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2F/当番ノート

ハッピーエンドで終わらない

当番ノート 第40期

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ハッピーエンドがいい。

めでたしめでたし、とか、その後2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、とか。

そんなふうに終わる物語なら、私は「シンデレラ」が一番好き。別にお姫様になりたいわけでも、今の暮らしに手を差し伸べてくれる白馬の王子と出逢いたい訳でもないけれど、わかりやすく幸せだし、何よりガラスの靴というモチーフが好きだ。

わたしはまだ20年とおまけの4年くらいしか生きていないけれど、それでも「めでたしめでたし」で区切っていいような瞬間が何度かあった。

たとえば小さい頃に出た将棋大会で優勝した時だとか、死に物狂いで勉強して大学に受かった時だとか、はたまた苦労して女流棋士になった時とか。

物語ならハッピーエンドで、そこから続くことは無い。だけれど、私はその後も生きなくてはいけないので、とりあえずその後を生きている。

ハッピーエンドなんて、体感すると1秒くらいのものだ。「その後私はずっと幸せに暮らしましたとさ」なんてならない。むしろ「これまで目指してきたエンディングを迎えてしまって手持ち無沙汰な私」だったり「いざハッピーエンドを迎えてみたら、そんなもんかなと思って拍子抜けしてる私」が物語からぽつんと放り出されてしまって、ぽっかりと穴が空いたようになっている。

それでもハッピーエンドがいいなぁ、と思ってしまうのは、わかりやすく幸せになりたいからなのかもしれない。ガラスの靴は、まだ履けない。

山口絵美菜

山口絵美菜

女流棋士、ライター、観戦記者、造形作家
1994年、宮崎県出身。
2005年 将棋と出逢い、女流棋士になることを決意。
2013年 京都大学文学部入学
2014年 女流棋士デビュー
2017年 京都大学文学部卒業
2018年 造形作家デビュー、オリジナルキャラクター「平家駒音」をプロデュース(Twitter:@HirakeGomao)

Reviewed by
大沢 寛

幸せの度合いは人さまざまで、その感じ方もまた人それぞれだ。

僕にとっての幸せとは、仕事を終えて家に帰り、缶ビールを2本飲んで「今日も1日、何事もなくいつも通りに過ごせた」と日々思えることである。

しかしよくよく考えてみると、日々そのように思いながらも翌朝起きればまた同じ生活が繰り返されるわけで、我々の生活というものは、ルーティンの繰り返しの中でいかに幸福を見出すか、ということにもつながってくるように思える。

人間の営みをデフォルメした物語や小説は、その結末がハッピーエンドや悲しいものになったりするのだが、私たちの生活はずっと続いていくのである。

ところで将棋。
将棋でのハッピーエンドは、対局で勝利を収めることなのだろうが、勝利の余韻というのはどのぐらい続くのであろうか。ひとつ対局を終えると、すぐに次の対戦のことを視野に入れて新しいことを考えていくものだのだろうか。棋士のひとにとっての幸せについて考えてみるのもまた興味深い。

山口さんには、女流棋士・造形作家・ライターと、さまざまな「顔」がある。そうした中で、この「アパートメント」で私たちに見せてくれる顔はプライベートな「素顔」なのではないかと思う。「素顔」の山口さんにとっての幸せが、これから先たくさんふりそそぐことを願ってやまない。

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