてくれたからだ。

長濱 世奈

長濱 世奈

1990年 東京都生まれ。
ゆとり教育のど真ん中を通過し、成熟期を生きる未熟者。
「選り好みしない」をテーマに、コンビニから狩猟まで、食を軸にした生活・文化を勉強しています。
2014年の春、島根に移住し、おおち山くじら事業を立ち上げています。

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