「なんでそんな危ない国に行くの?」
「そんなことをして何になるというの?」
私がUNHCRを通して難民支援活動を始めてから、何度も言われてきた言葉だ。
「難民? なんだか難しそうでよくわからない。」
「遠い国のことを心配するより、自分の国のことでしょう?」
そのたびに、丁寧に今世界で何が起きているかということを伝えてきた。
もっと関心を持って欲しい、知って欲しいとずっと思って、私は今日まで15年近く活動を続けてきた。
その間に2011年のシリアで起きた紛争などにより、自分の国を逃れる人が急増。
私の周りでも難民問題に関心を持つ人が増えてきた。
世界難民の日(6月20日)に合わせて発表される、故郷を追われた人たちの数は、毎年増え続けている。
2022年2月24日。
この数年恒例となっている、世田谷区の小学校にて、小学6年生に将来の仕事について考える授業の講師を担当した。昨年は新型コロナウイルスの影響でリモートでの授業になったのだが、今年は対面での授業を予定していた。しかしオミクロン株の蔓延により、本年もリモートで子供たちに授業を行った。
この授業で私は、国連UNHCR協会、広報委員として世界の難民問題を伝えた。
2020年末時点で、紛争や迫害により故郷を追われた人の数は、8240万人。
第二次世界大戦以降、最も多い数字だということを伝え、そして、ウクライナの情勢によって、今この瞬間にも家を追われている人の数は増えているかもしれないと話した。
授業が終わって数分後、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した。
そして、あっという間に、ウクライナから多くの人たちが避難しなければならない現実が起きている。
このアルバムの世界のような現実を生きるとは思わなかった。
1987年にデビューし、1992年に解散した日本のロックバンド、GRASS VALLEY。
今年デビュー35周年を迎える彼らの音源のサブスクリプション型音楽配信サービスが、2022年2月26日から配信が開始された。
私がGRASS VALLEYのライブを初めて観たのは、1990年9月19日。会場はNHKホール。当時、高校1年生、15歳だった。1990年5月21日に発売された通算5枚目のアルバム『瓦礫の街〜SEEK FOR LOVE』が好きで、私が観たライブはこのアルバムツアーのファイナル公演。ライブを見てさらにGRASS VALLEYというバンドが好きになり、過去のアルバムも全て買い、夢中になって聴いた。GRASS VALLEは私の音楽人生でとても大切なバンドだ。
アルバム『瓦礫の街〜SEEK FOR LOVE』はコンセプトアルバム。壮大な世界観とストーリー性。スタイリッシュでクールな音使い。何より、ヴォーカル出口雅之の唯一無二の歌声に魅かれて、私が15歳のときから今に至るまで、人生で最も聴いたアルバムと言っても過言ではない。
このアルバムの舞台は地球なのか見知らぬ星なのかはわからないが、戦いが起きていることだけは、確かだ。
ただならぬ気配を感じる「原始と未来〜プロローグ〜」のインストゥルメンタルから幕を開け、「THE VOICES OF FATHER(血を流さない神の声」」ではこのように歌い出される。
「高い天窓が炎を映し
真夜中 一瞬の爆音に震える
In Fire 燃え上がる樹海の中は
愛する街がただ崩れてゆく 粉々に」
アルバムを最初に聴いた15歳の私は、このアルバムで描かれた世界を映画のように感じていた。
歌詞と音が生み出す楽曲の深みのある世界にどっぷりと浸っていた。戦火の中でも決してあきらめない未来。愛するひとへのかけがえのない思い。夢を、愛を信じて生きる、楽曲の登場人物たちに想いを馳せた。そして、それはあくまでも空想の世界の物語だと思っていた。
しかし、私が難民支援に関わるようになってからここ数年、この歌詞を聴いていて、ぞっとするような思いに駆られた。
「焼け出された僕等は走る
岸辺に浮かぶ船に乗る
紅く染まった海に涙残し
誰かに支配される 小さな島よ さよなら」
今の私がこの歌詞を聴いていて思い浮かぶのは、自分の国で支配者による争いが起き、住み慣れた家から逃れざるをえなかった人たちの姿だった。
世界で深刻なできごとが起こると、私は家の中のパソコンの画面で、アルジャジーラの生放送をつけっぱなしにしている。常にウクライナの緊迫した様子が中継され、インターネットには、攻撃で破壊された建物や傷ついた人たち、避難する人たちの映像や写真が次々にアップされていく。
それらのニュースを見ているときに、GRASS VALLEYの音源のサブスク解禁の情報が届き、私は真っ先にアルバム『瓦礫の街〜SEEK FOR LOVE』を聴いた。
まるでこのアルバムは未来を予言していたかのように感じてしまった。
この音世界で歌われている情景は、今まさに、現実で起きている。
こんな現実が来るなんて思わなかった。
このアルバムを夢中になって聴いていたあの頃の私は、未来はもっと幸せだと思っていた。
アルバムのラストの曲「瓦礫の詩人」の前に収録されている、「原始と未来〜エピローグ〜」の歌詞が一際胸に響いた。
「神よ 僕達の行く先に暗闇を置かないでください」
ウイルスや自然災害といった人間の力ではどうにもならないことで世界が苦しんでいるときに、
人間同士の争いが起きることが、あまりにも愚かだ。
これ以上何の罪もない人たちが家を追われ、平和を脅かされることが起きるのは、本当にダメだ。
私は戦争に強く反対する。
【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜17秒”に乗せて)
私の音楽人生に欠かせない大好きなバンド、GRASS VALLEY。
1990年のアルバム『瓦礫の街〜SEEK FOR LOVE』に収録されたこの曲は、今、世界に起きている戦争を思わずにはいられません。どんなに恐ろしい戦いの中にいても、希望だけは手放さずに旅立つこの歌。
GRASS VALLEY「THE VOICES OF FATHER(血を流さない神の声)」