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当番ノート 第37期
最終稿となった。 前回からの引き続きで’別れ’について触れたのち、当番ノートへの寄稿を総括したいなと思う。 出会いがあれば、いつか必ず別れがきてしまう。 気付く気付かないとは別に、だ。 人は、生死の概念から抜け出して永遠を手に入れない限り、別れからは逃れることができないだろう。 出会いは素晴らしいものだ。 別れは哀しいものだ。 出会いと別れが結び付いたものであると考えるなら…
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当番ノート 第37期
作品を作ること これが自分の人生の仕事だと、いつの頃からかそう思うようになった。 作品には名前をつける。 時には文章や、短い詩のようなものを添える時もある。 言葉は、私と演者、作品と観客を繋いでくれる、扉のようなものだと思う。 自分にとって、作品を作るということはどういうことなんだろうと、これまで製作してきた作品のタイトルと、当時書き綴った文章を読み返した。 + 「under my skin」20…
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当番ノート 第37期
私は今、家の近所の小さな公園の、大きな桜の木の下のブランコに座って、カツサンドコッペパンを食べながら、この文章を書いている。風が吹くと、落ちた花びらたちが踊るみたいにころころと走るのが、綺麗。 食べているカツサンドは、さっき、住んでいるアパートのすぐ裏の通りにあるちっちゃなパン屋さんで買った。本当にすぐ近所なのだけれど、初めてパン屋さんがあることに気がついた。いつも何時からやっているんですか?と何…
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当番ノート 第37期
3月5日(月) 業務委託先のオフィスに行って作業をする。今日中に提出しておきたい原稿と企画書の仕上げ、それから担当している動画の進行管理で、指先が爆速で動いて頭の中がグラグラと煮えた。 苦手なことややるべきことはサッサと終わらせて、残った時間で好きなことをする、というのは、うちのお母さんの教育方針で、わたしにもそれが染みついている。月曜日と火曜日に睡眠時間を削って仕事を終わらせててでも、水曜日から…
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当番ノート 第37期
(※本稿は公の場であるいうことを考慮した記述を含みます) さて、この当番ノートも残すところ2稿となった。 読み返してみて、ここ’アパートメント’の’一つの部屋’としてどうだろう、と考えてみると、 特徴的な机とか本棚とかはあるのだけど、床とか壁とか、そもそも広さとかが伝わってこないなと感じた。 いや、もしかしたら感じてくれる人もいるのかもしれないけれど…
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当番ノート 第37期
大切な場所がある。 大阪駅から歩いて15分ほどの場所にある、iTohen(いとへん)という場所。 2006年から4年ほどアルバイトをさせてもらっていた。 大学を卒業して、もう一度他大学に入学することになり、求人誌を見ながら「いろんな人に出会える場所で働きたいな」と思い、ふと、頭に浮かんだ場所がiTohenだった。 大学在学中、他学部の学部棟に行き、気に入ったフライヤーを集め、ギャラリーやイベントを…
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当番ノート 第37期
入院中祖父は宝箱の話をした。 それは、よくあるプラスチックの、書類や小物を入れるような引き出しだった。 そこには、若い頃に2年だけ入隊したという、警察予備隊時代の写真と、その頃を思い出して書いた日記と、その頃に友人からもらった手紙と、父が上京してから祖父に送った手紙と、昔祖母に買った指輪と、いつの間に撮ったのか、遺影用の写真が入っていた。 祖父が亡くなって、私たちはその宝箱を開けた。85年の人生で…
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当番ノート 第37期
2月26日(月) 朝起こしてもらうと、もう7時半になっていた。飛行機が飛ぶの、9時15分なのに! 朝ごはんをかきこんで歯を磨いて荷物をまとめる。名残惜しむ暇もない。 お母さんが車で送ってくれることになって、わたしとお母さんが先に車に乗りこむ。恋人さんだけお父さんに呼び止められて、お父さんは恋人さんに戸籍謄本を渡して、何かを言いながら恋人さんの手を強く握っていた。 恋人さんも車に乗り、お父さんに手を…
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当番ノート 第37期
(いつか伊勢参りに行ったときの写真です) 本稿では、私にとっての青春を共にした人、さとしさんとの再会について書いていく。 前稿の最後に記したように、私はとかく怖かった。 ここ数年間、たびたび去来していた「大切な’何か’を失ったのではないか」という 感覚への答えを、さとしさんは持っていると思っていたからだ。 私は、さとしさんからどう見えるのだろう。 再会を経て、私は、人と人と…
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当番ノート 第37期
2010年10月から2011年9月まで、夫と一緒に、ドイツのベルリンに住んだ。 2度目の大学を卒業する頃「海外で活動したい」という思いが強くなり、卒業した年にワーキングホリデービザを取り渡独。 スタジオを借りて稽古したりレッスンを受けたり、美術館やギャラリー、舞台を鑑賞したり、ドイツ以外の国に旅をした。 友人のFranziskaと街中を走り回って、夫に写真を撮ってもらったり。 Miss Hecke…
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当番ノート 第37期
雨の日の夜に、喫茶店に来る。 雨の日の喫茶店は、とても好き。 雨に濡れない安全なところにいることを感じられるし、元気でいなくても、罪悪感がないから。 喫茶店て少し不思議な場所だなと思う。 それぞれが1人の時間を過ごしに、人がいる場所に来る。一人一人観察したいけれど、あんまりじっとも見られないから、横目にちょっとずつ見る。 カフェオレボウルに入ったたっぷりのカフェオレが運ばれて来る。嬉しい。 喫茶店…
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当番ノート 第37期
2月19日(月) エロデューサーの佐伯ポインティと、ツドイの今井さんと一緒に某たのしい企画の下見で湯河原へ。朝早く起きたのだけど、恋人さんが気持ちよさそうに眠っていたので(と、人のせいにして)5度寝くらいしたら、11時になっていて、化粧もそこそこに駅まで走る。こんなことなら、もっと早く起きればよかったといつも思う。でも気持ちよく眠っていたのだから、それはそれでいいことにする。 駅に着いて乗れる電車…
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当番ノート 第37期
(品川の好きな景色 たまに行ってぼーっとします) 皆さんは’青春’と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。 それは、景色かもしれないし、音楽かもしれないし、部活動かもしれないし、誰かとの出会いかもしれない。 いやいや、齢五十を超え今まさに青春!答えはまだ先だ!なんて場合もあるだろう。 私が今手にした青春は、18歳から20歳の間の2年間であった。 ——…
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当番ノート 第37期
小学5年生の時、私は学校に行っていなかった。 いわゆる不登校である。 時間の感覚って不思議なもので(大人になって小学校の時の机や椅子を見て、すごく小さく感じるように)、今となっては一体どれくらい学校に行っていなかったのかも思い出せない。 担任の先生が家に来てくれたこと。 母とハンバーガーを買って公園に行ったこと。 塾の先生達が本当に面白い人たちで、いつも応援してくれていたこと。 踊るのが楽しくて仕…
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当番ノート 第37期
私の名前は、睦海、という。 海の字がついているけれど、生まれは、那須連峰がきれいに見える、田んぼと果樹園の広がるところ。海には何の縁もなく、親近感も持たずに育った。自分の半分は海のはずなのに、私は海を全然知らない。海ってどんなものだろう。そんなことが、なんだか忍びないような気持ちがして、子どもの頃から、もやっと、引っかかっていた。 二十歳の時、きれいな海を見るために、旅をした。 きれいな海は南だろ…
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当番ノート 第37期
2月12日(月) 朝起きて「お腹空いた」と呟くと、恋人さんが起き出してカルボナーラを作ってくれた。恋人さんはイタリアンレストランで少しだけバイトをしたことがあったことや、カルボナーラづくりにハマって、365日中347日くらいカルボナーラをつくった時期があったので、恋人さんがつくるカルボナーラは天才的においしい。昨日の夜から泊まっていたお母さんと一緒にカルボナーラをすする。瓶のケースの半分くらい使っ…
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当番ノート 第37期
(お気に入りの画像です) 大学浪人生だったとき、私は小説を書き始めた。 完全なる自己満足だったけれど、書かずには居られなかった。 以来10年間、私は何かあるごとに文章を自分勝手に書いてる。 僭越ながら分類分けをするならば、エッセイであったり、ファンタジーであったり、私小説であったり。 特に、心が落ち着いていなかった時期は毎日のように書いていた。 現在のファイル数でいえば、ざっと数えて300ほど。 …
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当番ノート 第37期
いま、ここで、どうなるのか。どうするのか。 毎日、そんなことを考えている。 6歳からクラシックバレエを習っていた。 初めて発表会で踊ったのは「おもちゃの兵隊さん」と「おもちゃのチャチャチャ」。 踊るのは好きだったけど、恥ずかしさと緊張で、いつも仏頂面で踊っていた。 小さい頃のひとり遊びはバレエの先生ごっこ。 母がピアノの先生だったこともあり、家には音楽CDがたくさんあった。 その中から好きな音楽や…
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当番ノート 第37期
時計の秒針の音。 冷蔵庫のモーター音。 1人で眠る部屋は、いやに静かで、そんな音が、時折大きく聞こえる。 電気を点けたまま、目を閉じる。 いつの頃からか、1人の時には明かりを点けたまま眠るのが、当たり前になってしまった。 一生こうするとすると、電気代、どれだけかかるんだろう、か。いつかはこの癖、やめなければ。 寝る時には近くに誰かがいるといい、と思う。 思い返せば、子どもの頃から、1人で寝るのが苦…
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当番ノート 第37期
2月5日(月) 朝10時から久しぶりのクライアントワークの取材で浜松町へ。そのクライアントさんとは何回かお仕事をさせてもらっていたのだけど、久しぶりにお目にかかるなぁと思って、考えてみたら1年ぶりだった。春みたいに温かい気候で薄着をしてきたのに、また数日後には大寒波が来るみたいですよと編集者さんが言う。この季節は本当に思わせぶりだ。 小さな店舗にお邪魔する取材だったのだけど、思ったよりもスペースが…
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当番ノート 第37期
(家近くのにて。もうすぐ桜が一面に広がるのです。) 前回の続きとして、本稿では再会について書いていこうと思う。 再会を通して、私は出会いよりも多くのことを学んだ。 もちろん、意識して再会していることが大きな因果として存在しているはずだが、なんというか、 様々なことがよりリアリティを持って自分に届いている感覚だ。 それは年齢が関係しているのか、自分が変わったからなのか、それとも・・・ —…
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当番ノート 第37期
「息を合わせる」という言葉がある。 例えば、誰かと踊る時に、お互いを意識し合いながら、タイミングを合わせたりずらしたりして踊るということ。 音楽を演奏したり、言葉を話す時、そして普段の生活の中にも通じている、からだと言葉。 同じ流れやリズムをからだの中に持つことで、同調させていく。 人だけでなく、音楽や空間そのものとも交わっていく。その逆も然り。 「息」に関する考察って、面白い。 + 先日の稽古で…
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当番ノート 第37期
故郷のことを思い出すことが増えた。 とくにアパートメントで文章を書くことになってから、何を書こうか、と考えるとき、何度も故郷の風景が浮かぶ。 でも、故郷の、何が書きたいのだろう。 天井に貼られた星座表。自分を宇宙人だと語った父の小話。毎日犬と歩いた散歩道。何でもない朝ごはんの風景。はげしい兄弟喧嘩。夏休みのプールとキッズウォー。 とめどなく、色んな風景が浮かんでは消え、どれに、どんな言葉を添えたら…
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当番ノート 第37期
1月29日(月) 昨日の夜は楽しくて、おまけに手酌でウイスキーを飲んでいたものだから、だいぶ酔っ払ってしまったみたいで、現実に戻るまで記憶の糸を辿ろうとするけれど、途中で糸がぜんぶ切れてしまっているようで、恋人さんを揺り起こして、わたし大丈夫かな、と聞いた。恋人さんは「えーっ、覚えてないの?」と笑っていたけれど、案外にたぶん、大丈夫だったらしい。 1人暮らしのときは飲みまくった次の日はだいたい記憶…
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当番ノート 第37期
「大人」と聞くと、皆さまは何を思い浮かべるだろうか。 大学生のころの私は、自然と「大人の条件」や「大人とは」みたいなものを次々と連想してしまっていた。 仕事、自律、温厚、自由、制限、諦念、幸福・・・ 考えれば考えるほど混迷していく思考の繰り返しだから、逃げたい一心であったが、 そうは言っても迫りくる自分の大人世代に向けて時間は容赦なく進むわけで。 今振り返れば、私は「モデル」を持っていなかったのだ…
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当番ノート 第37期
からだって、建物みたいだなあと思う。 骨組みとはよく言ったもので、例えば立ち上がった時、足の裏が一番底辺にあって、二本の足は股関節から骨盤を拠点に一本の背骨となり、そのてっぺんに頭が乗っかかる。 私の足の大きさは23.5センチ。 二つの足の裏で自重を支えてバランスをとっているんだから、こりゃすごい。 からだは私が知らないうちに、多くの仕事をしてくれている。 感覚と身体運動について考える。 数年前に…
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当番ノート 第37期
久しぶりの東京の雪の日 その日は夕方から少し用事があって、夜家に帰ってくると、それから特にすることもなくて、だけれどなんだか気持ちが落ち着かなくって、眠れなかった。 そり滑りがしたいな、ちょうど良さそうな坂、近くにあるな、あーっ、この間段ボール捨てちゃったやー、と半分本気で後悔なんかしたりしていた。でも、ほんとはそり滑りする勇気、持っていなくて、それが悔しい。 でも、雪がある。早くしないと、雪が溶…
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当番ノート 第37期
1月22日(月) 朝イチで猫の病院に行く。病院に向かう途中で、ペルシャ婦人とすれ違った。ペルシャ婦人も猫を連れていて、通院の帰りらしい。高めのか細い声で「何かあったら言うのよ」と言ってくれるペルシャ猫に似た品の良い夫人はジブリ感がある。 ペルシャ婦人が紹介してくれた病院で診察を待つ。クールな女医さんが出てきて、くしゃみちゃんを撫でると、くしゃみちゃんはゴロゴロ言い始めた。「あーっ、これ!このゴロゴ…
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当番ノート 第37期
人との出会いには ‘色’ や ‘形’ がある、と思う。 その人がくれる色を、自分というキャンパスにどう落とすか。 または、もらった形をどう解釈するか、どう役立てるか。 それは、その人との関わり方や密度やインパクトによって変わってくるのだけれど。 本稿では、出会いが生んだ出会い、とも言うべきか、ある二人との出会いについて、書いていこうと思う。 R…
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当番ノート 第37期
近くにあって遠い、仄かに気になる存在。 それが私にとっての「言葉」である。 大学生の頃から、ダンス作品をつくるようになった。 それは、まだ形になっていない、けむりのような思考や想像を言語・身体化し、ダンサー、舞台美術家、音楽家、舞台のスタッフなど、関わってくれる人に対して伝えるという作業だ。 具体的に動きを「こうやってください」と見せ模倣してもらったり、手や身体を用いて身体感覚を伝えたり、時には「…
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当番ノート 第37期
ここで、文章を書くことになりました。 しかしながら、私、文章、苦手。 言葉にすることが、苦手。 もともと、私は話すこともとても苦手でした。幼稚園から中学校までは、同級生は40人くらい、ずっと同じメンバーで過ごしたためか、その子たちとは仲良くやっていたけれど、というかそっちではむしろおちゃらけキャラで通っていた気がするのだけれど、新しく人間関係を築く、ということが本当に不慣れで、内弁慶な、極度の人見…
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当番ノート 第37期
1月15日(月) プライベートで2件の約束と会議があった。週のはじめのほうしか体力が持たないので、はりきって予定を詰め込んだ。プライベートの約束の1つめは憧れていた作家さんと、2つめは大学時代の同級生の子と。2人ともずっと気にはなっていたけれど話す機会が持てなかった女性”で、何だかおさななじみと話しているような気持ちになった。また定期的に会いたいな。 恋愛の話もした。昨日で恋人さんと付き合い始めて…
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当番ノート 第37期
初めまして。小峰と申します。 本稿を初回に、2ヵ月間こちらに寄稿していきます。 よろしくお願いします。 —— この当番ノートへ寄稿を併せて、「出会い」を中心に文章を書いていこうと思う。 「出会い」と聞いて、読者の皆様には、何が思い浮かぶのだろうか。 人?モノ?見えないもの?・・・気になるところである。 私はやはり、「人との出会い」が初めに浮かぶ。 思い返しても取るに足らない…
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当番ノート 第37期
長野県松本市のほど近く。 大きな山々に囲まれた、静かな町。 山からごうごうと流れてくる水の音、石畳の道、夏はスイカ畑の農家の方がかけているラジオの音が聞こえる。 そして冬はとても、寒い。 夫の実家に帰省すると、二人でよく散歩に出かける。 雪がたくさん降った、数年前の冬。 積もる雪を踏みしめながら、その町にある古い神社へ歩いた。 静寂の中、まさに「しんしん」と降る雪。 耳の奥が震える。 雪の粒が地面…