当番ノート 第56期
7 凪子の男(前編) 凪子について語ろうとする時、俺は、胸が苦しくなる。この苦しいという感情は、付き合えば消えるだろうと思っていた。でも、むしろ、苦しみは募ってゆくばかりだ。今の俺は、凪子を繋ぎ止めることに必死で、凪子以外のことがどうでもよく思える。これはちょっとマズい状況だ。恋愛も青春も友情も成績もそこそこ。それが本来あるべき俺の姿。今じゃ恋愛以外が全部抜け落ちてる。これはマズい状況だ。 …
当番ノート 第56期
小さなころから、家の中にはいつもピンと緊張の糸が張っていた。今はもう亡くなってしまって居ないのだが、一緒に暮らしていた重度障害を持つ伯母が体調を崩すたび、祖母や母の顔に映る疲労の色は濃くなった。家がどれだけ大変でも、幼い私はただオロオロ見ているしかなくて、いつしか私の頑張りが足りないからこんなに家が大変なんじゃないだろうかという罪悪感に襲われるようになった。しんどそうな家族の気持ちが度々私の体に流…
当番ノート 第56期
この「Air」は、「エアー」じゃなくて「アリア」である。さて、エヴァにちなんでタイトルを付け続けているが、今回ばかりは特に何の意味もない。何も考えずに、タイトルだけを決めてしまった。後付け、コジツケ、なんとか。アリア、すなわち「G線上のアリア」である。G、すなわち「Ground」である。「地上のアリア」である。早速、何を言っているのだろうか。 少々血迷っているが、グラウンド上のアリアなので、無理や…
当番ノート 第56期
僕の中にあるのは、凪子の思い出なのです。 凪子はときどき、写真を撮ります。彼女は使い捨てのフィルムカメラを持っていて(要するに、それが僕なのですが)、そのカメラをいつも持ち歩いているのです。使い捨てカメラはすごいです。フィルムというだけで味が出るので、凪子のようなド素人が撮影しても、それなりに趣のある素敵な写真になってしまうのです。例えば、日陰だったり、逆光だったり、室内だったりで被写体を撮る…
当番ノート 第56期
4月から、ベランダに沢山日が差し込むようになった。寒い間押し黙っていた植木達がぐっと伸びをして思い思いに伸び始め、柔らかい新芽がにょきにょき顔を出している。病気になってから植木を育てることが趣味になった。多肉植物、サボテン、エアープランツ、バナナの苗、ハーブ、ビカクシダ(熱帯のシダの一種で葉っぱがかっこいい)、オージープランツ(オーストラリアや南アフリカ産の植物。ドライフラワーにアレンジしやすい)…
当番ノート 第56期
緊急事態宣言下。ゴールデンウィークらしいが、金色にしては随分とくすんでいる。仕方ないけど、外には出づらい。きっと、地面も賑わってないはず。 地面は、人の動きに合わせて変化することが多いから、こうして外出が制限されると変化が途切れる。しかし、一方で前回書いたように雨風の影響を受けて自然に変化する地面もある。人の動きが制限される状況だからこそ見える地面もある。それを見付けに散歩に出るのもまた一興である…
当番ノート 第56期
5 凪子のブラジャー わたしは凪子の胸を締め付ける。凪子の、大きくも小さくもない胸を。そう。凪子の胸は大きくも小さくもない。エロいとか、デカいとかいうわけでもなく、言うなれば、カワイイ、という感じだろうか。凪子の胸はCカップで、真っ白で、やわらかい。総じてカワイイ。 凪子の胸を締め付けているとき、わたしは、凪子を守っている気分になる。彼女は世の中のいろいろなものから狙われていて(特に、男か…
当番ノート 第56期
モネは、私が手をひらひらさせるといつも嬉しそうにしっぽを振り、手の下にやってくる。そのまま腰やお尻、首を撫でていると、体をくねくねさせ、猫のように私の足に体を擦り付けてくる。いい子、いい子、可愛いね、と言いながら、座り込んで背中を撫でてやると、モネは私に背中を向けて足の間に座りこみ、背中のマッサージを要求する。そのまま念入りに首から背中にかけて、皮膚を軽くつまむように撫でてあげていると、目をとろん…
当番ノート 第56期
毎朝、起きたら「知っている天井」がある。一方で、下に広がっているのは「知らない地面」。知らない、というか、毎日変わり続ける「地面」がある。今日の地面も、明日の地面も、私たちはまだ知らない。 そんな地面に現れる、私たちの想像できる範囲を逸脱した「使徒」の存在。地面に”襲来”する「使徒」こそが今回のテーマである。 ハイ、また何を言っているのか全然分からないので丁〜寧〜に掘り下げる。いつもス…
当番ノート 第56期
4 凪子のコンタクト 僕の見ている世界は、要するに、凪子が見ている世界だ。それ以上でも、それ以下でもない。だって僕は、凪子のコンタクトなのだから。凪子が朝、僕を目に入れて、夜、外すまで、僕はずっと、凪子の世界を見ている。 凪子は美しいけれど、彼女の見ている世界は、何もかも美しいわけではない。汚いものもたくさん見る。道端に吐き捨ててあるガムだったり、裏路地を埋め尽くすゴミだったり、そのゴミに…
当番ノート 第56期
今日は朝から雨が降っている。私は雨の日がとても苦手だ。重くどんよりした空気が体の中に入り込み、体がだるくて仕方がない。まるで自分が、緩く絞った水の滴る雑巾になったよう。体の痛みや頭痛もいつもの3割増し。カーテンからちらりと見える灰色の空は私の気分も曇らせて、頭がいつもよりずっと働かない。今、この行まで書くのにも、何度も何度も書いたり消したりを繰り返している。 この病を患ってから、雨の日に限らず、い…
当番ノート 第56期
「紺野純子」という昭和アイドルを知っているだろうか。 2期が始まった「ゾンビランドサガR」に登場するゾンビィアイドルである。「ここの純子ちゃんのイケボ興奮する」というスラングそのまんまに、録画した1話を何度も巻き戻し「粘っていこう Never give up again」と歌っている箇所をリプレイしているのは、地面の変態・フチダフチコである。 さて、いつも「エヴァ」だの「サガ」だの脈絡のない話から…